【番外編】下位互換イベントと手合わせ(ローザ視点)
昼下がりの廊下。
書類に目を通していると、やけにざわめきが大きくなる。
「聖女様が……!」「騎士様が抱き上げて……!」
なにそれ、どういう状況?
(……今度は何をやらかしたのかしら?)
この学園に来てからというもの、あの子のまわりだけ現象の密度が高い。
火竜の暴走もそうだった。
まぁ、引き起こしたのは私なんだけど。
(あの時は、本当によくやったわ。
光は、扱うのが難しいのよ。
なのに、ちょっとコツを掴んだら、すぐに結界をあんな規模で展開してしまうなんて)
――その光の軌跡を、私はまだ掌に覚えている。
光は扱えない私にとって、それは――少し、感動的ですらあった。
(光以外の属性は全部あるのに、ね)
噂の出所をたどって中庭を抜けると、医務室の前に人だかりができていた。
(……見に行く気はなかったのに)
扉のすき間から覗くと、彼女がベッドに座って頬を真っ赤にしている。
その隣には、あの騎士――ライナー・ヴァン・アルデン。
あの真面目さで、また全力で何かしたのだろう。
たぶん彼も、リリエルと同じ、”この世界の特別な人”だ。
(でもきっと、リリエルがヒロインで、彼は……なんだろう?リリエルほどには特別じゃない気がするわ)
「……どうしてあそこにいるのが私じゃないのかしら」
誰にともなくそう呟いて、静かに踵を返す。
怒っているわけじゃない。
ただ、胸の奥に言葉にならないもやが残る。
わかってる。
私の”特別”は、たぶん、彼らとは違う種類だ。
窓の外、夕陽が校舎を照らす。
(……まあいいわ。いざというときにリリィの力になれるのは、私よね)
書類を抱え直して、静かに歩き出す。
背後で「お姫様抱っこはもうやめてください!」と騒ぐ声が聞こえた。
肩をすくめて小さく笑う。
「……意味はわからないけど、まあ、元気ならいいか」
赤く染まる空がリリエルの髪をピンクに染める瞬間を、頭に思い浮かべた。
◇
(――思った以上に観客がいるわね)
放課後の訓練棟。
アルデン先輩の「手合わせ」は本気だったらしい。
(あまり目立ちたくないのだけれど……)
でももう遅い。
こういう場合、負けておくのが無難かしら?
と、一瞬だけ思う。
ちらりとリリィのほうを見ると、何やら緊張しているようだった。
(ふふ、結構顔に出るのよね)
「クロイツ令嬢!それでは、よろしくお願いします!!」
学園では私のほうが後輩なのに、こういうところは律儀な人だ。
そう思ったところに、鋭い一撃がやってきた。
(ふうん、肉体強化……土と火、かしら?
スピードもあるから風もね)
戦闘センスはなかなか。
私は風の流れをうまく利用して攻撃を避ける。
正直、肉体の動きは“見える”から、そこまで脅威ではない。
(距離をとって攻撃魔法を仕掛けてもいいのだけれど……
さて、どうしようかしら)
そう考えていた瞬間。
――大きな衝撃が襲った。
(驚いたわ。
肉体強化の域を超える衝撃派……
これ、火竜にぶつけてたやつね)
反射的に闇魔法で吸収する。
――ちょっと面白いかも。
ぴりり、と私の闘争心に火が付くのを感じた。
(……いいわ。
せっかくだし、接近戦で叩きのめしてあげる)
ライナーは今の攻撃が効いていないことに動揺している。
そういうところはまだ未熟ね。
(ふふ、お返しするわね)
私は大して得意でもない打撃を繰り出す――
“ふり”をして、さっき吸った衝撃をそのまま返した。
ドゴン!!
ライナーが壁に衝突すると同時に、どっと歓声が上がる。
ちらりと横目にリリィを捉えると――
うん、たぶん、闇魔法使ったって気づいたわね。
目で合図を送ると、あきれたような顔。
ジュリアン殿下がクスクス笑っているのも見えた。
(あらあら。この二人にはバレちゃったわね)
それがほんの少し嬉しくて、口元が緩む。
クラヴァ―ル先輩がいなくてよかった。
また暴走されたら面倒だもの。
(口止めに、甘いものでもご馳走しなくちゃね。
何がいいかしら ? 今の季節なら――)
そんなことを考えながら、
私はさらにライナー先輩をぼこぼこにして――
結局、目立ってしまったのだった。
初のローザ視点でした。いかがでしたか?
次回から新章突入です!水曜日20時更新
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