騎士との恋愛イベントも、一応回収出来ました
医務室に着いた途端、血相を変えた教師達に医療棟送りにされた私達は、検査やら治療やら事情聴取やらを受け――
ようやく落ち着いてベッドに腰を下ろせた。
――ふと思い出して袖から護符を取り出してみる。
「あら、それ、もしかして冷却魔法?」
ローザ様が覗き込んで尋ねた。
「あ、はい、そうなんです、火竜が少し怖くて……」
「ふふ、持っていて良かったわね。
それがあったから、火竜の炎に耐えられたのね」
「え……?」
「私も自分にかかる熱気は闇魔法で逃してたんだけど。それでもこのありさまよ」
……確かに、そうだ。
あまりに必死で気づかなかったけれど、準備していたことが役に立っていたんだ。
「……ん?待ってローザ様、結構火竜に近づいてましたよね?」
あれだけの熱を何処に……と疑問に思ったその時。
『ぎゃー!!噴水が沸騰してる!!!』
……外から悲鳴が聞こえた。
(え、まさか……)
ローザ様をまじまじと見つめてしまう。
ローザ様は悪戯っぽく目を細めた。
「うふふ、内緒にしておいてね?あと、クラヴァ―ル先輩にはしっかりお礼をしておいたほうがいいわよ?」
どこから突っ込んでいいのかわからないけれど、
もしかしたら、いやもしかしなくても、クラヴァ―ル先輩は命の恩人のようだ。
「あ、あと、アルデン先輩にもついでに」
(ついでかい!)
正直声を出す元気もなかったので、心の中でだけ突っ込んでおいた。
――あんなに火竜が暴れまわったというのに、大きなケガをした生徒はほとんどいなかったらしい。私も自己治癒力が強いので、ひと眠りすればほとんど回復するだろう。
とは言え大量の魔力を消費した私とローザ様は、午後の授業は全て休んで医療棟で過ごすことになった。
途中ライナー……もとい、アルデン先輩がお見舞いに来て、ローザ様にこれまでの非礼を詫び、おずおずと手合わせを申し込んでいた。
(実直で素直……ね。まぁローザ様への態度を改めたなら言う事はないわ)
それにしても。
ローザ様ですらボロボロにするほどの炎を至近距離で浴びたにも関わらず、ライナーはけがの一つもない。
さすが攻略対象の一人、ということなのか。
(――まぁ、ほとんどローザ様が鎮圧した後だったんだけどね)
火竜は、ゲームに比べて明らかに激しく暴れまわっていた。
ライナーはこの状態の竜を、ローザ様なしでも鎮圧できていただろうか。
正直、なんというか、攻略対象のわりにライナーの存在感が……薄い。
(まぁ、別にどっちでもいいか。とにかく、無事終わってよかった)
あまりの疲労に、雑に思考を放棄して毛布にくるまる。
――この時の私は、前回のイベントで起こった"帳尻合わせ"をすっかり忘れていたのだった。
そして、平穏が戻った、ある昼下がりの中庭。
なんだか、ここ数日おかしい。
廊下で振り返れば――すぐそこにいる。
図書室でも、気づけば隣の棚から本を取っている。
食堂の出口でも、なぜか真正面から歩いてきて目が合う。
(……いやいや、偶然、偶然……よね?)
でも、視線が合った瞬間のあの微妙な沈黙。
何か言いかけて、結局「……いや、何でもない」で去っていくあの感じ。
(……なに? 見張られてる?)
どこへ行っても、なぜか彼――ライナー・ヴァン・アルデンが現れる。
荷物を持てば、「貸せ」と無言で取り上げてくる。
(いや……これ、見張られてるって言うより
……見守り? 警護? なにその距離感!!)
ーーまさか、これ、強制力?
前にもあった。
魔力暴走の後、回収されなかった恋愛イベントが、
“下位互換”としか言えないクオリティで再現されたことが。
(でもおかしいわね。確かにクラヴァール先輩との時は、“彼が私を助けて回復させる”っていう、わかりやすい展開だったけど……
今回は何を再現するのかしら?)
ゲームではライナーが、
「気絶してまで皆を守るなんて……彼女こそ真の聖女だ」
と感動して、騎士の誓いを立ててくれるのよね。
……ってことは、まさか。
え!? 私、気絶しなきゃダメだった!?
もしかして――この人、私が気絶するの、待ってる!!?
「リリエル、危ない!」
「え?」
次の瞬間、足元の石段でつまずき、階段を踏み外した。
――ああ、やっぱり――
そう思った瞬間、強い腕が引き寄せた。
(ちょっ……え、待って待って待って!!)
世界が一瞬、逆さになる。
気づけば地面が遠い。
今、私――
(……お姫様抱っこ、されてる……!?)
ライナーの表情は至って真剣。
「足をくじいたか? 医務室まで運ぶ」
なんて言ってくるけど……。
その瞬間、頭の中によみがえった。
イベントで気絶した私をお姫様抱っこで運んでるスチール――
ほんの一瞬だったけどあったわよ!
(うそでしょ!? これが恋愛要素!?
“お姫様抱っこ”そんなに重要だった!?)
しかも距離が近い。
肩越しに彼の匂いまで感じる。
やだ、ローザ様は戦ってる時だっていい匂いだったのに……
いや、そもそも何この抱き方、角度、近っ!!
(お願いだから落として……じゃなくて、下ろして!)
なのに、ライナーは真面目そのもの。
淡々とした声で「聖女のくせに、無理をするからだ。ったく」とか言いながら歩き続ける。
(いや、何も無理してなかったから。おかしくない?色々と)
「……顔が赤い。まさか熱もあんのか?」
「違いますっ!! 恥ずかしいだけですっ!!」
(ああもう! なんでよりによってここで!?)
静まり返る廊下。
医務室の扉が開き、彼は丁寧に私をベッドへ下ろした。
「聖女を守るのは、騎士の仕事だからな」
その瞬間――
『騎士として、これからは必ず守る』
ゲームの音声が、脳裏に再現された。
(あぁぁぁ!!騎士の誓い!?ここで!?
いや、これ、誓われてるの!!?
セリフが違うからよくわからない!!!)
……まぁでも、そりゃそうだよね。
お姫様抱っこのほうが恋愛イベントなわけ、ないよね……
冷静に考えればその通り過ぎる。
自分のポンコツぶりがいたたまれなくて、
脳内の叫びが白い天井で延々反響している気がした。
ふと窓の外を見上げる。
陽の光が傾いて、赤く差し込む。
――ローザ様にすべてを打ち明けたらどんな顔をするだろう。
そしたらきっと、
「リリィ、次はどんな“下位互換イベント"が来るか賭ける?」
って、笑うんじゃないかな。
そんなありえない未来を想像して、少し泣きたい気分になる。
私は、クライマックスに起こる”断罪劇”については、考えないようにした。
次回、番外編としてローザリア視点です。
火曜20時更新。
次回から、更新日時を火曜、水曜、木曜、土曜に変更します。
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