0 プロローグ:平凡な朝
とある海沿いの小さな丘。そこにぽつんと佇む家に一人の男が住んでいた。
彼はベッドから起き上がると、くすんだ水色の長い髪の毛を束ねてから顔を洗い、服を着替え、軽く朝食をとってから伸びをした。
そしてなんとなく、その血のように赤い瞳を窓の外の海へと向ける。
「今日は流石に村に寄らないとなぁ……。」
窓から眺める海は朝日を反射しながらキラキラと穏やかに揺れている。特に注視する事もなく男は独り言を言いながら窓に背を向けた。
これはなんの変哲もない平凡な朝の光景。
……同時刻その眺められていた海の中。そこでは海面の穏やかさとは正反対の光景が広がっていた。
「グボァアアアア!!」
「ギギギギエエエエ!!!」
巨大な白い十本の足を持ち、ギョロギョロと瞳を動かしながら高速で泳ぐ物体を追いかけるているモンスター……クラーケン。
その高速で泳ぐ物体……頭に槍状の突起をはやした巨大な魚のようなモンスター、ガジギ。
こちらもある意味では平凡な光景かもしれない。縄張りを侵したモンスターを、そこを縄張りとするモンスターが怒って攻撃をする。自然界ではよくある事だ。
「ギエエエェェェ!?!?」
しばらくの激闘の末、とうとうガジギがクラーケンの足に囚われる。縄張りを侵した邪魔者をクラーケンは容赦なくその怪力で海の外へと放り投げた。
本来ならそれで終わり。このガジギは遠くの海面に着水し逃げ帰るか、運悪く陸にうちあがってしまうか。
しかし今回は違った。ガジギは、思いのほかよく飛んだ。
今日はたまたま風が強かった。
そしてたまたまガジギが飛んだ方向へ追い風として強く吹いた。
そしてたまたまガジギは、まるて投擲された槍の如く、鋭くとんでもない飛距離を飛び……
ガシャンッ!!!!!!
「ごほっ」
たまたま海辺に建っていた家の、たまたま窓の前に立っていた男の身体に、思い切りガジギは突き刺さった。
平凡な朝の光景は、消し飛んでしまった……と思われたが。
胸の下あたり、腹のど真ん中に突き刺さった槍を茫然と眺めながら、胃から逆流する血液をゴボゴボと吐き出し男は呟いた。
「ああ……また床が……汚れた……」
男の名はキュリオ・オーシィ。
キュリオにとっては、これもなんの変哲もない、平凡な朝の光景。
これから始まる物語は、そんな最低最悪に不運体質な男の、平凡な日常を描いた物語だ。
かたつむりペースで更新していく予定です。