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夜巡の底

遺跡調査の日は、問題なくやってきた。


朝早くから、王家が用意した馬車に乗って遺跡に向かう。

今日の私たちの訪問は公式には発表されていないが、

噂程度に広まる様にしてあるという。


お陰ですでに遺跡周りには住民たちがちらほら集まっているようだ。


(さすがに少し緊張するわね)


遺跡の封印が失敗したら――

おそらくあの町は廃墟と化すだろう。

もちろん、ゲーム上では失敗することはなかったけれど。


馬車の外にはライナーが馬に乗ってついてきている。

あくまで”護衛”らしい。


窓の外の景色が、次第に荒れた色へと変わっていく。

畑は途切れ、石ばかりの土地が続き、

生え残った草は、風に煽られているだけで、どこか弱々しい。


(もうすぐ、目的地ね)


そう思った瞬間——


ごう、と低い音が大地の底から響いた。


馬車が一瞬浮くように揺れ、

御者が反射的に手綱を締める。


「……殿下、前方——!」


ライナーの短い声。

馬車はそこで止まり、外の空気が変わったのがわかった。


見ると道路が波打っていて、馬車が通るどころではない。


(……どういうこと?目に見える異変はまだなかったはず)


殿下はわずかに目を細めた。


「……ここで降りよう」


僅かに緊張が走る。


馬車道の地割れを避けるようにして、歩いて遺跡へ向かう。

乾いた土の匂いに、焼けた石のような匂いが少し混じっている。


視線の先、遺跡前の広場には住民たちが集まっている。

まだこちらには気が付いていない。


「……混乱した様子もないですね」


「うん。この辺りでは時々地震が起こるからね」


「え……遺跡のせい、ですか?」


「いや――もとの地形だろう、ということになっているけれど……

 この辺りは詳しい検査すらできないから」


神殿との関係の複雑さが垣間見える。

遺跡が封印されている以上、遺跡のせいにすれば光の威厳が保たれない。

地形調査をして何事もなければそれこそ問題だ、ということなのだろう。


(封印をしているからこの程度で済んでいる、とも言えそうだけれど……

 あえて明言を避けている、ってことね)


クラヴァ―ル先輩があたりを見渡しながら言う。


「まぁ……地震が起きるのはこのあたりだけに限定されているから――

 地形ではないだろうというのは、学者の間では常識だな」


「クラヴァ―ル」


殿下が咎めるように言う。


「複雑ですねぇ」


そう言うと、殿下が苦笑した。


——その時。


遺跡の外壁の裂け目から、ぱん、と

光の破片のようなものが弾け飛んだ。


「危ない、下がれ!」


ライナーが叫ぶ。

母親に抱えられた子どもが泣き出した。


ぱぁんっ——


反射的に結界を展開する。

金色の膜に石片と魔力の断片がぶつかり、

乾いた音を立てて、足元へと落ちていく。


途端に歓声に包まれた。


「聖女様だ!」

「殿下もいらっしゃる!」


つい先ほど異変を見たはずなのに、

広場の人々の表情は、光を浴びたように明るく変わっていく。


(結果的に光のパフォーマンスになったわね)


ちらりと殿下を見ると、目が合った。

私はついでとばかりに光を降らせる。


(治癒の予定だったけど……あまり光を使いすぎないほうがいい気がするわ)


歓声が大きくなる。


「聖女様がいらっしゃいました!これで異変も収まるでしょう!」


すでに到着していた文官が叫んでいるのが聞こえる。


「……都合のいい話だ」


殿下が小さく呟いた。

神官も隣にいるが、止める気配はない。


(確かに。最初は象徴として行って欲しいと言っていたのに、

 実務の責任まで押し付けられたってことね。

 もともとそのつもりだったとはいえ......

 あまりいい気はしないなぁ)


その瞬間、殿下が一歩前に出た。


「安心してほしい!

 神殿と王家で責任をもって、対処しよう!」


わあぁぁぁぁぁ!!


