97話 海人
ザザァ
波の音が辺りに響く
風に揺られる金髪とくせっ毛
二人は船尾の柵から足を出し海を眺める
「……で」
「呼び出して何のようですかねリリアさん」
エリックは少し不安げな表情
「何その顔、そんなに私に呼び出されるのが嫌なの?」
「いっ……いやぁ……そんなこと……ないよ…うん」
たどたどしい口調
「めっちゃ嫌そうじゃん」
リリアは横目にエリックを見る
「嫌とかじゃなくてだな…こうも改まって緊張しましてですねぇ」
(昨日の事があるからどう接していいかとは言えん!)
「別にただ話すだけだし…」
「ただ聞いて…それだけでいいからさ」
「お願い」
リリアは柵を握りしめる
…………
「わかった…」
「で何を話してくれるんだ」
リリアは足をぶらつかせる
「昨日ジェルダンさんと話してさ…やっぱり理解してくれる人がいるっていいなって思ったの」
「それでさ今まであれこれ考えてきたけど、ここで一回…」
「何も考えずにエリックには知ってほしいなって……その…私の気持ちというか」
「この旅をしようと思ったきっかけと目的をさ」
ヒュゥゥ
波風が二人を揺らす
「前に聞いた話気がするがそれとは別なのか?」
頷くリリア
「そっか…じゃ聞かせてくれ」
…………?
「なんか甲板の方騒がしくないか?」
「うん…なんか」
二人は立ち上がり甲板へ走る
タッタッタ
「大丈夫か?…………????」
甲板へ飛び出し目にする異様な光景
「えぇ……と」
リリアは困惑する
ずび
「誰でもいいから助けてくれぇぇぇえええ!!」
甲板中央で紐で縛られる少年
それを見守る一同
「うるさい」
バシ
メグリの一撃
エリックとリリアは階段を降りる
「おいおいどうしたんだよこのガキは」
エリックは顔を近づける
ペッ
べちゃ
エリックの顔に唾を吐く
………
グリグリグリ
「いででで……やめでくれぇ」
少年の頭をすりつぶす
「ごめん……ごめんだから」
ドサ
「……で何なんだよこいつは」
ジェルダンは呆れ顔で説明する
「海で漂流してるこのクソガキを見つけてね」
「害はなさそうだし……見逃すのも気が引けるから拾った……」
「途端にこの船を明け渡せとかわけわからん戯言を抜かしたから縛って海の餌にしようかと」
「えぇぇ!聞いてないよそんなこと!!」
慌てる少年
「あぁ…言ってなかったっけ?」
「もうそんくらいでいいだろジェルダン」
エリックは両者の間に入る
「でだガキ、お前は何なんだ」
「どこからきた?何で海で漂流していた?目的は方法は」
バタ
倒れる少年
「うぅ………くる……苦しい」
「ちょっと……この子」
リリアは不安そうに近寄る
「待て!」
ビクッ!
「何!?」
「得体の知れんやつにはどんな状況も近寄るな」
「でも!この子苦しそうだし」
ポン
ジェルダンはリリアの肩に手を乗せる
「だからこの船には船医がいる」
「ディクス!」
ヒュー
ドォン!
ディクスは監視台から飛び降りる
「ディクス、頼む」
ディクスは腕をブンブン振る
「おう、任せといてくれ」
ディクスは少年に両手を突き出す
ポワァ
少年を囲むように青いドーム状の膜が形成される
「うぅ…………はぁ…はぁ」
少年の表情は和らぐ
それを見るリリア
「これは……」
「診断結界」
「こういった輩は仮病で相手を油断させる姑息な手を使うからね」
「診断結界を使うまで近づかないのがセオリーだよ」
「でも……」
「わかってる、この少年は大丈夫だと思うけど用心することは無駄にならないってことさ」
ピタ
ディクスは少年の首元を触る
「定核血栓海泡だな」
「そのガキは助かるのか?」
「あぁもちろんだ」
グイ
ディグスは少年を持ち上げる
「船に乗ってる奴は俺が治すからな」
「頼もしいねぇ」
ニヤつくジェルダン
「じゃ俺は医務室で見てくるからあとは頼んだぞ船長」
「うん!任せけ」
ガチャ
「ところで他の人は?」
グイ
リリアの服を引っ張るメグリ
「あそことあそことあそこ」
指を船側面、監視台、床の三箇所にさす
「あぁ……えぇと」
「そこにいるってことかな?」
頷くメグリ
「一応全方位に配置しているが……」
周囲を見渡すジェルダン
「まぁ夕刻まで続けるか……ニネット!」
ビュン!
