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夢と現実をつなぐもの

翌朝、目を覚ますと、神殿中が騒がしかった。


「なんと!! 聖女の奇跡だ!!」

「遠い昔に枯れたと伝わる神聖な泉が、再び……!」


あまりの喧噪に、神官に連れられて外へ出ると――

神殿の広場に、小さな泉が湧き出していた。


石畳の一角が割れるようにして口を開き、

透明なお湯がこんこんと湧き出している。

薄く湯気を立てて、朝の冷たい空気に白い霞をまとわせていた。


(……え。ちょっと待って。どういうこと)


ぽかんと立ち尽くす私の横で、

ローザ様が口元に手を当て、クスクスと笑っている。


「……ローザ様?」


「うふふ。水脈自体はまだ健在だって、授業で習ったしね」


え……

もしかして、地熱の代わりに、ローザ様が水脈を温めたの……?


「ま、まさか……クロイツ領で突然湧いた温泉も、もしかして……!」


「私じゃないわよ。火竜の熱よ?」


しれっと言ってのける。


噴水を枯らしたどころじゃなかった。

まさか温泉を沸かしまうなんて、規格外にもほどがある。


(……ってことは。火竜の熱が

 ぐるっと回って、ここで泉になったってこと……?)


神殿の広場に、昔聖なる泉が湧き出ていたのは有名な話だ。


(……縁起は、いい。……いいんだけど)


まさかこんなオチになるとは思わなかった。

じっとりした目でローザ様を見ると、

わざとらしく目をそらす。


その仕草がどことなく子供じみていて、

思わずふっと笑ってしまう。


(夢の世界と現実が、つながったみたい)


銀河鉄道から降りてしまったはずなのに――

あの幸せな時間の名残が、

こうしてちゃんと現実に残っている。


「ここ、どうなさいますか、ローザリア様、聖女様!」


慌てふためく神官たちに、

ローザ様がさらりと言った。


「そうね……足湯になさったら?

 参拝の方も喜ぶと思うわ」


「なるほど! さすがはクロイツ家ご令嬢……!」


あれよあれよという間に話が進み、

“聖女の泉”として整備されることがその場で決まってしまった。


湯気の向こうで忙しく立ち働く神官たちを眺めながら、

私はそっと息を吐く。


(……聖女の奇跡じゃなくて、火竜の加護、のほうが合ってそうだけど)


でも、それを口に出すつもりはなかった。

”都合のいい夢”を少しだけ支える役も、悪くはないのかもしれない。


隣では、ローザ様が満足そうに泉を眺めていた。



夜通し行われた祭りの反動か、今日の町はどこか静かだった。

そんな中、後片付けだけは粛々と続いていて――


「リリエル、今回の光継祭は君のお陰で素晴らしいものになったよ」


見回りをしていたジュリアン殿下が声をかけてきた。


「それにしても、あれは演出かい?

 最後、君が光の中に浮かんでいるように見えた」


「い、いえ……そんな風に見えたなら良かったです」


(殿下、それ気絶して、自己治癒で光ってただけなんです……)


こんなところにも強制力が効いているのだろうか。

私が気絶したと気づいたのは、神官たちとローザ様だけだったようで。ホッとしたような、何とも言えない気持ちになる。


多分、みんなにはあのゲームのワンシーンみたいに見えている。

私も、気絶した本人なのに、どうやって倒れたかわかる。確かに神々しかったよね。


ふと横にいるライナーを見やると、夜通し警護をしていたのか少し目の下にクマが浮かんでいるように見えた。


「ジュリアン殿下、アルデン先輩、これ」


お祭り用の簡易護符を手渡す。

じつはちょっと多めに光を込めた、特別仕様だ。

もちろん、ローザ様にはとっておきのやつを渡してある。


受け取ったライナーが驚いたように目を開く。


「これ……聖女殿の光・・・・・・」


「ええ、普段お世話になっている人に特別仕様で作ったんです。

 少しは癒しの力があると思うんですけど……」


「少しなんてもんじゃねぇよ。これ、すげえな」


「ほ、ほんとですか?」


「ああ、リリエルの光はやはり特別だな。

 治癒魔法とも違う……優しい魔力だ」


殿下が目を細めた。


「あとはクラヴァ―ル先輩の分もあるんですけど……

 お祭りの時は渡せなくて」


「ああ、クラヴァ―ルなら研究室にこもっているぞ。

 リリエルが行ったら喜ぶんじゃないかな」


「ええ!?年始早々研究ですか!?」


「と、言うより、年越しを研究室でしたようだな」


「えええ……信じられない……」


「もし行くなら、これを持って行ってやってくれないか?

 クラヴァ―ルの好物なんだ」


そう言って手渡されたのは、ぐるぐるにカットしてある、フライドポテトの串。


「……なんか、意外ですね」


「そうだろう?私がこの後寄ろうと思っていたのだが、

 もう少しかかりそうだから……

 頼んでもいいだろうか」


「もちろんです!」


(クラヴァ―ル先輩、喜んでくれるかな……)


――そんなわけで、私はクラヴァ―ル先輩に会いに、馬車を飛ばして学園に向かったのだった。



クラヴァールは、測定器具を調整しながらふと窓の外を眺めた。


いま頃、神殿では光継祭が始まっているだろう。

(今年は光の護符か……人数分、相当苦労したはずだ)

ほんの少し胸がそちらへ向きかけるのを、自分で押し戻す。

いま優先すべきは研究だ。


年末年始は寮も閉鎖されるが、研究棟だけは灯りがともりっぱなしだ。

さすがに年越しまで研究に没頭しているのは自分くらいではあるが。


机の上の書類に目を落としたとき、

あの日のリリエルの声が、ふっと思い出の底から浮かんだ。


『世の中を変えるのは、きっと先輩みたいな人だと思いますよ』


励ましだとわかっている。

それでも胸の奥に、光の粒のように残って離れない言葉だった。


劣等感を乗り越える方法は、努力しかない。

だから今日も、机に向かう。



――翌日の昼。

ガチャリと扉が閉まる音で目を覚ますと――


机の上に、好物のポテト。横には可愛らしい護符が置かれていた。


(……リリエルか?)


手に取れば、ほんのりと温かい。


(せっかく来たなら、起こしてくれればいいものを)


――会えたら良かった。

浮かびかけた感情を振り払うように護符を包み込む。


じんわりと伝わる熱は、控えめで。

そのあたたかさが、まるで彼女そのものみたいだと思った。




 

 



ローザ様との関係の進展も、けっして夢ではないんですよね。


次回から新章突入です。明日20時更新。

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