表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cat's Whiskers  作者: 七日
18/53

第十六話:オペラ座の契約

ラ・コミューンの隠れ家に戻ったカミーユは、壁に飾ってあった、ウェイから「借りて」きた旧式のライフルを、静かに手入れしていた。布で、その冷たい鉄の感触を確かめるように、ゆっくりと。


 スピーカーから、アヤの声が聞こえた。その声には、ウェイとの交渉で張り詰めていた緊張が、まだ残っている。

『……本当に、やるの? 暗殺なんて』

「ホバーユニットを手に入れるには、それしかない」

 カミーユは、ライフルから目を離さずに答えた。

『でも、相手はル・コルボーだよ! 街の半分を牛耳ってる、本物の怪物だ! ウェイの言うことなんて、信じていいの? 奴が、私たちをコルボーに売り渡すための、罠かもしれないじゃない!』

「ウェイは信用しない」

 カミーユは、手入れを終えたライフルを、壁に戻した。

「だが、奴がコルボーを消したいという動機は、信用できる。……面倒だが、一番確実な道だ」


 アヤは、それ以上、何も言わなかった。

 カミーユが決めたことだ。ならば、自分は、その道を、完璧なものにするだけだ。

『……分かった。ウェイから送られてきたインテルを、スクリーンに出すね』

 ホログラムが、空中に浮かび上がる。

 そこに映し出されたのは、一枚の、豪奢なデザインの招待状と、古びた建物の設計図だった。

『……オペラハウス……』

 アヤが、驚きの声を上げた。


 バ=カルティエの中心部に、ほとんど無傷のまま残っている、旧世界の壮麗なオペラハウス。

 ウェイからのメッセージには、こう記されていた。

「近々、オートヴィルのVIPが、文化交流の名目で、オペラハウスを訪れる。その夜だけは、市警も、我々も、全ての勢力が一時的に休戦し、客人の安全を保証する、という取り決めだ」

「そして、旧世界の芸術を好む、我らが『王』、ル・コルボーも、必ず、その貴賓席ボックスせきに姿を現す」


「……なるほど。休戦協定の夜が、奴が最も油断する夜、というわけか」

 カミーユが、設計図を睨みながら呟いた。

 そこから、二人の、完璧な暗殺計画の立案が始まった。

 戦術知識を持つカミーユと、天才ハッカーであるアヤ。二人の能力が、一つの目的のために、融合していく。


 カミーユは、オペラハウスの正面玄関前の、大通りの地図を指し示した。

「演劇が終わるのは、22時。コルボーが出てくるのは、おそらく、その後だ。問題は、この通りを、どうやってクリアにするか」

 アヤが、即座にシミュレーションを開始した。

『……できる。この地区の交通管制システムは、旧式のシステムだ。セキュリティはザルだよ。ミメーシスを中継器にすれば、この距離からでも、信号機も、道路の遮断機も、全て掌握できる』

『……皮肉だね。街の安全を守るためのシステムが、最高の狩場を作り出すなんて』

 カミーユの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。

「私が、合図を送る。お前は、それに合わせて『舞台』を作れ。路地に隠した大型車両を、コルボーにぶつける」

『了解。……もし、それで仕留めきれなかったら?』

 カミーユは、壁に立てかけていたライフルを静かに手に取った。

「その時は、私が、フィナーレを飾る」


 そして、運命の夜が来た。

 何年ぶりかに、オペラハウスに、まばゆい光が灯る。

 オートヴィルから来たVIPの車列が、物々しい警備の中、正面玄関に到着した。

 カミーユは、オペラハウスの向かいにある、廃ビルの屋上から、その全てを、双眼鏡で見ていた。

 彼女の隣には、旧式のライフルが、静かに置かれている。獲物を待つ蛇のように、鈍い光を放っていた。


『……カミーユ。……来たよ』

 アヤの声。

 オペラハウスの正面玄関に、一台の、黒く、長いリムジンが停まる。

 護衛に囲まれ、中から、一人の男が姿を現した。

 普通の、整った顔立ち。

 しかし、その下に続く、継ぎはぎの、暴力的なシルエットの身体。


 ル・コルボー。

 彼は、周囲を睥睨すると、オペラハウスの中へと消えていった。

 カミーユは、息を殺した。

 あとは、ショーの終わりを待つだけだ。


 廃都の片隅で、今、血塗られたオペラの、第二幕が、静かに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