96話 知ることの罪
「これって……」
「あぁこれはハンモックってやつさ」
部屋に横方向に吊るされている網目上の布
グイ
「これで寝ると船特有の揺れを気にせず就寝できる」
「どうだい?一回」
ボフ
「あぁ!」
ふふふ
笑うシャンザ
「初めてだと落ちる感覚に戸惑うだろ」
落ち着かないリリア
「はい……でも寝れそうです」
ゆらー
ゆらー
「では次に座れるかな?」
「はい」
グイ
グイ
「うぅ………」
ぼふ
「無理です」
はっはっは
「大丈夫だ旅の期間中にできるようになるさ」
ジェルダンの補助の元ハンモックに座る
「では隣を失礼」
ぼふ
………………
香水のほのかな甘い香り
…………………………
「大丈夫かい?」
「えぇ!……いや別に…良い匂い……ていや!」
リリアはハンモックを揺らし慌てふためく
「すみません」
笑うジェルダン
「いいさ謝らなくても、私は良い匂いかい?」
顔を赤らめる
「そう……ですねいい匂いです」
ピタ
ジェルダンの手はリリアの手に触れる
「ごめんね…別に怖がらせるつもりじゃないんだ」
「ただ君と二人きりで話したかったんだ…勇者の娘リリアと」
ジェルダンはどこか優しいような悲しいような表情をしている
「最初にエリックから手紙が来たときは驚いたよ」
「あの禁忌である勇者の死について調べてるって……どう考えても正気の沙汰じゃないだろ?」
「そう……ですね」
リリアの顔は下を向く
「でもね…その後にリリアのことが綴られてたんだよ」
「え……私?」
「そうさ、内容はあいつのために伏せるけどその文からは真剣さ……というかこう気迫が伝わってきたんだよ」
「リリアがこの旅にかける思いは文…しかもエリックが書いた文でもわかったよ」
トン
ジェルダンはリリアの胸に手を当てる
「君は禁忌だとか世界とかはどうでもよくてただ知りたいって事がね」
はっ………
リリアは顔をあげジェルダンを見る
「リリア…誰になんて言おうと何を失おうと知ることで君は繋ごうとしてるんだね」
「勇者…じゃなくてお父さんの生きた証を」
………
リリアはなんとも言えない表情でジェルダンを見つめる
「なんで……そのことを」
「言っただろ?文から伝わることだって」
「それにこれは私の勝手な妄想で……ただその妄想が合ってるかどうか魔海域に行く前に確かめたかったんだよ」
ニッ
笑うジェルダン
「つまりこれは私のわがままで今リリアを突き合わせてるってわけ」
「私は知りたい事のためならリリアがハンモックで気持ちよく寝てても起こす身勝手なやつなんだよ」
「これにはリリアも共感してくれると嬉しんだけどね」
がばっ
「おっと……これはこれは」
リリアはジェルダンに抱きつく
「こう……してて……いいですか」
「あぁいいとも」
ジェルダンは頭をさする
「辛いよね……本人からしたらただ知りたいだけなのに」
「他人から見ればイカれてるだおかしいだの勝手なことばかり言ってくる」
リリアは静かに頷く
「その内………他者からの罵倒も自分の中で消化しきれなくなって……」
「本当は自分がおかしいんじゃないかって自分さえ見失う」
「怖いよね…誰になんと言われようがへっちゃらだったのにいつしか自分の中から何かがなくなりそうな気がして」
ぎゅ
リリアの握る力が強くなる
それを感じるジェルダン
「別にリリアの気持ちがわかるなんて言わないけど……それでも一言だけ旅の途中で出会った誼で言わせてほしい」
ぎゅ
ジェルダンはリリアを抱きしめる
「大丈夫だよ、リリアは間違ってないよ」
ボタ
大粒の涙が落ちる
………………………………
エリックはテーブルに肘をつく
「外まで丸聞こえだってんだ……」
チャプン
「大丈夫かにゃ…」
ニネットは心配そうにドアを見る
「大丈夫じゃないんですよ」
ヒヨルは肩まで湯に浸かる
「大丈夫じゃないから私達はこうして旅をしてるんです」
「絶対に……必ず」
バサァ
アンスは海の音を聞く
トンカチを見つめるアンス
「俺に……できることは」
ぎゅ
強く握りしめる
夜が深まり船内談話室で酒を飲むジェルダンとエリック
「悪かったな……助かったよ」
グビッ
「あぁいいさ…あの子には私の全てを言ってあげたかったんだよ」
「それに…この世界はあの子にはあまりにも酷すぎる」
「誰かがなんの責任もしがらみも放棄して一言言わないと心が壊れちまうんだよ全く」
ふふ
笑うジェルダン
「そんな心配そうな顔すんなよ」
「大丈夫……リリアは信念を持ってるさ」
「あの子が流した涙で確信したよ、戦う意思がないと涙さえ落ちてくれないもんだ」
「昔の私みたいにね………」
…………
「おっと過去の話はしない約束だったっけかな?」
グイ
エリックは水を一気飲みする
ガン!
