新しい巡り
(ほんとに……これで、終わったの?)
ゲームと違いすぎて、状況についていけない。
いや――ゲームは関係ないか。
みんな、どことなく茫然としている。
……ふいに、霧が晴れるみたいに、曖昧だった像の輪郭が浮かび上がった。
ようやく焦点が合った――そんな感覚。
「あ、思い出した」
「どうした、リリエル」
「あ、いえ。さっき、火竜が天井から降りてくるのを見て、何かに似てるって思ったんですけど――」
言いながら柱の砂を払う。
(やっぱり)
そこには、ほとんど消えかけている、羽を広げた鳥のモチーフ。でもこれはたぶん。
「……火竜か」
「はい。最初は鳥のモチーフかと思ったんですけど」
「なるほど、本来あるべきところに戻ったということですか。しばらく観測は必要でしょうが……」
「ローザリアは……知っていたのか」
殿下が彫られたモチーフから目を離さずに、ぽつりとつぶやく。
「いいえ?でも、きっとここなら眠れるんじゃないかって思っただけよ」
「……そうか」
ほんの一瞬だけ、殿下の横顔に影が差した。
それが安堵なのか何なのか……私には読み取れなかった。
殿下でも、王家でも知らなかった、古来の神殿。
そして、神殿の教えと反するという、火竜。
その火竜が、祀られる存在であるということ。
(神殿は、どこまで知っていたのかしら?)
いや。”どこまで”なんて、おかしいか。
(光だけが正しい、という今の教えを揺らがせないために――
封印という形で神話ごと閉ざしたんだわ)
私たちは、遺跡を後にした。
入り口まで戻ってくると、神官と文官が恐る恐るといった調子で待ち構えていた。
神官がちらりとローザ様を見て、何か言いたそうにしていたけれど……
ローザ様はまるで気にしていないように、優雅に微笑んで前を通り過ぎた。
(全く……王家と神殿に"私がついていく"はずだったのに。神官長さまに言っておこうかな)
話しかけてこようとした神官から、思わず視線を逸らしてしまう。
神官は一瞬ためらい、言葉を飲み込んだ。
(なんで私が喜んで報告すると思ったのかしら)
いや、私が変わっただけかもしれない。
この短期間で、色々なものを目にしてしまったから。
結局封印はしなかった。
封印をしてしまえば、火竜も閉じ込められてしまうから。
実際に見てしまえば封印が無いことはバレてしまうだろうけれど……
今日の様子を見るに、進んで遺跡内に入ることもないだろう。王家の調査というのも、どこまで踏み込んだのか、甚だ疑問だ。
まぁそのあたりのことは、きっと殿下がうまく処理してくれると思う。
ちょっと複雑そうな顔をしていたけれど、最終的な判断を下したのは殿下だから。
それに現に今、さっきまでの地揺れは嘘のように収まっているから、何か問題になることはないはずだ。
ほんの少し前を歩いていたローザ様が、歩みの速度を緩める。
それに気づいて、私もほんの少しスピードを上げる。
自然と横並びになると、言葉が溢れた。
「あーあ、結局今回もローザ様かぁ」
「あら、どういうこと?」
「いつも何かあるたびに、ローザ様に助けられてばっかりだなって。
今回だって、私、結局何もしてないし」
「何言ってるの?あそこ、リリエルが浄化したんでしょ?私は整えることは出来るけど、浄化は出来ないもの」
「……そっか」
「ええ。闇と光。多分何でも出来るわよ。
私たち、最強タッグじゃない?」
何気なく言われた言葉が、じんと胸にしみわたる。
「そ、そういえば、最近忙しそうにしてたのって」
「ええ。クロのことでね」
「そっか。
……寂しくない?」
「うーん。
多分呼べば起きるから、寂しくはないわね。
時々は見に行くつもりだし」
「え……
それはさすがに問題があるんじゃ」
「バレないようにやるわよぉ」
……ローザ様、ちょっと地が出てる。
それが少し嬉しくて、私の辛口にも拍車がかかる。
「いやいや、無理でしょ。クロ様もいないのにどうやって行くつもりなの」
「馬かしら」
「ねぇほんとやめて?」
「でも、馬車よりは目立たないわ。
私、乗馬得意なのよね」
「そういう問題じゃないから。
というか、得意じゃないことなんてあるの?」
「魔法に限らず、癒しに関係することは全滅なのよねぇ。お菓子作りもやってみたことはあるけれど」
「あ、なるほど(それは、いかにも悪役令嬢っぽい)」
「なんで納得してるのかしら?」
「うふふ」
……久しぶりのローザ様との他愛のない会話は、本当に楽しくて。
(こんなにゲームと違う結末が待っているなんて、思わなかった)
これでゲームの大きなイベントは終わった。
あとは、小さな恋愛イベントを積み重ねるだけなんだけど……
(それだって、起きないかもしれない)
「ねぇリリィ?
さすがにこの後クレープ屋さんに行くのは大変だから――
うちでタルトを食べていかない?」
「いいの?喜んで!!」
他愛もない会話をしながら、馬車が待つ道まで割れた道を歩く。
(ふふ、良かった。
やっぱり、しばらくタイミングが合わなかったのは、イベントのせいだったんだわ)
私は今回のイベントで、流れが大きく変わったんだと――
そう思っていた。
次回、月曜20時更新です。




