第二十八話:鋼鉄の決闘
警報の絶叫だけが響く、封鎖された廊下。
カミーユは、身を低くしてアルバレッテを構えた。対峙するは、ランカー『バラージ』。その巨体は、それ自体が絶望の象徴のようだった。
沈黙を破ったのは、バラージだった。
彼の右腕、プラズマキャノンの砲口に、眩い光が渦を巻いて収束していく。ゴオオ、と空気が唸るような、不吉なチャージ音。
次の瞬間、灼熱の光弾が、空気を引き裂きながらカミーユに迫った。
カミーユは、発射と同時に床を蹴っていた。
身体を横に滑らせるようにして跳ぶ。ほんの一瞬前まで彼女がいた場所の壁に、プラズマ弾が着弾し、鉄骨をむき出しにしながら爆ぜた。鋼鉄が、飴のように溶け落ちる。
「アヤ、スキャンしろ。奴の弱点はどこだ」
着地の衝撃を殺しながら、カミーユは思考で命じる。
『……やってる!……ダメだ、装甲が厚すぎる! 通常の攻撃は、ほとんど通じない! でも…』
アヤの声が、わずかに活気づく。
『あのプラズマキャノン、エネルギー効率が極端に悪いみたいだ。一射ごとに、肩にある大型の排熱ベントが数秒間だけ開く!そこを狙えるかも!』
カミーユの視界に、バラージの右肩部分が、赤いマーカーでハイライトされる。
再び、プラズマキャノンが光を収束させ始めた。カミーユは、今度は廊下に転がる、破壊されたサイボーグの残骸の影へと駆け込む。
二射目が放たれ、サイボーグの装甲が、轟音と共に溶解した。
そして、アヤの言う通り、灼熱の爆風の中から、バラージの肩のベントが、プシュー、という音を立てて開くのが見えた。内部の冷却フィンが、赤く輝いている。
――好機は、一瞬。
カミーユは、残骸の影から身を躍らせ、空中でアルバレッテを構えた。
放たれたボルトが、正確に、開いたままの排熱ベントの奥深くへと突き刺さる。
「グオッ!?」
バラージが、初めて苦悶の声を上げた。
ベントから黒い煙が噴き出し、火花が散る。プラズマキャノンが、機能不全を起こしたように、不規則な放電を繰り返していた。
「……小賢しい真似を」
バラージのモノアイが、怒りに満ちた、より一層強い光を放つ。
「その速さ、その正確さ……気に入った。貴様は、ただの虫ではないらしい」
その言葉と同時に、バラージの戦術が変わった。
彼は、機能不全に陥った右腕のキャノンを庇うように下げると、その背中に聳え立つ、二対のミサイルポッドのハッチを開いた。
「ならば、これでどうだ?」
ポッドの内部から、無数の小型ミサイルが、甲高い飛翔音と共に姿を現す。
回避不能の弾幕が、廊下全体を埋め尽くさんと、カミーユに襲いかかった。




