34話 アンス・ライト
街道を歩く四人
上裸の男アンスは服を着ている
なぜ上半身裸?とヒヨルの質問に「いや……気分で」と答えた時エリックはまともに喋ることをやめようと決意した
「なぁあんた……本当に一番の鍛冶屋なのか?」
「聞いたことがなくてどうも胡散臭い」
先頭を歩くアンス
「まぁそうだろうな」
「だが腕は保証するぜ、返しも期待しといてくれよ」
「そういう意味ではなくてだな……」
「まぁいいじゃないですかエリックさん!」
「悪い人ではなさそうですし」
リリアは軽快に歩く
「そうだよ、疑うより信じてみようよ」
お前ら………
「いつか痛い目に遭うぞ」
ドン
ドン
背中にパンチとキックを同時にくらう
アトロス帝国では中央の帝城を囲うように丸い街道が整備されている
店を構える裏側に工房がある鍛冶屋や1階は店を経営して2階から自宅といった形の建物が多く点在する
これは商業につく人口が多く私生活と仕事を直結させたい帝民の意思が反映された結果と言える
帝都の中では道路ごとにナンバリングされ1から8で分けられ数字が若い方が帝城から近く栄えている
――帝都 6番通りーー
「人めっきり減りましたね」
「そうだが……いつまで歩くんだ変態!」
「人を変質者呼ばわりしないでくれエリック」
リリアは辺りを見渡す
「てかここ本当に帝都なのか……閑散としすぎている気がする」
「まぁ今は帝民と帝国議会との冷戦状態だからな」
「最近でも暴動で5人の帝民が殺されたし」
「そのおかげでさっきいた4番通りにも巡回兵が少なかったろ」
「やっぱ、表面に出てきたのか……」
考え込むエリック
カツッ
アンスは歩を止める
「ここが俺の工房だ」
「「「え」」」
3人の眼前には今にも倒壊しそうな家
看板には「ガレアス工房」の文字が刻まれていた
ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
ブルブル
「うぅ…なんか寒気する」
身震いするリリア
「まぁ外観はあれだが、中はしっかりとした工房だから安心しな」
ガチャ
アンスはドアをあけ3人を案内する
「おぉ」
エリックは思わず声を出す
ドアを開けると下の広場に続く階段がある
外観では想像できない広さの工房がそこにはあった
「どうよ、俺……の師匠が作ってた工房は」
がし
階段の塀を掴む3人
「すご……今まで見た工房でも上位に来る設備だ」
びし!
手をあげるヒヨル
「この設備をアンスさんの師匠さんが作ったんですか?」
ふん!
胸を張るアンス
「そうさ、師匠は仲間と一緒に理想の工房を作ったっていってたぜ」
「しかもこの工房は世界で有数の「シグナリア」を加工できる工房でもあるんだぜ!」
「「シグナリア?」」
ピンとこない二人
「うそ…だろ」
絶句するエリック
ドドド
がし!
アンスを掴むエリック
「一ついいか、それを知ってるのはお前と……どんくらいの奴らだ」
「おれと…師匠、兄弟子だけ……かな」
「そもそも師匠に教えてもらったことだし」
「お前…誰かに言ったことはあるのか」
「いや…師匠は信頼できる人なら教えていいって……」
「だから…まぁお前らにも邪魔した返しに……と」
はぁ
手を離すエリック
「どうしたのそんな慌てて」
「いいかこのことは誰にも言うなよ」
「お前らもな」
「なんでよ」「なんでですか」
「「シグナリア」って言うのは世界最硬の魔石なんだよ」
「しかも魔力伝達が一般の魔石の約100倍で普通の魔銃でさえ強力な兵器になる」
え…………
言葉を失うアンス
「お前、教えてもらわなかったのか」
「え……まぁ、師匠はシグナリアを手に入れるのも大変だから忘れてもいいって」
「忘れるって何を」
…………加工方法
はっ……………はぁ
落胆の表情を浮かべるエリック
「なんでこう…………才ある奴ほど価値がわかってないんだ」
「やっぱ師匠はとんでもない人だのか?」
ふぅ
「なぁアンス、今日お前の家にとめてくれないか」
ぼーとするアンス
「……え……あぁ、平気だけど」
「エリック以外も?」
もちろん
……!!
工房の後ろのドアの向こうにアンスが住んでいる家があった
「工房があぁでしたからもっと汚いと思っていまし…」
チョップ!