広場が歓声に沸き、その陰で神官と文官が、僅かに顔色を失う。


「……くくっ」


クラヴァ―ル先輩が声を殺して笑い、

殿下は涼しい顔のまま石段を上る。


私も息を整え、そのまま遺跡の中へと歩みを進める2人の後を追った。



外のざわめきが、扉をくぐった瞬間に遠のく。

音が、吸い込まれたみたいに静かになった。


(――ここ……)


中は、思っていたよりも広かった。


天井は高く、両脇に等間隔で柱が並んでいる。

岩山を切り開いて作られたようだ。


柱の間から差し込む光が床に帯を描き、

奥へ続く一本道を浮かび上がらせていた。


「……神殿、ですね」


クラヴァ―ル先輩がつぶやく。


「ああ。どうやらそのようだな。

 かなり力のあるものが作らせたに違いない」


殿下の言う通り、すでに朽ち果ててはいるものの、

柱は太く、高い。

今の神殿の形式とは違うから、光を祀っていたわけではなさそうだ。


「きゃっ!!」


突然地面が揺れて、近くの柱に縋りつく。


「大丈夫か、リリエル」


「はい、大丈――」


言いながら、柱に刻まれている絵に気が付いた。


(これ……なに?羽を広げた、鳥?)


見渡せば至る所に、消えかかってはいるものの、同じモチーフが彫り込まれているようだ。


やがて、通路の先に、ぽっかり穴が開いた岩の壁が姿を現した。


(あそこね)


穴の周囲だけが円形に平らへと整えられ、

かつての祭壇や灯火台の跡が、崩れながらも残っている。


その手前に、低い石垣のような境界があり、

その中央の石に、文字が彫られていた。


 〈夜巡の底〉


そこから先は、一段落ち込んでいる。

それだけで“踏み込んではいけない”と分かる境界線だった。


境界の内側を見下ろして、息をのんだ。


一段低くなった縁の溝いっぱいに、

黒い石が、ぐるりと輪を描くように

詰め込まれている。


まるで宝石みたいにキラキラ輝くそれは、どうにも見覚えがあった。


「クラヴァ―ル先輩、これ……」


クラヴァ―ル先輩が黙って拾い上げる。


さらり。


それはクラヴァ―ル先輩の指先で粉々になった。


「――あの時の、石か」


「ここは反神殿派の隠れ蓑になっているのか。

 それなら人の気配を感じるという住民の訴えにも納得がいく。

 しかし――」


そのとき、またごごご、と地鳴りがして、地面が大きく揺れた。

黒い石が、壁面の穴に吸い込まれていく。


(え……?封印内に、入った……?)


次の瞬間――

穴の表層を覆っていた光が、ぱっと色を失った。


ばつん、と何かが弾ける音。

まるで内部の圧が抜けるかのように、

衝撃風がこちらへ吹き抜けた。


「なっ......!!」


咄嗟に殿下が結界を展開する。


(そうだ、殿下も光をもってるから……!)


「結界に異常が生じているんだ。

 全員で張りなおす」


いうや否や、金色の膜が、内側から逆撫でされるように波打った。

次の瞬間、殿下の結界が、音もなく砕ける。


「なんだ……?」


足元には、黒い石が一つ。

思わず、穴の周りに敷き詰められた黒い石を凝視する。


(もしかして……!)


私は何の力も付加していない光を黒い石に降らせた。


――すぅっ……


光は、石に吸い込まれるようにして消えていった。


「……なるほど。闇の力か」


「封印の揺らぎも、多分この石のせいです!」


「しかし、この程度の量で……」


「さっきの地震で石が封印内に落ちるのを見ました」


「そうか。闇の魔力を持った石が直接触れれば、自分自身が通るくらいの穴は空く」


「取り急ぎ石の撤去だ」


その時、亀裂の入った天井から、黒い影が落ちてきた。


光の表層に触れた瞬間――


ぱつん。


音にならない音が走り、世界が裏返った。











次回、水曜日20時更新です。

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