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Cat's Whiskers  作者: 七日
34/53

第三十二話:牢獄の博士

静寂。

サーバーの低い駆動音だけが、響いている。

カミーユは、ハンドガンの銃口を向けたまま、目の前の痩せた男――エリアス・コーエン博士を、冷静に観察していた。

「君は、誰だ?バスティオンの人間ではないな」

博士が、かすれた声で尋ねる。

「なぜ、ここが分かった?」

「『プロトコル・ラザロ』を追ってきた」

カミーユは、短く答えた。

その言葉を聞いた瞬間、博士の顔から、血の気が引いた。

「ラザロ……。まだ、あの呪われた名前が、亡霊のように、この世を彷徨っていたとはな」

彼は、全てを諦めたように、力なく笑った。

「あれは、私が創り出した、最大の過ちだ。バスティオンは、それを、AIの軍団を作るために使おうとしている。私は、それを拒んだ。だから、10年間、ここで、飼い殺しにされている」

「どうすれば起動できる」

カミーユは、彼の感傷を、単刀直入な質問で断ち切った。

博士は、カミーユの目を、驚いたように見つめた。

「……起動? 正気かね? あれを起動させるには、二つのものが……」

博士が、その言葉を言い終える前に。

アーカイブ全体に、それまでの低い駆動音とは異質な、冷たい、人間の声が響き渡った。スピーカーからだ。

「―――侵入者へ。お前の存在は、すでに確認されている」

カミーユの全身の筋肉が、一瞬で、戦闘態勢へと切り替わる。

「我々の『資産』に手を出さず、速やかに武器を捨てて投降せよ。抵抗は、無意味だ。この区画は、すでに、完全に封鎖した」

その言葉を証明するように、遠く、カミーユが通ってきた通路の方向から、[ゴオオオオン!]という、分厚いブラストドアが、何重にも、閉鎖されていく、絶望的な音が響いてきた。

「もう、終わりだ」

博士が、力なく呟いた。「君だけでも、逃げなさい。私には、もう、どこにも……」

カミーユは、博士の言葉を、遮った。

彼女は、ハンドガンをしまい、代わりに、腰のシース(鞘)から、スティンガーを、静かに抜き放った。

そして、絶望に顔を歪める博士を、その感情のない瞳で、真っ直ぐに見据えた。

「博士。あんたを、ここから連れ出す」

「何を言っているんだね!?不可能だ!」

「やるしかない」

カミーユは、短く、言い放った。

その言葉と同時に、閉鎖されたブラストドアの向こうから、複数の、重い、重い、軍靴の足音が、急速に、近づいてくるのが聞こえ始めた。

ジグラットの、本当の地獄の蓋が、今、開かれたのだ。

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