「いやいいさ…過去に目を向けることが後ろを向いてるとは思わないからな」
「そう……前を見てる自分がいれば今はそれでいい」
ジェルダンはグラスを撫でる
「どうしてこう…知りたい物に限って隠されちゃうのかねぇ……」
トプトプ
エリックはグラスに水を注ぐ
「多分みんな知りたくないんだろ真実を」
「知ったら嫌でも向き合わなきゃいけないもんな」
「嫌なことも全部……」
ジェルダンは酒に視線を落とす
「でもさエリック」
「知ることで得られる事も確かにあったんだよ」
「知らなきゃ向き合えない事だってある…」
「いつだって1番知りたくない情報が1番知らなきゃいけない情報だって……」
視線をエリックに戻す
………
グビ
「はぁ……もう寝るわ」
「夜の見張りはイルマに任せとけば大丈夫だからお前も寝とけよ」
「いいのかい?あの子に任せっぱなしでも」
「いいも悪いもあいつからの提案だむげにするのも気が引ける」
「人からの厚意は素直に受け取っとけよ」
「じゃ……おやすみ」
ガチャ
グビグビ
ガン!
「だっはぁ〜」
「じゃあお言葉に甘えて今日は飲んじゃおっかなぁ」
…………
リリアの表情が脳裏をよぎる
「あの涙は………」
「さすがに応えるな……大人がしっかり導かなかきゃいけないね」
キーキー
鳥の鳴き声が朝を知らせる
「お疲れもう下にいっていいぞ」
ディクスは偵察台に上がる
「もういいのか、僕はまだいけるぞ」
イルマは一晩中周囲の警戒をしていた
「いいって、十分助かったよ」
「早く降りて仲間のところにいってやれって」
「昼まで俺がバッチリ見張ってるからよ」
ディクスは腰にゴイツ特製のサンドを持参している
「ではお言葉に甘えるとしよう」
イルマはハシゴを降りていく
バグバグ
調理場で食べ物を貪り食うヒヨルとアンス
「このサラダ美味しいですぅぅ!」
「このプリプリするのなんですかぁ!」
赤く弾力がある食材
トントントン
ゴイツは食材を切りながら喋る
「あぁそれはプッセルという魚の切り身ですね」
「へぇ〜そうですか」
もぐもぐ
あむ
ライスを食べるアンス
(聞いといてそれ!?)
船前方
ブン!
クローを装備し素振りをするニネット
ふふふ〜♪
横で鼻歌混じりに本を読むジェルダン
「ねぇ船長」
ん?
「どうしたニネット」
ブン!
「今回の冒険って…あの子のためだったのかにゃ?」
パタン
ジェルダンは本を閉じる
「まぁ……エリックの頼みならって最初は思ったけど」
「今はあの子の願いを叶えたいってのが本音かな」
「すまない…訳も言わず依頼を受けてみんな困惑しただろう」
ブン!
「大丈夫にゃ」
トン
振り上げた足を下ろす
「私もみんなも」
「船長の意向こそ我らデ・エトラーデ船団の道標にゃ」
「船長も私達に遠慮しないでね……それが仲間ってものにゃ」
ふふ
「ありがとねニネット、ほんと自慢の仲間達だよ」
「船長の仲間だから当たり前にゃ!」
満面の笑みのニネット
船尾
風に揺られる金髪とくせっ毛
二人は船尾の柵から足を出し語る




