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慌ただしい新学期

そんなこんなで、新学期が訪れた。


休暇を挟めば噂も落ち着くと思っていたのに、むしろ勢いを増している。

あの夜の光景が、どうやら各地の領地でも語り継がれてしまったらしい。


「ねえ、光継祭、ご覧になりました?」

「もちろん見ましたわ!!リリエル様、本当に美しくて……」

「聖女様が光に包まれて、まるで神話の一場面みたいでしたわ」


(……朝から飛ばしてるなぁ)


聞こえないふりで歩くけれど、噂話は容赦なく耳に入ってくる。

冬の朝は寒いのに、まるで空気が、彼女たちの声の温度に引きずられているみたいだ。


「殿下もいらしていたのよ」

「まぁ、本当に?」

「ええ、リリエル様をご覧になっておいででしたわ」

「まぁぁぁ!」

「ローザ様も近くでご覧になっていましたのよ。

 なんでも、神殿のお手伝いをなさっていたとか!」

「もしかして、リリエル様をお助けするために…?」

「「「まぁぁぁ……!」」」


思わずつまずきそうになる。

……ほんと、この学園大丈夫かな。


「皆様がうらやましいですわ。

 私の領地からは遠くて……

 実際に拝見することはできませんでしたの」

「わたくしもですわ」

「わたくしも」

「聖女様の光の護符、私も欲しかった……」


(ん?護符……?)


そっと周囲を見ると、光の護符をキーホルダーみたいにしてカバンにつけているご令嬢がちらほら目に入る。


(初日からこの普及率。どういうこと?)


そんなことを考えていると、後ろから澄んだ声が届いた。


「リリィ、おはよう」


瞬間、心なしか空気が鮮やかに揺れる。


「おはよう、ローザ様」


振り返りながらそう返して、ふと視線がローザ様のカバンに吸い寄せられる。


「ローザ様!それ……!!」


「ふふ、可愛いでしょ?

 せっかくリリィがくれだんだもの。

 いつでも近くに置いておきたいと思って」


ローザ様仕様の赤い護符と、

以前街で買った私の色の水色の護符。

ふたつ並ぶと嫌でも目立つ。


……が、それ以上に目立つものが視界に入った。


「いや、可愛いんですけど。

 ……指、どうしたんですか」


細い指に白い包帯が巻かれている。しかも、全ての指に。


ローザ様の上品な仕草には不思議なほど似合っていないのに、それがむしろ彼女の素を際立たせているようにも見えている。


チグハグなんだか、それすら良くわからないカオス感が、たった10本の指に込められているのがなんだかおかしい。


「ああ、これね?

 護符に紐をつけるときにちょっとね。

 裁縫って難しいのねぇ」


「えええ……いや、侍女にやってもらうとかあったでしょうに。というか、治癒魔法……」


「いやよぉ、せっかくリリィがくれたのに、他人任せにするなんて」


「いや、治癒魔法は……」


「私、治癒魔法使えないのよ。

 さすがにこの程度で誰かにお願いするのもねぇ。

 まぁこれくらい、すぐ治るわよ」


……なんというか、本当に想像の斜め上を行く人だ。

公爵令嬢なんだから、人もお金も使いたい放題だろうに。


――と、一呼吸置いたところで、ようやく気づく。



空気が。

空気が……おかしい。



廊下に満ちていた噂話の声が静まり返って、

静寂の中に不思議な熱気が満ちている。


恐る恐る周囲に目を向けると、途端にまたざわめきが渦を巻いた。


「ねぇ!聞いた?」

「ええ、もちろん、わたくしの聞き間違えではないのね!?」

「ええ、ええ、私も間違いなく聞きましたわ!」


 「「リリエル様の言葉遣い・・・・・・!」」


(ああ、やっちゃったわ)


一瞬で、熱気の原因を理解する。


「リリィ?どうしたの?」


「いや……いえ、ローザ様は感じません?」


思わず敬語で話してしまう。


「ちょっと、突然よそよそしいわね」


「いやぁ、なんというか、ねぇ……」


「もう、リリィは人目を気にしすぎよ。

 ……”あの日のこと”をなかったことにするなんて、酷いわリリィ……」


「ちょっ!ローザ様、変な言い方やめ……!!」



「「「「きゃーーーーー!!!」」」」



「……」


……ダメだ。完全に火に油を注いだ。

私たちの会話を聞き逃すまいとするしんとした空気と、興奮した悲鳴の温度差がえぐい。


(ローザ様、絶対楽しんでるな)


私は盛大な溜息をついた。


登校から30分もたってないというのに、

なんだかもうがっくりと疲れた。

先が思いやられる。


(それはそうと……護符、あれだけ人気なら本格的に作る?

 お祭りの時の簡易版は、本当に“触れただけ”でできるし、そそまでの負担もないわ)


光継祭の反応を目の当たりにして―――

不本意ながら、聖女の自覚が芽生えてきてしまっている。


学園に入る前はあんなに負担だと思っていたのに、不思議なものだ。


(たぶん、出来ることが増えたのが大きいわね)


でも、やっぱり”シナリオ通り”は嫌だな、とも思う。

その一方で、シナリオは避けられないと受け入れている自分もいて。


そんなことを思いながら、ローザ様をちらりと見やる。光の受け渡しも結界も、ローザ様のお陰でできるようになったのだ。


(ローザ様、悪役令嬢じゃなくて、ナビゲーターなんじゃない?そんな役割、あるのか知らないけど)




その時、ざわめきの方向性が変わり、道を開ける気配がした。


「ローザリア、リリエル、おはよう」


柔らかな声に振り返ると、ジュリアン殿下が歩いてきていた。

朝の光を浴びた柔らかな青い瞳が、冬の廊下でやけに清らかに見える。


そして、殿下のカバンにも、紺色の護符が。


「この護符は本当に素晴らしいな。

 近くにあると、私の光の魔力がとても安定するんだ」


そう言いながら、殿下は小さな紙包みを差し出した。


「これは、お礼だ。心ばかりだが……受け取ってほしい」


中に見えたのは、王家御用達の高級チョコ。


「これ、物凄く高級品なのでは……」


「年始の贈り物とし沢山用意していたものだから、気にしないで」


(絶対労力と釣り合ってない……!!)


――恐縮しつつもありがたく受け取らせてもらった。

エビで鯛を釣った感がすごい。


それにしても、殿下が光の魔力持ちだったとは、初めて知った。結構重要情報だと思うのだけれど。


横でローザ様が小さく微笑む。


「あら。殿下も護符に紐をつけましたのね?」


「うん。年始の挨拶で王宮へ来てくれた時、

 君が扇子に結びつけていたのを見てね。

 気に入って、真似してみたんだ。

 なかなかいいだろう?」


殿下は続けた。


「しかし……驚いたよ。

 他のご令嬢方もみな同じように護符を飾っていて」


「ふふ、殿下へのごあいさつの後のお茶会で、質問攻めにあいましたから」


ローザ様は少しだけ自慢げに言う。

……流行りの元はどうやらローザ様だったらしい。


廊下では、またもやざわめきが広がり始めていた。


「殿下の護符……!」

「リリエル様が……!」

「高級チョコを……!」


(いやいやいや、もういいから!!)


私は今日二度目の深いため息をついた。



新学期は――

期待とは裏腹に、騒々しく幕を開けた。








新章が始まりました!

月曜20時更新。

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