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新たな舞台の始まり

 ――舞台は終わったはずだった。

 断罪も涙も、すべて幕の向こうに消えたはずなのに。


 ざわめきと拍手。

 ゆっくりと上がる幕の向こう側から、熱を帯びた期待が押し寄せてくる。


 ――彼らの頭の中では、“新しい物語”がもう始まっているのだろう。

 まばゆいスポットライトの中、私は舞台の中央に立つ。


 光が強すぎて、客席の顔は見えない。ただ、無数の視線が突き刺さる熱気だけを感じる。


 手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた。


(あの断罪劇よりも、緊張してるかもしれない……)


 対面に立つのは、ローザ様。

 いつも通り完璧な微笑みを浮かべて、静かに私を見つめ返している。


 観客の息を呑む気配がわかった。

 それほどまでに、光の中の彼女は美しい。


「ああ、我が唯一の光よ! たとえ天の神々が引き裂こうとも、この魂は汝と共にあり! 汝が冥府の闇を恐れるというなら、私自身がその闇を飲み尽くそう!」


「天の許しなど、とうに捨てております。たとえ永遠の宵闇に閉ざされようとも……ああ、貴方さえ、貴方さえ傍にいてくださるのなら!」


(一番の見せ場!ようやく終わる……!!)


 用意された台詞。

 何度も練習した言葉。


 ―—けれどどうしてだろう。言葉を発した瞬間、胸の奥がほんのり痛んだ。


(―—なんてクサいセリフって思ってたのに。)


 私も、観客の熱気に吞まれてしまったのかもしれない。

 そんな私の内心を知ってか知らずか、ローザ様は静かに長い睫毛を伏せる。


 柔らかく、けれど凛とした声が劇場に響き渡り、万雷の拍手が起こった。


(……演技、上手すぎじゃない? ローザ様)


 呆れと照れ隠しで笑いそうになるのを、必死で呑み込む。

 舞台は、現実の延長上でもあり、けれどどこまでも“作り物”だ。


 ──なのに。

 観客席の熱気は、最高潮に達しようとしていた。


「やっぱりあの二人、ただの関係じゃないわ」

「台詞じゃなくて、心で通じ合ってるのよ!」

「尊い……!」


(……まぁ、そうなるよね。わかってたけど。)


 小さくため息を吐くと、ローザ様だけが気づいて、ふふ、と笑った。


 あの日。私たちは、間違いなく舞台を降りたはずだった。

 それなのに、気づけばまた、私たちは熱狂の渦の中心で、誰かの期待を一身に浴びながら舞台に立っている。


 ローザ様がそっと、私に向かって手を差し出す。

 私はその手を取り、役になりきって――いや、リリエルとして微笑み返した。


 再び爆ぜるような歓声が上がる。

 幕が降りる。

 照明が落ち、一瞬だけ世界が闇に包まれた。


 ──誰もが、自分の見たいものを見て、見たいように信じている。

 そうしたそれぞれの“真実”が重なり合って、世界は今日も動いていく。


 これは与えられた舞台か、それとも――私たちの、本当の物語か。


第二幕、始まりました。

次は水曜18時に更新します。

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