第三十話:連鎖爆発
危険な赤い光が、破壊されたミサイルポッドの亀裂から溢れ出す。暴走したエネルギーが臨界点に達するまで、コンマ数秒。
その、死ぬほど長い時間の感覚の中で。
爆発の兆候を肌で感じ取ったカミーユは、思考するより速く、バラージの背中を最後の足場として強く蹴った。
直後、カミーユの背後で、偽りの太陽が生まれたかのような閃光が弾けた。
一つの爆発が、隣接するミサイルの誘爆を招き、鋼鉄の嵐がバラージの上半身を内側から食い破っていく。轟音と衝撃波が、カミーユの身体を紙切れのように廊下の奥へと吹き飛ばした。
「――ッ!」
受け身を取る間もなく、カミーユの身体は廊下の端にある隔壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちた。
銀色の耐熱服は黒く焼け焦げ、あちこちが裂けている。視界は白く飛び、耳の奥で、キーン、という甲高い音が鳴り響いていた。
『カミーユ!応答して!カミーユ!』
ノイズまみれのアヤの絶叫が、通信機から聞こえる。
『……よかった、バイタルは安定してる…!無茶苦茶だよ、あんた…!』
カミーユは、咳き込みながら、ゆっくりと身体を起こした。
廊下は、爆炎と黒煙、そして溶解し赤熱した金属の残骸が散らばる、地獄のような光景に変わっていた。
そして、その中心には。
上半身を完全に吹き飛ばされ、下半身だけが辛うじて原形を留めている、バラージの残骸があった。赤いモノアイは、もう光を発することはない。
ランカーは、沈黙した。
だが、勝利を味わう時間は、一瞬もなかった。
カミーユをこの場所に閉じ込めていた前後の隔壁が、重い音を立てて上昇を始めたのだ。
『まずいよ、カミーユ! バラージの生命反応の消失をトリガーに、ジグラット全体が最高レベルの警戒態勢に入った!全セクターから、鎮圧部隊がここに向かってくる!』
カミーユは、痛む身体に鞭打ち、ふらつきながらも立ち上がった。
バラージが現れた、通路の奥の開いたままのブラストドアを見据える。もう、後戻りはできない。進むしかない。
「……アヤ」
カミーユの声は、ひどく掠れていた。
「一番近い、中央サーバーへのルートは」
『……分かった!すぐに表示する!』
アヤの覚悟を決めた声が響く。
カミーユのひび割れたゴーグルの内側に、新しい最短ルートを示す青いラインが投影された。それは、バラージがいた闇の奥へと、まっすぐに伸びていた。
ジグラットの全ての兵力が、この場所に集結しつつある。
本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。




