27話 アモグア村より
村長宅にもう一泊する三人
日中、村長とメゼルは村人全員に事の顛末を話した
村人の総意でギルドへ村全体の調査依頼を再発注する事になった
夜になる
リリア
「エリックは昨日寝たの?」
不意の質問
「いやっ研究所を調べたくてな……寝てない」
ヒヨル
「え!寝てないんですか」
「お疲れ様です」
グビッ
アエリから出された茶を飲むエリック
「まぁ元々そんな寝なくても大丈夫だからな」
ドン!
食い気味に
「エリックさんの魔術ですか!」
目を輝かせるヒヨル
ふぐっ
顔を手で押し返す
「んな訳ねぇだろ、ただ睡眠時間が短いだけだ!」
ゴトッ
席に座るガンガ
「もう帰ってしまうのですか」
リリア
「はい、明日の朝には出立しようかと思います」
ガンガ
「そうですか…村人代表として御三方にお礼申し上げます」
机に頭を伏せるガンガ
リリア
「いえいえ、これは私達だけでは解決出来ませんでしたよ」
「そんな謙遜は……」
ふんふん
首を横にふるリリア
「謙遜じゃありません…メッセージを残してくれた、グラダさんとデュルデさんがいなければ人体実験の全容を明らかに出来ませんでした」
「なのでこれはみんなで勝ち取ったものですよ」
ニコッ
涙を堪えるガンガ
「なんという…その慈愛に満ちた御言葉、一生忘れず胸に刻み込みます」
「あんたはいつでも泣いてるな」
水をさすエリック
「はっはっは、年寄りは皆涙もろいものですよ」
笑うガンガ
ガタッ
エリック
「俺はもう寝る…なんかあったら………やっぱいいや」
「「おやすみ〜」」
「では私も寝るとします」
寝室に行くガンガ
二人きりのリビング
リリア
「私たちも寝よっか」
「はい、寝ましょう」
二人は一つのベッドで就寝する
「………ねぇまだ起きてる?」
寝付けないリリア
「はい、起きてますよ」
ずさ
リリアはヒヨルの方に顔を向ける
それを受け、向かい合う二人
赤くなるヒヨル
「なんか……照れますね」
「そうだね…やっぱ上向こうか」
…………………はっ
口をひらくリリア
「もっと殺す事に慣れた方がいいのかな?」
………………
「寝ちゃった?ヒヨル」
「いえ…ただ考えていただけです」
「そうですね…私はもう慣れるしか道はなかったので…」
「ただ今回リリアのおかげで救えた命もあるのでなんとも…」
………………
「あの時、ヒヨルに殺すなって言ってたけど心のどっかで殺すのが両方のためだって思ってた…」
「あの時には何も感じなかったけど……今になって惨めになる」
「惨め…ですか?」
「うん、もっと強かったら…てね」
「リリアは十分強いと思います」
「私もそう思ってた、魔道学園では負けた事ないし騎士団の仮入団でもクエスト失敗しなかったし…でもやっぱ本物は違った」
「もっと強くならなきゃ……足引っ張っちゃう」
ぎゅ
リリアの手を握るヒヨル
「その考え方はいけませんよリリア」
え………
「強さを求めるのはいい事です…でも強さに囚われたら身を滅ぼします」
「実体験なので自信を持って言える事ですよ」
「実体験って……ヒヨルも?」
「まぁ……私の兄のお話ですけどね」
‥‥お兄さん?