「あいた〜」
「泊めてもらうのに失礼がすぎる」
エリックからの愛のムチ
「…ごめんなさい」
「いやいや、あれを見れば誰でもそう思うよ」
リビングとキッチンが併設されている
工房と違い木造で作られており温かみがある一室
キッチンで茶を沸かすリリアとアンス
椅子に座り周りを眺めるエリックとヒヨル
「はぁ〜なんか昔の写真ばっかですね」
「あぁしかも色がついてないのを見ると一式前の魔道具でとってるな」
「やっぱ気になるよなその写真」
カタッ
コップを分けるアンス
「ごめんなさい……勝手に見てしまって」
「いや、大丈夫」
…………………
ズズ
茶を飲むエリック
「で、さっきの話の続きをしていいか?」
「あぁ、お願いするよ」
「加工方法ってのは工房より価値がある情報でな」
「工房があっても方法が分からなかったら最初の一歩が踏み出せない」
「だが、方法があれば工房がなくても材料の検討はつくって事だ」
「ほう…確かに」
感心するアンス
「と言う事はつまり……どう言う事ですか?」
つ・ま・り
アンスの頭を親指でさす
「こいつの頭があればもうそれで万事解決ってこと」
「それを外に情報が出ればこいつの脳みそを欲しがる奴だらけって事なの」
「えぇ!それじゃあ…危ないって事ですか!」
「だからこの事は誰にも言うなってこと」
「それに……師匠も兄弟子君にも危険がおよ……」
それは大丈夫だ
割り込むアンス
「大丈夫ってお前……」
「そう…そう言うこと、師匠と兄弟子は2年前死んじゃったから……」
……………そうか
「大丈夫だよ、ほらみんなが暗い顔してどうすんだよ」
笑うアンス
「本当に気にしないでくれ……もう気にはしてないから」
「じゃあお言葉に甘えて……」
「二人はどうやって死んだんだ?」
「ちょっと!」
「逆に気を使う方が失礼だろこの場合」
「それに今回の調査に役にたつ可能性もあるだろ」
「……でも、良識ってものがあるでしょ」
「それはアンスが決める事だろ」
「失礼なら追い出すなり何なりとしてくれ」
ズズ……はぁ
「構わないさ別に、知ってる話で役立つなら俺も嬉しいから」
「アンス……」
「まぁ簡単に言うと2年前、兄弟子を攫われて師匠が助けに行って殺されたって話」
「ずいぶん簡単だな」
「うん…実を言うとあまり知らないんだ」
「師匠が数日間工房を開けるって行ったっきり……そのまま」
「出て行く時に兄弟子の話を聞いただけだし」
「そうか……もう寝る」
「どうしたの急に赤ちゃんなの?」
やじるリリア
「こうも情報が多いと正常な判断ができん」
「寝ながら整理する……悪いが寝床はどこにある?」
……………
モジモジするアンス
「どうした?まさか寝床ないのか」
「いや…あるにはあるんだけど」
ガチャ
ドアを開けると
毛布が敷かれた部屋
「ここにいつも3人で寝てたからそのままなんだ」
「なんだちゃんとあるじゃねぇか」
「で…でも他に部屋ないから俺とエリックはリビングで床で寝ることになる」
なぜだ
「なぜって…二人に床で寝させるわけにはいかないだろ」
エリックは振り返る
「一緒の部屋でいいよな?」
「うん」「はい」
愕然とするアンス
「ははは………普通のこと…なのか?」
アンスの工房には風呂がないのでアトロス帝国の大浴場で疲れを癒す
「はぁ〜沁みるなここは」
肩まで浸かるエリック
町外れにある大浴場
主に5〜7番通りの人々の憩いの場所となっている
5〜7番通りに住んでいる人々は稼ぐために2〜4番通りに出店や手伝いなどでお金を稼いでいる
そのため大浴場には日をまたぐ時間帯がピークであり現状エリックとアンスの貸切となっている
ザパァ
ブルブル
「はぁ、いいだろこの浴場は」
「設備はいいのに人はいない結構穴場スポットだと思わないか」
「あぁ」
チャポン
隣につかるアンス
「不思議なもんだ、今日会ったばかりなのについなんでも話してしまう」
「多分、兄弟子に似ている所があるからかな」
湿らせた布を頭に置くアンス
「まぁこれから言葉にする情報は精査するんだな」
「でなきゃ命がいくつあってもたらないぞ…お前」
「別に誰にでも話してることじゃない」
「お前らだから話したんだよ」
「不用心にも程があるな」
「そうでもないんだなこれが」
「昔から師匠に人を見抜く力があるって……唯一褒められたことだってあんだぜ」
「唯一って、お前鍛冶屋の才は褒められてねぇのかよ」
………………
「そういえば鍛冶屋って言ったら、この国に勇者様の専属鍛冶屋がいるって噂を聞いたんだが何か知ってるか?」
「あぁそれか……」
少し下を向くアンス
「なんだ知ってんのか」
「知ってるも何も……」
俺の師匠だからな
…………………………………
エリックは呆然と前を向く
「ん?どうしたエリック」
ポチャン
「どうしたらいい俺は」
……………?
「まっ、ゆっくりつかろうぜ」
かぽん




