第二十九話:鋼の嵐
無数のミサイルが、尾を引きながら迫り来る。
それは、回避という概念を無意味にする、絶対的な死の弾幕だった。廊下のどこに逃げようと、数発は必ずその身を捉えるだろう。
絶望的な状況。だが、カミーユの思考は、コンマ一秒の狂いもなく、最適解を弾き出していた。
ミサイルが着弾する、その直前。
カミーユはアルバレッテの銃口を、バラージではなく、床に転がるサイボーグの、最も分厚い胸部装甲に向けた。
狙うは、敵ではない。ただ、即席の「壁」を作り出すため。
パイルバンカー・ボルトが炸裂し、運動エネルギーの塊となって装甲板に激突する。凄まじい衝撃が、数百キロはあろうかという鋼鉄の塊を、床から数メートルも吹き飛ばした。
――そして、その鋼鉄の盾の背後に、カミーユは身を滑り込ませた。
次の瞬間、ミサイルの嵐が、その場しのぎの盾に殺到した。
ドゴオオオオオオォォン!!
鼓膜が張り裂けんばかりの轟音が廊下を揺るがし、閃光が全てを白く染め上げる。サイボーグの装甲は、凄まじい爆圧によって無残に砕け散り、その破片が嵐となってカミーユの全身を叩いた。
「……っぐ…!」
衝撃波に吹き飛ばされ、カミーユは壁に強く身体を打ち付ける。耐熱服が軋み、視界が明滅した。だが、致命傷は避けた。即席の盾が、爆発の指向性をわずかに逸らしてくれたのだ。
廊下は、爆炎と黒煙、そして舞い上がる粉塵で満たされていた。視界はほぼゼロに近い。
『カミーユ、生きてる!? よかった……!』
アヤの安堵の声が、耳鳴りの中でかろうじて聞こえる。
『バラージも煙でこっちを見失ってる!センサーも一時的に麻痺してるはずだ!今が最大のチャンスだよ!』
カミーユは、痛む身体に鞭打って立ち上がった。
アヤが視界に投影する、バラージの赤いシルエットだけを頼りに、煙の中を駆ける。
バラージは、無意味にプラズマキャノンを乱射し、周囲の煙を薙ぎ払おうとしていた。だが、その動きは鈍い。
煙を突き抜け、カミーユは巨体の側面に躍り出た。
バラージのモノアイが、ようやくカミーユの姿を捉える。だが、あまりにも近すぎた。その巨体では、この至近距離では、もう対応できない。
カミーユは、バラージの分厚い脚の装甲を蹴って、その背中へと駆け上がった。狙うは、先ほどミサイルを吐き出した、巨大なポッドの付け根。
スティンガーの超硬質ブレードを、装甲の継ぎ目に突き立て、こじ開けるようにして、メンテナンス用の小さなハッチを破壊した。
剥き出しになった、内部の動力ケーブルと、ミサイルの装填システム。
そこに、カミーユは、最後のパイルバンカー・ボルトを装填したアルバレッテの銃口を、ゼロ距離で押し付けた。
「終わりだ」
引き金が引かれる。
パイルバンカーが、ミサイルポッドの内部機構を、根こそぎ破壊した。
甲高い異音の後、一瞬の沈黙が訪れる。
そして、破壊されたポッドの内部から、危険な赤い光が漏れ出し始めた。
それは、暴走するエネルギーの輝きだった。




