第二十七話:バラージ
けたたましい警報が、ジグラットの鉄の血管に鳴り響く。通路の壁に取り付けられた回転灯が、全てを赤く、赤く染め上げていた。
もはや、隠れる場所も、時間もない。
『カミーユ!右の通路から二体、正面からさらに四体!バラージの部隊が、あんたを包囲しようとしてる!』
アヤの音声が、ノイズ混じりに悲鳴のように響く。
『最短で、中央管制ブロックに抜けるしかない!正面を突破して!』
「言われずとも」
カミーユは、通路の角から飛び出した。
真正面から、あの重サイボーグたちが、分厚い装甲をきしませながら迫ってくる。その腕に装着されたガトリングガンが回転を始め、銃口がオレンジ色に輝いた。
次の瞬間、嵐のような弾丸が廊下に叩きつけられる。
コンクリートの壁が粉砕され、金属のパイプが引き裂かれる。まともに食らえば、耐熱服ごとミンチにされるだろう。
カミーユは、銃弾の嵐の中を、壁を蹴って駆け抜けた。予測不能な三角跳びで、弾道を回避しながら、瞬く間にサイボーグたちとの距離を詰める。
一体の懐に滑り込むと同時に、カミーユは腰のシース(鞘)からスティンガーを引き抜いた。そして、装甲の継ぎ目である脚の関節部に、その超硬質ブレードの先端を突き立て、内部の駆動ケーブルを強引に断ち切った。
巨体がバランスを崩し、轟音と共に床に倒れ込んだ。
カミーユは、倒れゆく巨体を踏み台にして、さらに跳躍した。空中で身体を回転させながら、背中のアルバレッテを構える。狙うは、残るサイボーグたちの、複眼センサー。
放たれた二本のボルトが、正確に二体の頭部を撃ち抜き、その視覚を奪った。センサーを破壊されたサイボーグたちが、腕の重火器を無意味に乱射し始める。
カミーユは、その弾幕を冷静に見切り、最後の機体の背後に着地した。そして、無防備な首の後ろの動力ケーブルを、手にしたスティンガーで一閃のもとに断ち切った。
全ての動きに、一切の無駄がない。まるで、精密な機械が行う作業のようだった。
数秒後。
通路には、機能停止した鋼鉄の巨体だけが転がっていた。
カミーユが息を整えようとした、その時だった。
ガシャン!ガシャン!
突如、カミーユが今いる通路の前後の隔壁が、同時に落下した。彼女は、長さ100メートルほどの、一本の廊下に完全に閉じ込められたのだ。
『罠だ!カミーユ!』
その声と同時に、通路のスピーカーから、歪んだ、しかし愉悦に満ちた声が響き渡った。
「……見事なものだ、侵入者。俺の鉄の子供たちを、そう容易くスクラップにするとは。だが、ウォーミングアップはそこまでだ」
声の主は、バラージ。
カミーユは、声がした通路の奥を見据えた。そこにある、最も大きなブラストドアが、ゴウ、と地鳴りを立てて、ゆっくりと開いていく。
闇の奥から現れたのは、彼の部下たちとは比較にならない、異形の巨体だった。
身の丈は3メートルを超え、全身が、砲台と見紛うほどの重装甲と兵器で覆われている。背中からは、巨大なミサイルポッドが突き出し、右腕は、プラズマを圧縮して撃ち出すという、巨大なキャノンに換装されていた。
その巨体の中心、装甲の隙間から、一つの赤いモノアイが、カミーユを冷たく見下ろしている。
「さて、始めようか。俺が『バラージ』だ。貴様の墓標に、その名を刻んでやろう」
ランカーが、自ら、その狩場に姿を現した。




