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巡るもの、巡らないもの

翌日、私は早速殿下とクラヴァ―ル先輩に、遺跡調査の件を話した。


「……ふぅん、文官から報告が上がってこないと思っていたけれど、まさかリリエルに直談判していたとはね」


夕映えの光を受けた睫毛がきらりと輝く。

けれど、その影だけが長く伸びて、

いつも穏やかな殿下の表情を、わずかに暗く見せていた。


「勝手に引き受けてすみません。

 でも、私が姿を見せることで住民感情が整うなら……」


「……もし今後遺跡で何かあったら、それもリリエルの責任にされてしまうということだけど……

それはわかっている?」


「それは……」


殿下の言うことはもっともだ。

私は何が起こるかも、それを解決できるのが自分だということも知っているから、安請け合いしてしまったけれど。


「まあ遺跡に何かあるということは封印に何かあるということですので、

 むしろ私たちの研究の成果の見せどころかもしれませんがね」


クラヴァ―ル先輩の助け舟にほっと息をつく。


「……その言いぶりだと、クラヴァ―ルも参加するつもりか?」


「可能ならば。一度行ってみたいとは思っていましたので」


「……まぁ、クラヴァ―ルからしたら、合法的に遺跡に足を踏み入れるチャンスか」


神殿が危険地帯だと明言している遺跡だ。

いくら興味があっても、簡単に足を踏み入れることはできない。


殿下は小さく息を吐き、一瞬机の上に落とした視線を、まっすぐ私に向けた。


「……私も同行するよ。

 正直、私の読み違いのせいでもあるしね」


「それならライナーにも声をかけますか。

 リリエルが誘拐された事件......

 自分は声をかけてもらえなかったと嘆いていましたから」


「……ライナーはまだ正式な王立騎士団員じゃないから、当然なんだけど……」


そこで殿下は、一拍だけ黙りこむ。


「……まぁ、私的な護衛、ということなら、いいか」


淡々と呟く殿下の表情には、隠しきれない疲労が滲んでいる。

そもそも誘拐事件の後始末だって、私の事を心配して色々引き受けてくれているけれど、どう考えても殿下の負担が多すぎるのだ。


クラヴァール先輩が手元の書類を軽く叩いた。


「では、そうと決まったら、さっさと共鳴魔法を成功させますか」


「……嬉しそうだね。まるで何か起こってほしいみたいに聞こえるな」


「まあ、魔法を試せる機会はあるに越したことはありませんからね」


「気持ちはわかるけれど、外では絶対に言わないように」


「心得ております」


――そんなこんなで、あっさりと、ゲーム通りに攻略対象者達が遺跡に向かうことが決まった。


(あとは、封印を完成させるだけね)


......なんて意気込んでいたのだけれど。


「……できた」


「できましたね」


なんと、遺跡に行く日程が決まった途端、あっさりと共鳴魔法は成功した。

しかも、大規模結界は成功しないのに、もっと難しいと思われた、封印魔法だけ。


(もう疑いようもなくイベントね。)


ここまで準備万端で挑んだイベントなんて、今までにあっただろうか。


(なんだか、逆に不安になるわね。ここまで思った通りに事が運ぶと)


私の不安とは裏腹に、順調に調査という名目の遺跡訪問の準備は進む。

......とは言っても、細かな調整は結局殿下がやってくれているから、私は共鳴魔法を鍛えるだけなんだけど。


「リリエル、悪いが、遺跡前で少しパフォーマンスをしてもらえるかい?」


練習の合間、殿下がほんの少し気まずそうに私に尋ねた。


「光継祭の時みたいな、光の演出で良いのでしょうか」


「うん、話が早くて助かる」


「任せてください!」


「護衛はしっかりつけるし、私も横に立つから」


聖女の治癒を降らせておけば、きっと住民の不安も晴れるだろう。

私の光は、心を癒す効果もあるみたいだから。


(……もう少し、便利に使ってくれてもいいのにな)


今回同行してくれるのも、隣に立つと言ってくれたのも、

私一人に責任を押し付けないようにするためだと思う。


本来なら、“聖女”という役目こそ、

責任を分け合うためのもののはずなのに。


(全部自分で引き受けちゃうから、疲れるんだろうなぁ)


隠れた意図を口にしない優しさ。

それが殿下の素敵なところでもあるから、複雑だ。


ふと視線を向ければ、クラヴァール先輩と言葉を交わす殿下の横顔があった。


(今日も練習が終わったら二人に治癒の光を降らせなくっちゃ。

クラヴァ―ル先輩は、まぁそんなに疲れていなさそうだけど)


今の時点で私ができることはそれくらいだ。

あとは、遺跡調査の日を待つのみ。


(そういえば、私たちが到着してから遺跡が暴走するのよね。

 そのあたり、現実がどう動いてそうなるのか)



――練習終わり、またもや思考に耽りながら中庭を歩いていたら、ローザ様にばったりと出くわした。


「あら、リリィ、今帰り?」


気付けば、夕暮れの色が中庭の石畳に伸びている。


「あれ、ローザ様、まだいたの?」


「ええ、ちょっと用事があって」


「ローザ様は帰り?良かったら、今日街に……」


「ごめんなさいリリィ。まだ用事が終わっていないのよ」


「……そうなんだ。残念。じゃあ、また今度!」


「ええ、またね」


(最近、ローザ様と話せてないのよね)


いつもは授業の合間やランチの時間は一緒なのに、

最近のローザ様はふらりといなくなってしまう。


代わりに遺跡調査の件で、殿下やライナー、クラヴァ―ル先輩に会うことが増えてきていた。


(まぁ、そんなものかな?

 今までも、イベントの前は攻略対象者と会う流れになっていたものね)


いつの間にかローザ様といることが当たり前になりすぎて、ちょっとすれ違うだけで、どうにも不思議な気がしてしまう。


(イベントは今週末だもの。

 それが終わったら――

 今度こそ、ローザ様とクレープ屋さんに行かなくちゃ)


なんだか、発表会の後のご褒美を楽しみにしているみたいだな――

なんて気楽なことを思いながら、私は赤く染まりかけた中庭を後にした。














来週より、月、水、土の20時更新になります。


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