「まぁ簡単に話すとですね……」
「お兄様は父と互角に戦おうとして……死んでしまいました」
えっ……………
言葉を詰まらせるリリア
「今でも覚えています、お兄様は力を解放し続け戦っていました」
「父も戦いながら笑っていました…同時に賛辞もおくっていました」
ですが‥‥
「途中お兄様は急に叫び出し……血を吐き倒れ…死にました」
「私もお母様も駆け寄り応急処置も虚しく……」
「その時、あいつはひどく失望した顔でこう言ったんです…」
―よくやったー
「それ以降の事は覚えていません…ただ殺意が高まっていくだけでしたから」
ふふ
「ごめんなさい、エリックさんに口止めされてる話でした」
「そんなにヒヨルのお父さんは強いの?」
「え……まぁ、他の人が言うなら【勇者に匹敵する力】だそうです‥」
「そっか…じゃあ私が殺る時、お父様を超えた証明になるね」
ばさ
反対を向くヒヨル
体は小刻みに震えている
笑いを堪えているヒヨル
それを見るリリア
「………私本気なんだけど?」
「すみません、つい想像してしまって」
「なんの?」
「いえ、ただ……私はそれが現実になればなと思える想像ですよ」
「そうっ、ならいいけど」
スゥ
ヒヨルは寝る
リリアは天井を見つめる
(強さに囚われる………か)
夜が明け出立の時が来る
カラカラ
馬車は村を出ていく
一夜にして達成されたクエスト
「よいしょっと」
荷物を馬車に乗せるリリア
「よしゃよしゃ、かわいいねぇ」
ヒヨルはウマを撫でる
ヒヒーン
まんざらでもないウマ
「じゃれてんな、手伝え」
辛口のエリック
むすー
不機嫌な顔のヒヨルとウマ
「でも今回のクエスト結構早かったんじゃない?」
リリアは荷台の上から顔を覗かせる
ヒヨル
「私クエスト初めてなので……」
「平均はどれくらいなんですか?」
うーん
「まぁこの手のクエストは1週間前後ってところかな」
「もちろん内容によるけどね」
ピカ
「じゃあ私達凄腕の冒険者じゃないですか!」
「調子のんな」
「今回の件は残りカスみたいなもんだ」
馬に野菜を与えるエリック
トン
降りるリリア
「…残りカス?」
「あぁ、あの研究所を調べてわかったのは」
「数年前に破棄されてたってことだ」
え!
「…でも事件は1週間前だって……」
エリック
「おそらくだがあの警備は偶然研究所を見つけて興味本位で村人に実験をしてた」
リリアの顔が青ざめる
「興味本位……て」
「まぁ俺の憶測だがな」
「もしくは、研究所に指示書が置いてあり、それに従ったか…」
「それならあのバカ警備でも実験ができる」
リリア
「なんで貴重な実験をあいつに…それに結界魔石も」
エリック
「まぁ…それも実験なんだろ」
「世の中には不確定を嬉々として受け入れる変態がわんさかいるんだよ」
「それで自分が死んでも全てが無に期してもそれは実験結果の一つとして受け入れる」
「……そんな奴らがな」
「理解できない」
苦渋の顔を浮かべるリリア
「同感だ」
ヒヨル
「まぁエリックさんはその変態さんじゃないか心配ですけどね」
ふっ
「俺はいたってまともな思考を有してるから安心しろ」
「どうだかね」
呆れるリリア
ふふふ
ヒヨルは笑う
「じゃまぁいくか」
手綱をにぎるエリック
カラカラ
馬車は村の門をくぐる
「おぉ〜い、待ってくれぇ」
カラカラガタっ
止まる馬車
?
リリアとヒヨルは荷台の後ろへ行く
「ねぇ、やっぱクエスト受けてよかったね」
リリアは笑う
「ですね!」
ヒヨルは手を振る
エリックは頬杖をつきながらにやける
「………まぁたまには悪くないか」
村の門の下にはアモグアの村民が押し寄せていた
歓声とお礼の言葉が送られる
村人全員で
トコトコトコ
その中から村長のガンガが歩み寄る
「引き留めてすみません、最後にエリック様に一言お願いしたいのですが」
こくり
リリアは頷く
「エリックなら前に座ってるよ……」
「ありがとうございます」
外をまわり前へと歩くガンガ
ヒヨル
「なんの話でしょうか?」
リリア
「まぁ…なんか大事な事なんじゃない?」
「エリック様、昨晩のことで改めて村の総意をお話ししたいのですが…」
よいっしょ
馬車から降りるエリック
「なんだ…それならもうそっちで解決するって話したはずでは」
ガンガ
「はい…今回我々は大きな過ちを犯しました…」
「最初に犠牲になったグラダ君のご両親にはしっかりとお詫びと贖罪の機会を得れるかどうか聞いてみる事にしました」
「村人も事件隠蔽がいかに愚かだったかしっかりと胸にきざむ所存です」
エリック
「そうか…あとは村を出て行ったグラダ君のご両親次第だな」
「まぁあんたも被害者なんだあんま気に病むなよ」
頭を深々と下げるガンガ
「ありがとうございます」
「この度は事件解決だけではなくグラタ君のご両親の居場所まで調べて頂き…このご恩!」
「一生かけても返させて頂きます」
ふぅ
一息つくエリック
昨夜エリックとガンガは事件の第一被害者グラタ隠蔽に憤りを感じ父母ともに村を出た件について話していた
エリック
「まぁ……気楽に行こう、償う機会はみんな平等だからな」
ガンガは一礼する
カラカラ
車輪は回る、来た道を辿るように
クエストを完遂した三人は報酬を受け取るべく王都セイントエルダへ向かう
馬車から手を振る二人に対し村人はあたたかく手を振りかえす
旅はまだ途中………




