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Cat's Whiskers  作者: 七日
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第二十話:龍への手土産

乾いた銃声の残響が、クラブ・ノクターンのVIPルームに吸い込まれていく。

カミーユは、ハンドガンをしまい、床に転がった、ル・コルボーの亡骸を一瞥した。

その顔は、ただ、眠っているように穏やかだった。

「……随分と、汚い仕事になったな」

部屋の入り口で、ジュリアンが、腕を組んで立っていた。

その声には、何の感情もこもっていない。

「ああ」と、カミーユは短く答えた。「だが、終わった」

「ウェイとかいう、チャイナタウンの若造か。奴が、約束を守ると思うか?」

「奴は、コルボーがいなくなることを、誰よりも望んでいた。守るだろう」

「……だと、いいがな」

ジュリアンは、それだけ言うと、踵を返した。

「待て」

カミーユの声に、彼が、足を止める。

「……なぜ、助けた」

ジュリアンは、振り返らなかった。

「……俺の酒の時間を、邪魔された。ただ、それだけだ」

彼は、そう言うと、今度こそ、闇の中へと消えていった。

カミーユは、父が消えた暗闇を、しばらく見つめていた。

彼女は、コルボーの亡骸から、彼の特殊ナイフ『リッパー』を抜き取ると、それを証拠として、静かに部屋を後にした。

『紅龍団』の拠点であるレストランは、異様な緊張感に包まれていた。

カミーユが、一人で姿を現すと、ウェイの部下たちが、一斉に彼女に銃口を向ける。

「ウェイは、どこだ」

カミーユは、その無数の銃口を、全く意に介さずに言った。

やがて、奥の部屋から、ウェイ本人が姿を現した。

彼の顔には、期待と、そして、恐怖が入り混じっていた。

「……やったのか」

カミーユは、何も言わずに、カウンターの上へと、一つのナイフを投げた。

ル・コルボーの『リッパー』だ。

その刃には、まだ、彼の血が、こびりついている。

ウェイは、そのナイフを見て、息を呑んだ。

そして、次の瞬間、彼は、心の底から、歓喜の声を上げて笑った。

「ハ……ハハハ!本当に、やりやがった!あの化け物を、本当に!」

彼は、部下たちに、奥から、厳重に保管されていたケースを持ってこさせた。

中には、リュミール社製の、美しい流線型をした、プロトタイプ・ホバーユニットが納められていた。

「約束通り、こいつは、お前のものだ」

ウェイは、言った。

「……おい、カミーユ。お前、たいした女だ。どうだ、このまま、俺と組まないか?俺の頭脳と、お前の腕があれば、この街の王に、俺たちがなれる」

「断る」

カミーユは、ホバーユニットのケースを手に取ると、即答した。

「私は、王になるのは、面倒だ」

「……そうか」

ウェイは、残念そうに、しかし、どこか楽しそうに、肩をすくめた。

「……まあ、いい。だが、忠告しておく。コルボーがいなくなったことで、この街のバランスは、大きく崩れる。バスティオンも、リュミエールも、そして、あのハイエナども(市警)も、必ず、動き出す。……せいぜい、生き延びるんだな。最高の『仕事』の、礼だ」

カミーユは、ウェイに背を向け、レストランを後にした。

ラ・コミューンの隠れ家。

カミーユが持ち帰った、新たな「翼」を前に、アヤが、歓声を上げていた。

『……これで、準備は整ったね』

アヤの声が、スピーカーから響く。

カミーユは、窓の外、夜の闇の向こうに聳え立つ、バスティオン社の黒い巨塔『ジグラット』を、静かに見据えていた。

鴉を巡る、面倒なオペラは終わった。

だが、それは、次なる、より巨大な舞台の、幕開けに過ぎなかった。

「ああ」

カミーユは、短く答えた。

「次の『仕事』の時間だ」

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