第二十六話:沈黙の壁
ブラストドアは、その名の通り、あらゆる爆風に耐えうるよう設計された、分厚い鋼鉄の壁だった。
カミーユはその前に立ち、滑らかな表面を見上げる。継ぎ目一つない、完璧な一枚岩のようだ。カードキーのスリットも、認証パネルも、物理的なハンドルすらない。
「アヤ、この扉、開けられるか」
『……ちょっと待って。調べてる』
アヤが、データベースの海を高速でスキャンする音が、通信機の向こうから微かに聞こえる。数秒の沈黙。
『ダメだ、カミーユ。このドアの制御システム、完全に独立してる。ネットワークから物理的に切り離されてるみたいだ。ハッキングじゃ開けられない』
「物理的に破壊するのは?」
『装甲の厚さは、最低でも50センチ。小型の爆薬じゃ、傷一つつけられないよ』
八方塞がりだった。しかも、先ほどのハッキングで、いつ警報が鳴ってもおかしくない。時間は刻一刻と過ぎていく。
「……いや、方法はあるはずだ」
カミーユは、自らの装備に目を落とした。アルバレッテに装着された、特殊なアタッチメント。パイルバンカー。一点集中の破壊力に特化した、彼女の切り札の一つだ。
「アヤ、設計図はまだ見られるか。このドアの、構造上の弱点が知りたい」
『!……待って、すぐスキャンする!』
アヤの声が、活気づく。
『……あった! ドアの右下、床からちょうど30センチ。そこに、緊急用の手動ロックボルトがある。分厚い装甲に隠されてるけど、そこだけが、構造上、唯一の急所だよ!』
カミーユは、アヤが視界に表示したターゲットマーカーに、寸分の狂いもなくアルバレッテの照準を合わせた。そして、特殊な破城槌(は城つい)、パイルバンカー・ボルトを装填する。
「……いくぞ」
カミーユの呟きと共に、甲高いチャージ音が響き渡る。
[プシュッ、ガキン!]
圧縮されたエネルギーが解放され、先端が硬化タングステンでできたボルトが、轟音と共に射出された。ボルトは、装甲の一点に吸い込まれるように突き刺さり、内部構造を粉砕する。
耳をつんざくような金属の破壊音。
そして、重い、重い、地鳴りのような音がして、ドアのロックが外れた。
「……開いたか」
『うん、ロックは外れた!でも、自動では開かない!重すぎて、動力なしじゃ……!』
カミーユはアルバレッテを背負うと、分厚いドアの縁に両手をかけた。
「……ぐっ……!」
全身の筋肉が軋む。一ミリ、また一ミリと、巨大な鋼鉄の塊が、ゆっくりと横にずれていく。やがて、人間一人がなんとか通れるだけの隙間ができた。
カミーユは、即座にその隙間へと身体を滑り込ませた。
彼女が通り抜けた直後、ブラストドアは自重で、ドン!!という凄まじい音を立てて閉まった。
静寂が戻る。だが、それも一瞬だった。
『……カミーユ、今の衝撃で、さすがに本格的な警報が鳴った!』
アヤの、これまでになく切迫した声が響く。
『バラージの部隊が、この区画に集結し始めてる!急いで!』
カミーユは、背後で閉じた巨大な扉を振り返ることなく、暗い通路の先を見据えた。
もう、隠れて進む段階は終わった。




