表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/48

なかなか来ない、巡り合わせ

明けましておめでとうございます!

今年もどうぞよろしくお願いします。

歩きながら、もう一度イベントについて整理する。


(次のイベントは、特に聖女の能力の覚醒はない。

 これは大きいわ)


なぜかって、能力覚醒に必要な危機ーー

つまり、気絶演出がないのだ。


代わりに恋愛要素が進展する。

これまでの好感度が最も高かったキャラクターが、イベントの要になるのだ。


それはほとんどの場合、王太子になる。


(そりゃあね。治癒能力覚醒の共鳴が、

 恋愛イベントも含んでいるんだもの)


だから今回は、いつもの妙な下位互換イベントが発生していない。

そして、殿下と私の噂がものすごい勢いで巡っているのも、

まぁそういうことだろう。


(そう言えば、遺跡イベントでメインヒーローが確定した後、

 ローザリア様のあからさまな虐めが始まるんだわ)


何がどうなっても、ローザ様が私を虐める現実なんて想像がつかないけれど。


(他のイベントは、まぁそうなるよねって納得できるのに、ローザ様だけはどうにも納得いかないわ)


今まではなるべく考えないようにしてきたけれど、

そろそろ、そういうわけにもいかない。


さっきは少し明るい気分だったのに、また沈んできてしまった。


(いけないいけない。 

 心理ケア、とか言われちゃう)


そんなことを考えながら寮につくと、ドアノブに、焼き菓子の袋。


(ローザ様だ)


今日は予定があったのか、授業が終わると同時にいなくなってしまったローザ様。

いつの間に準備してくれたんだろう。


(私がキャラクターなら、もうローザ様に攻略されているわね)


ほんの少し、鼻の奥がツンとする。

誰も見ていないのに、私はごまかすように前を向いた。



それから共鳴の練習は、なんだかんだで毎日続いた。

......正確には、私が押しかけているだけなんだけど。


(どうせ必要なスキルなら、早く獲得しちゃいたいわ)


最初は気を使ってくれていた殿下もクラヴァ―ル先輩も、

私が無理しているわけではなさそうだと知ると、

だんだん遠慮がなくなってきた。


そうして、私と殿下のツーショットの目撃情報は

どんどん増えていって。


「もう!最初は応援していたけれど、

 殿下に取られたみたいでなんだか悔しいわ」


ランチの時にローザ様がそう零すくらいには、

噂はまるで事実かのように広まっていた。


「でも、私はローザ様のほうが好きよ」


「リリィったら。でも結局、護符飾りも見に行けていないわ」


「今日はどう?今日は殿下も予定があるみたいで

 共鳴の練習ができないの」


「……あら、私は空いた時間を埋める相手なのかしら?」


「ローザ様ってば!そんなはずないって、わかってるでしょう!?」


「ふふふ。そうね?

 じゃあ今日の放課後行きましょ。

 それでその後クレープ屋さんに行って......」


「いいわね!ローザ様とのお出かけ、楽しみだわ」


――しかし、結局護符飾りもクレープも、行けることはなかった。


うきうきと教室を出る準備をしていたところで、

控えめに声をかけられた。

振り返ると、学園の事務官が立っている。


「お時間を少し、よろしいでしょうか」


その言い方だけで、察しがついた。


周囲の生徒に聞かせるつもりのない声。

理由も、説明も、最初から用意されていない。


「神殿より使者が来ております。

 本日中に、お話をしたいとのことです」


思っていたより、早い。


「……内容は?」


「詳細は、直接お聞きいただくように、と」


それ以上は何も言わない。

事務官は一礼すると、廊下の先へ歩き出した。


ローザ様が心配そうにこちらを見ている。


「ごめん、ローザ様」


「いいのよリリエル。

 それより、何かあったのかしら?

 事件の事は、殿下を通すことになっているはずよ」


「……」


予想はついている。

けれど、それを口にすることはできない。


(心配、させちゃったな)


私は少しだけ後悔しながら。使者と共に神殿へ向かった。


神殿の応接室は、学園に比べるとずっと静かだった。

白い壁と簡素な調度。香の匂いが、かすかに残っている。


(……応接室に呼ばれるのは、久しぶりかも)


「急に呼び立ててしまってすみません、リリエル様」


神官長が、穏やかな声で頭を下げた。

その隣に、王城付きの文官が控えている。


(王家も関わっているの?なのに、殿下を通さないなんて)


「大した話ではないのですが……

 可能であれば、少しだけお力をお借りしたくて」


「力、ですか?」


「王都近郊の旧遺跡において、

 なにやら異変が生じているようでして......」


(やっぱり、来た)


「その、夜に人が出入りする気配を感じるとか、

 周りの植物が急に枯れた、とか、そういった訴えが主なのですが……」


(......ん?)


なにか、思っていたのと違う。


「えっと......訴えというのは、近隣住民の方から、でしょうか?」


「はい。先日の“夜巡の神”の噂も相まって、憶測が先に立っております。

 神殿にも、鎮めてほしいという声が回り始めまして」


文官が静かに引き取った。


「王家でも一度、様子を確認しております。

 現地は……多少の魔力の乱れは感知されましたが、

 かといって、直ちに対処を要するほどの兆候もない。――その程度です」


「ですが、放置すれば“異常がある”という噂だけが育ちます。

 今はまだ小さな火種でも、いずれ人心の方が騒ぎを起こす。

 ゆえに、こちらとしては早めに手を打ちたい」


「……つまり、私の力が必要というより――」


「はい。率直に申し上げれば、聖女様のお立ち会いが欲しい、という話です。

 “見ていただいた”という事実だけで、沈む声も多い」


なるほど。”象徴”としての私が必要だということね。


「殿下を通さずに文官様がいらした理由をお伺いしても?」


「実は、殿下にはリリエル様なしで解決するようにと言われておりまして...

 しかし想定より住民の反応が早く広がっており、

 神官長にご相談した次第です。

 申し訳ありません」


......なるほど。殿下は私を心配してくれているのね。

誘拐事件に関してだって、自分も忙しいのに、私とのパイプ役もしてくれていている。


「ただでさえ”悪しき流れを封印してある”遺跡ですので、もともと住民感情が敏感なエリアなのです。

放っておくと暴動に繋がりかねません」


「神官長様も同じお考えですか?」


「はい。

急ぎ対策をしたほうが良いとは私も思っております。

もしかしたら、リリエル様がいらしたら何か原因がわかるかもしれませんし......」


淡々とした調子なのに、僅かに滲む気遣いの色。


(いつも私を大事にしてくれているのは分かっているわ。誘拐事件に関しても、神殿の立場を利用すれば、殿下に黙って私から話を聞き出す事もできたはずだもの)


「そう言うことなら、もちろん協力させてください。

 日程は何時を予定していますか?」


「リリエル様の体調が戻り次第ーー」


「私の体調は問題ないのでなるべく早いタイミングで調整しましょう。

 ―—殿下は私が説得しますので」


そう言うと、文官も神官長もホッとしたようだった。


(さてさて、どうしたものかな)


寮に戻る馬車に揺られながら考える。


(これは、間違いなく遺跡イベントだわ。

 でもまだ封印魔法は成功していない)


今回は行き当たりばったりじゃないと思っていたのに……


(結局、ローザ様とのお出かけ、出来なかったな)


ここからしばらくは難しいだろう。

残念だけど、それだけのこと。

その時は、そう思っていた。









来週より、月、水、土の週3日更新に変更します。

次回は明日の20時更新。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