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初日から、お約束

5限目。

食堂で、またもや朝と同じような噂話に囲まれ、げんなりしながら戻ってきた教室に、なにやら木箱が運び込まれた。


――嫌な予感がする。


「皆、席について。

 本日は――魔力共鳴の基礎を扱う」


(げっ……来た。学園三大・難関授業……!)


「魔力共鳴はコツをつかむまでは難しいが――

 魔道具の起動や複合魔法の要となる重要技術だ。

 他人の魔力との共鳴まで行けば、

 出来ることが無限大に増える」


教官は黒板に魔力回路の図を描きながら続ける。


「まぁ、理論より実践だ。

 これが魔力共鳴を安全に練習するための道具だ。

 固有の魔力を流し続けるから、

 それに自分の魔力の波長を合わせてみろ」


教官が木箱をバンッと叩いて、満足げに言う。


(新学期早々ついてないわ)


魔力共鳴と言えば、中庭のストレステスター事件。

散々に痛めつけられた記憶が甦り、反射的に背筋がこわばった。


とは言え、この器具はストレステスターとは違うらしい。

ストレステスターは魔力を強制的に共鳴させてきたけれど、この機械はどうやらこちらが流し込む側のようだ。


(でも、気絶はするのよねぇ)



なぜ知っているのかって?

そう。

これ、王子ルートの導入なのだ。



私があまりにも魔力共鳴の授業で気絶しまくるものだから、見かねた殿下が練習に付き合ってくれる。


その過程で仲良くなっていくという流れ。


とは言え、私も黙ってイベント発生を待つつもりはない。

いや、まぁ半分くらい諦めているというのも本当なのだけれど――


ローザ様の介入で、今まで最悪の事態を避けられていることが、私にまた少しの希望を与えていた。


(魔力共鳴自体は気絶しなくてもできるようになるかもしれない……!)


魔力共鳴で気絶したり仲を深めなくても、すでにそれなりに殿下との接点はあるのだ。


王子イベント発生条件は、好感度と魔力共鳴。

魔力共鳴を自力で何とかすればいい。


……そこまで考えてふと自分の矛盾に気づく。


(あれ?

 いや、でも王子イベント発生してほしくないのよね?

 なんで今発生するための条件整理してたんだっけ。

 

 あ、そうか。

 ひとまず目の前の気絶を回避したいからだわ。

 でも気絶しないってことは

 魔力共鳴ができるようになっちゃうってことだし、

 そうすると王子イベント発生しちゃうし。


 いやでもどうせ王子イベントは

 避けられないだろうから、

 痛みは最小限のほうがいいわよね……


 ってもう!!!

 こんがらがってきた!!!)


ぐるぐると考えに耽っているうちに、ローザ様があっさりと魔力共鳴を成功させて教室が歓声に包まれた。


なんと、器具が設定できる全ての周波数に共鳴させたらしい。

さすが規格外。

先生が、心なしか青くなっている。


(あ、多分、先生より優秀だったパターン)



「次!!リリエル・フォーン!!」


防御膜をはじめとするその他の授業がなまじ優秀なせいで、周囲の視線がなんとなく期待混じりなのがつらい。


「リリエル様なら、すぐ出来るんじゃない?」

「光属性だし、相性よさそうよね」

「結界に比べたら、共鳴は基礎中の基礎だもの」


やめて、そんな目で見ないでほしい。


(いやでも、出来るかもしれない。

 最近の私は魔力のコントロールが

 かなり上達しているもの)



そう自分に言い聞かせつつ、

机の上に置かれた結晶玉をそっと両手で包む。


透明な球体の奥では、規則正しい魔力の波が静かに脈打っていた。


(……深呼吸、深呼吸。

 合わせて……寄せて……少しずつ……)


自分の魔力を細く細く伸ばし、

波長を探るように触れさせていく。


結晶玉は何も反応しない。


(……いいじゃない。暴走してないだけ上出来よ)


さらに魔力を近づけると、

結晶玉の奥の波長がふっと揺れた気がした。


(いける……!

 本当にいけるかも……!)


周囲の視線が集まる。


「すごい……光ってきてない?」

「やっぱりリリエル様……!」

「光属性の本領ね!」


結晶玉の内部の光が、じわりと大きく――


――次の瞬間。


ドンッ。


胸の奥が、強い力で引き込まれた。


(……え?)


波が、逆だ。

こちらが合わせにいったはずなのに、

相手の波が急に膨らんで飲み込んでくる。


(ちょ、ちょっと待って、逆流してる、これ……!)


結晶玉が震え、

光が細い糸のようになって指先を巻き取っていく。


バチッ!!


「きゃっ!?」「危ない!!」


あっという間に体内の魔力が乱され、

視界が一気に白く染まった。


(うわ……これ……ストレステスターの時と……同じ……)


胸の痛み、息が詰まる感覚、

遠くなる音。


(やだ……やっぱり、気絶……)


お約束すぎて、慣れてきたな ――


そんなことを頭の隅で思った瞬間、

意識がふっと軽くほどけた。




薄い布団の重みと、わずかな消毒薬の匂いが鼻をかすめた。


(……そうだ、倒れたんだった)


まばたきをすると、視界の端に影が揺れる。

ベッドの横の椅子に、ジュリアン殿下が座っていた。


「でっ……!!」


声が裏返るのを、慌てて飲み込んだ。  


(なんで殿下……?)


殿下は、安心したように息を吐く。


「リリエル。よかった……。

 ローザリアに頼まれて来たんだ。

 今日は実技のあと予定があったらしくてね。

 “念のため見てきてほしい”と」


(ローザ様……!

 殿下を使いによこすとか……!

 ほんと色々規格外……!!)


殿下は私の表情を気遣うように、声を和らげた。


「共鳴具の魔力が逆流したって?

 本当に大丈夫?」


「……はい。慣れているので……」


言った瞬間、自分でも少し悲しくなった。


殿下は眉を寄せ、少し考えてから言った。


「本来は安全な器具なんだけど……

 光の魔力は純粋すぎるんだと思う。

 僕の場合は、光があることで、

 他の属性をひとつにまとめてくれるんだけど」


あぁ、そういえば——

殿下も光の魔力を持っているんだった。


窓からの光が殿下の瞳に反射して、

ほんの一瞬、淡い金色がまざったように見える。


「光が媒介になって全体を整えてくれるから、

 僕は共鳴が得意な方なんだ。

 でも君は”光だけ”だからーー

 どれだけ難しいことをやっているのか、

 頭が下がるよ」


穏やかに届くその声に、

胸の奥がじんわりとあたたまった。


殿下は一拍置いて、まっすぐこちらを見る。


「もしよければ……練習につきあうよ。

 人との共鳴は本来応用だけど、

 僕となら上手く行くかもしれない」


「殿下……」


一瞬、頷きそうになる。


……どうせイベントは避けられないんだし、

もう殿下にお願いする??

ルートにのっかったほうがスムーズだ。


ううん、でも……


私は身体を起こし、首を振った。


「ありがとうございます。

 でも、もう少し自力で頑張ってみます」


殿下は驚いたように目を瞬いた後、ふっと優しく笑った。


「そうか。

 無理をしないと約束してほしい。

 いつでも必要な時は頼って」


「……はい」


布団の端を握りしめながら、私は心の中でローザ様の顔を想像する。


(……絶対、これも計算してたわよね。

 “来られない理由”なんて、

 あの人ならいくらでも作れるし……)


静かな医務室に、遠くで鳴る鐘の音が重なる。


こうして、新学期の一日目がようやく幕を閉じようとしていた。

次回、水曜20時更新です。


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