偽物の光
あれから1週間。
またもや魔力共鳴の授業の日がやってきてしまった。
「自力で頑張る」なんて言ったものの、授業で使う共鳴具なしでは頑張りようもないわけで。
(うわーん!今日も気絶コース?
殿下にお願いすべきだった!?
というか、なんで断ったの私……)
分かってる。
全てはこの負けず嫌いな性格のせいだ。
ゲームのイベント回避だとかなんだかんだ言っているけど、結局、人に頼るのが嫌……それだけ。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと視界の端に光の護符が揺れた。
(あれ……?2つ、つけてる……?)
光継祭で配った護符は、来場者1人につき1つだったはず。お祭り用の特別な布で作ってあるから、見間違えるはずもない。
ちなみに、ローザ様と殿下達に渡した護符は、その布を神殿に生えている植物で染めて作った、完全特注品だ。
……染めたのは私の希望を聞いた神官様だけど。
(ん?)
カバンの護符達を眺めながら歩いていると、
唐突に、違和感が掠めた。
「ごめん!これ、見せて!」
「わぁ、リリエル様!?」
護符を手に取って光にかざす。
(……偽物だ……)
布の織り方が微妙に違う。
それに何より、光が宿っていなかった。
「これ、どうしたの?」
「え、どうした……って……」
「お祭りでもらったわけではないのでしょう?」
この子は地方のご令嬢。「護符が欲しかった」と話していたのを覚えている。
「ええ。お父様が手に入れて下さったの。譲って下さる人を見つけたんですって」
「そうなんだ……」
――どう伝えようか。
迷っていた、そのとき。
「あら、まぁ、それはお祭りで配っていたものとは違いますわね」
後ろから声が降ってきた。
「ローザ様!」
令嬢が驚く中、ローザ様は冷静に続ける。
「今、光継祭で配った光の護符の偽物が問題になっているのですわ。
もちろん今までもレプリカはありましたけど……」
「そ、そんな、じゃあこれ……」
令嬢の目にジワリと涙がたまっていく。
きっと欲しくて欲しくて、ようやく手に入れたのだろう。
私は偽物の護符を握りしめた。
「泣かないで。
今、私が光を込めるわ。
お祭りのものではないけれど、
そのぶん、光はたくさん込めるから……」
「あ、ありがとう……!!」
そう言って、渡した護符を両手で包む。
「……あったかい……」
「でしょ?私が作った光の護符は、触れば分かるはずだから」
「本当に、ありがとう!」
私にお礼を言った後、ローザ様にぺこりとお辞儀をして、弾む足取りで去っていった。
「……リリイはお人好しね」
「え、そう?どこが?」
「あれ、闇取引で買ったものよ。
私は自業自得だと思うけれど」
「……」
確かにそうかもしれない。
でも、あの子が悪いわけじゃない。
ローザ様は続けた。
「まあ、自分で買ったわけじゃないでしょうし、悪気はないのでしょうけれど……
泣くより先に青くなるべきだとは思うわね」
「……誰もがローザ様みたいに、情報を掴める場所にいるわけじゃないと思うわ」
「理解しているわ。
けれど貴族令嬢として“闇取引の可能性”に思い至らないのは――怠慢よ。
まして偽物なら、なおさら。
偽物流通に加担したことになるのだから」
いつになく厳しい態度のローザ様に、背筋がヒヤリとするのを感じる。
(……確かに、その通りだ)
ローザ様がふぅ、とため息をつく。
「時々、自分って物凄く冷たいんじゃないかって思うわ。
リリィを見てると」
「そ、それは……!!立場が……!!」
――いや、違う。
そう思わせたのは、私だ。
悲しむ人を見たくない――それは本心。
でも、ただそれだけで動くのが“聖女”として正しいのかはわからない。
偽善、という言葉が頭を掠める。
(さっき、私はどう振る舞うべきだった?)
わからない。
出来ることがあるのにそれをやらないのは違うと思う。
けれど……
思考が堂々巡りを始めたところで、
ローザ様が話題を変えた。
「そうそう、今日は私とリリィは5限目はお休みよ。
さっきの護符の件で話し合いの場が設けられることになったの」
「えぇぇ!?私がそれに参加するの!??」
「そりゃ、そうよ。聖女なんだから。
まあ、王家代表は殿下だし、そんなにかしこまる必要はないわ」
(えぇ……本当に……?)
そして昼休み。
私はローザ様に半ば連行される形で神殿へ。
案内された部屋には、神官長・神殿長・地方神殿の責任者、さらに王宮の文官まで勢揃いしていた。
(ちょっと!!
どこがかしこまる必要はないって……!!?)
当のローザ様は涼しい顔をしていて、優雅に紅茶を飲んでいる。
明らかに異質なのに、”それが当たり前”のような空気感。
私は完全に委縮していたけれど、
自分が作った護符の事なので、真剣に話を聞く。
「本来、光の護符は“聖女の光”が宿って初めて意味を成すもの。
ゆえに、模倣品は無価値であるばかりか、
神殿の威信を損なう危険もあるのです」
神官長が深刻そうに言った。
そこにジュリアン殿下が重ねる。
「模倣品が出回る以上、国として対応が必要だ。
本物を正規に流通させるか、取り締まりを強化するか――
どちらにせよ、リリエル本人の意向を確認したい」
(えっ!!私!??」
突然降ってきた指名に心臓が跳ね上がる。
「……えっと、その……
どれくらい流通すれば“適正価格”に落ち着くのでしょうか」
殿下は資料をめくりながら答えた。
「貴少すぎて価格が暴騰している状態だ。
正規品が五百ほど市場に流れれば、模倣品は自然と淘汰されるはず。
もちろん光継祭の護符とは別物だから、完全に落ち着くとは限らないが」
「五百……!?
そ、それはさすがに聖女様のご負担が――」
神官が慌てて制止しようとした、その瞬間。
「いえ、やります」
自分でも驚くほどはっきりした声が出た。
「多くの人が本物を手に取る機会があれば、
模造品はなくなるはずなんです。
一度触れば、本物はわかりますから」
その言葉に、ローザ様が小さく頷くのが見えて、
背中を押された気分になる。
「もちろん、一度に五百を作るのは難しいと思います。
でも、光継祭の時のような“簡易護符”なら、そこまで光は消耗しません。
方法を工夫すれば、十分可能だと思います」
言い終えた瞬間、
私の手元で淡い光がふっと揺れた。
それを見た神官たちの表情が、わずかに変わる。
殿下の目が優しく細められた。
「本当に無理はしないでほしい。
だが……助かる。聖女の力が必要なんだ」
神官長も深くうなずいた。
「では、神殿としても材料と人員を全て整えましょう。
正式に“護符量産計画”を進めます」
(うわぁ……本格的に始まっちゃった……)
ローザ様はどこか満足げに私を見て微笑んでいた。
次回、金曜20時更新です。よろしくお願いします。




