76話 犠牲の信頼
治療室の奥にはカーテンで分けられた重症患者専用の部屋がある
その一室にリリアとヒヨルは座る
「ははは……2人して辛気臭い顔すんなよ」
ベッドに横たわるアンス
魔術による超強化は体に深刻な負荷をかかっていた
「大丈夫だよね……アンスぅ」
涙目になるヒヨル
笑うアンス
「心配ないって言ってたろ……数日寝れば治るさ」
「バイタルも魔力値も生存ラインはキープしてるって説明されたし」
アンスの体の各所から伸びる管は隣のモニターへと接続されている
「でもすごいわねこの魔道具」
アンスの体に貼ってあるシールを見るリリア
「これを貼れば脈、魔力値とか色々わかっちゃうんだよね」
アンス
「まぁ貼る時少し痛いがな」
ツーツー
モニターの音が鳴っている
……
「このギザギザの線が横になったら死んじゃうんですよね」
ヒヨルはつぶやく
…………
ツーツー
モニターの脈拍が少し上がる
アンス
「あんまそういう事言うなよ」
帝城 一室
がた
椅子に腰掛ける2人
「すまないな、時間を作ってもらって」
「別にいい…あのくそ議長が目を覚ますまでの暇つぶしだよ騎士団長殿」
「我のことはヴィットウェイと呼んでくれ」
「エリック」
「まぁ……気が向いたらな団長」
ふん
笑うヴィットウェイ
……
「今回は助かったよエリック……すまなかったな」
頭を下げるヴィットウェイ
「別に俺たちもやることやっただけだし……それに」
「こうやって色々気ぃ使ってもらってんだ」
「お互い様ってやつだろ」
はっはっは
笑うヴィットウェイ
「確かに勇者様の御息女が来ているとは夢にも思わなかったさ」
「でもそのおかげでなんとか国が乗っ取られずに済んだ」
「俺だったら議長が議長になる前に事を収められた自信があるがな」
「それを言われると返す言葉もないな」
「我がもっとしっかりしていれば……陛下も民も安心して暮らせたであろう」
「それに我が同胞の命も救えていた……こればかりは我の力の無さを呪うしかない」
「前皇帝が亡くなったタイミングでの介入を許した時点で……」
………
ヴィットウェイを見つめるエリック
「あんた意外とカチカチじゃないんだな」
は?
突然の言葉に困惑するヴィットウェイ
ピシ
指を立てるエリック
「聞く話からのあんたはもっとこう………皇帝のためなら騎士が死ぬのは当然!」
「………みたいなやつだと思った」
はぁ……
前屈みになり両手で顔を覆うヴィットウェイ
「そう……するべきなのだろうか」
「みなが安心して暮らせるならば死すら恐れぬ武人になるべきなのだろうが……」
「やはり仲間が死んでいくのは……」
本当に辛い
……………
少しの間が流れる
「今回の作戦を伝えた時、わかっていたのならもっと救える命はあるのではと進言を受けた際ある感情が脳裏をよぎった」
「私は犠牲を肯定しているのではないか、皆を守るためには仕方がないと安易な決断をしているのではと」
エリックを見るヴィットウェイ
「どう感じる…エリック」
ふぅ
ため息をつくエリック
「そんなこと聞くために呼んだのか?」
「いや、ただの世間話くらいに思ってくれ」
ふっ
「俺らの世間は普通の世間とはかけ離れすぎてる気がするよ団長」
「言うなれば「命に対する考え方を話そう」っていう議論だな」
「……ではそれでもいい」
ヴィットウェイの目はエリックを離さない
「死を肯定しなければなんでもいい……」
「俺が感じるのはこれかな」
「死を……」
考えるヴィットウェイ
「別に犠牲を作戦に入れるのは悪いことじゃないだろ」
「適材適所……今回だって敵の狙うキーポイントに有効な人材を配置するために帝国内の配置だったり部隊間の司令塔
を別にしたりして最善は尽くした」」
「だがそう考えても死者は出るし、不測の事態で死んじまうこともある……じゃあ作戦を立案するときに必要な核は何かを考えると……」
「作戦を軽くすることに尽きる」
「軽く?」
「あぁ……全員に全部伝えるとどうしても人間は自分の持ち場以外も頭に入れちまう」
「心配、疑念、不安みたいな負の感情だけじゃない」
「安心、信頼、希望っていう正の感情も時に作戦を大きく狂わせる危険性がある」
「そこに必要なのは司令元への絶対的な信頼」
「あの司令元なら自分の役目を果たせば勝利に確実につながっていると思わせることが大事なんだ」
………
「つまり、今回で俺たちの指揮官としての信頼はおそらく向上した」
「次回からの作戦の犠牲者の人数も幾人かは減らせるってことだ」
「それは今回の作戦の礎になった者たちが俺たちに託した大きな信頼になるってこと」
……………
「何か言えよ団長」
「あぁすまない」
「だが君の考えも理解できた……と思う」
ヴィットウェイを見るエリック
(なんだこいつ)
ううん!
咳払いをするヴィットウェイ
「ありがとうエリック」
「では本題を進め得るとしようか」
「あぁ」
「君たちは勇者様の死について調べているのかな?」
…………………………
「あぁそうだ」
エリックは答える