船首から飛んでくるニネット
「どうしたにゃ」
「上のイルマが全方を見ててくれるから」
「後方にアンスを、側面はお前とヒヨルで夕刻まで見るよう言ってくれ」
「エリックはあのガキから情報を聞き出す」
「前方と甲板は私が見とく」
「了解にゃ!」
ビュン!
ニネットは飛び立つ
「それとリリアはメグリの護衛を頼むよ」
「任せてください!」
うん
「じゃあエリック頼んだよ」
「おう」
医務室
ぐーぐー
「もう大丈夫なのかそのガキは」
壁に寄りかかるエリック
「まぁ症状は軽症だったし…こいつの元の耐性が勝ったって所だな」
「常人なら1週間前に死んでるだろうぜ」
「常人?」
グイ
ディクスは少年の袖をめくる
「ほらみろよ」
「これは……」
少年の腕は太陽光に照らされ淡い青色に輝く
ディクスはそれを見る
「この皮膚の輝き海人の血統種族「マリアレィス」だな」
「あぁそうだな」
「だがおかしいな、マリアレィスの居住海はもっと北の海だと思っていたが」
ディクスは立ち上がる
「こいつは最初船に乗って漂流していた、引き上げる時大破したが」
「それにこいつらの居住海は魔海域を挟んで向こうの北側にある、それに加え定核血栓海泡の症状は過度な空気圧、大気の重さなどで体中の血液や体組織、魔元素の運搬が滞り血管中に泡ができて吐き気や眩暈が起きる」
「海中から地上に出て浮力がなくなり重力による症状の悪化…というかそれが原因かな」
「それを考えると…魔海域を迂回して海人の速度を考慮しても」
「2から3ヶ月かけてここまできたってことだな」
「いや他にもっと早くつく方法はある」
エリックは本を取り出す
「早いって……どんなだよ」
「1番簡単で1番過酷な道を行けばいい」
「俺たちも今そこを通るだろ?」
「って、まさかこいつも魔海域を通ってきたってのか……」
「こいつじゃない」
「こいつらだ」
!!
ドッ!
ガタァ!
医務室が傾く
「なにが起きた!」
しっ
「静かにしろよ……船が止まった」
「周りに海人がいる、俺たちはここを離れず戦況を見る」
「最悪…このガキを人質にでもすればいい」
「まぁ相手が応じるかどうかだけどな」
パァーン
外から大きな音が鳴る
「敵襲の合図だ!」
ガサガサ
ディクスは箱から武器を取り出す
「あぁ何でこんな時に……たくめんどくせぇな!」
本を読むエリック
「お前がさっき言っただろ」
「あぁ!?なにがだ」
「こいつは1週間前後で定核血栓海泡にかかってる」
「こいつの仲間はこのガキを囮にして船を奪おうって腹だよ」
「今にも死にそうな子供を使うってことは相当に逼迫してるか」
「そうとなクズな連中のどちらかだ」
ダンダンダン
甲板に飛来する海人
カチャ
魔銃を向けるジェルダン
「子供を囮にするなんてふざけた真似して」
「死ぬだけじゃ終わらせないよ」
「それに海人が陸地に来るのは不可侵条約に違反する」
バシャァ
濡れた巨躯が起き上がる
「船を……明け渡せ」
「出ないと殺すぞ」
傷だらけの戦士が睨みつける
ジェルダンは表情を変えない
「脅しになってないね」
「攻め方も作戦も杜撰」
「戦うならきなよ、私一人で殺すから」
はぁ……はぁ
海人は白い息を吐く




