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[二部四章]何を以てして決めるのか


「で、もう少しとは言ったけれど何が知りたいのかしら。」


そう言いながらくつろぎはじめるUnknown。

なんでだろうか。彼女は葵と似たところが多いとは思うけれど、こういった仕草は本当に違うんだなぁ、なんて、そんな事を思いながら問いかける。


『君は、葵の事をどう思っているの?』


暫く難しそうな顔をした後に、彼女は答える。


「‥‥‥‥‥ただの小娘。けれどそうね。やると決めた時のあの子の意志の強さ、行動力は尊敬に値するわ。」


これは褒めているのだろう、多分。けれど僕はつい言い返してしまう。


『やたらと上から目線じゃない?それ。そんなこと言ったら君だってただの小娘になるじゃん?』


そう言うと、じとりとした目線でこちらを見てくるUnknown。気を悪くしたかと思い一瞬内心で焦るけれど、正直に思ったことを言ってしまったものだから出てしまった言葉を取り消すすべがない。


「そうかもしれないけれど、私は私、あの子はあの子で同じだけれど別の存在だと思っているもの。それに、あの子と違って精神年齢が私はしっかりと生きた年数分重ねているから小娘からは程遠いわ。」


そう自慢げに(多分あってる)語る彼女はとても楽しそうで。

けれど、僕は思わざるを得ない。だからこそ彼女にもう少し時間をもらったのだから。


『‥‥‥‥見た目が変わらなくってもそうなるんだ。ところでさ、君たちはどうあっても一緒の存在にはなれないの?』


その問いかけは、彼女の機嫌を悪くしたのか、一気に彼女の表情が侮蔑のそれへと変わる。


「なぁに、さっきまでの話、聞いてなかったのかしら。それとも、そんなに私の事を消したいの?そんなことしようものならあの子も私事消えるけれどそれがお好みなら考えてあげなくもないわ。ふふ、賢そうに見えたけれど案外お馬鹿さんなのね、貴方。」


そう言って小馬鹿に、というか馬鹿にしたように吐き捨てるUnknown。

正直、返す言葉に困ってつい言葉に詰まる。


『そういう、訳じゃ‥‥‥‥ただ、共存の道はないのかって知りたいだけで』


「それなら普段と同じで問題ないわ。共存しているからこそ私も葵も今無事なんだもの。どこぞのプロトタイプの模造品にあげてしまった基盤の一部はもうどうにも取り返しようがないけれど。」


僕はその言葉を聞いて黙る。

きっとそれは、父さんと彼女が話していた件についてだろう。

その件については、あまり詳しくは知らないけれど良くない状況であることしか僕にはわからない。


「その件なら本人から直接聞いたらどうかしら?“神様が作ったもう一人の自分”にあげた存在の一部、感情面が大きいけれど。それについてはもう取り返しようがない。つまり、“どうしようもない”わ。‥‥‥ほかに案があるなら知りたいところだけれど。」


『‥‥‥‥どうしようも、ない。』


僕は、黙って彼女の話を聞くしかなかった。

だって、それを話す彼女も少し、悲しそうに見えたから。

けれどそう見えたのは一瞬で、すぐに彼女は表情を変えて話始める。


「だったら何もしない、何もできない、と言う訳でもないわ。だったらやれることをやればいいのよ。たとえば、あの子の感情を色々と引き出してみるとか、ね。その辺り、約束したんじゃないかしら?」


そう言われて、つい、言葉が零れる。


『したよ。‥‥‥‥だけど、自信がないんだ。イギリスでの異形?の討伐。僕は見ているだけで、何にも手出しできなかった。きさらぎ駅の時にはあんなに力になれると息巻いていたのに不思議だね、あんな簡単な異形だけならいいのに、いざ強い相手や自分にはどうしようもない相手が出て来たらこう、自信が無くなってしまう。きっと、僕にはもうあんな風に力になれる事なんて無いんじゃないか、って。』


つい、涙が零れそうになる。

自分の無力さを嘆いていても仕方ないことくらいわかっている。分かっているけれど。

一度得た自信を取り戻すのは、ちょっと難しい。

そんな僕の顔を見て、Unknownはふぅ、とため息をついて言った。


「‥‥‥‥‥‥ふぅ、全く、一途なら向こう見ずでも構わないからぶれるのはやめなさいな。

自信なんてものは後からつけなさいな。あの子の事、私でもあるけれど、違うのでしょう。私も同じにされても困るものだし。あの子の事を好きなのは、愛しているのは本当なんでしょう。ならそれを伝えることで変化が起きるならば良し、変わらなければ他のアプローチでも考えたらどうなのかしら。全く。まぁ、その点で言うならば最初に出会ったのが雑魚中の雑魚、その次に出会ったのが星の精、不可視の存在だったのは運が悪かったとしか言いようがないわね。だってまだ貴方自分の力に気付いてすらいないんでしょう?なら星の精の視認なんて不可能よ。」


‥‥‥‥‥‥星の精、というのは、あのイギリスで見た異形の事だろうか。

そう言えば、父さんたちはどうして見えたのだろうか。その、不可視の異形とやらを。


「霊視、って言えば分かりやすいかしら?それから、何度もそう言った存在と渡り合ってきているんだもの、あの二人は。そんな二人と初めから肩を並べようだなんておこがましいにも程があるわ。身の程をわきまえなさいな。」


なんでだろう。急に毒舌になった気がする。

けれども不思議と先よりも聞いていて不快感はない。きっとこっちが素なんだろう。


『‥‥‥‥‥身の程をわきまえる、か。でもさ、それでも力になりたいんだ。どうしたらいいのかな。』


そう問いかけると、彼女は盛大な溜息と共に言った。


「プライドなんて捨てていいなら、この子と戦ってみたらどうかしら。魔力補助有りと無しで。アリなら当然ゴミムシのように負けるでしょうけれど、魔力補助なかったら当然のようにあなたが勝つでしょうし。」


戦う、戦う‥‥‥‥‥か。

確かに、腕試しをしてみたい気持ちもある。けれどもいいのだろうか。彼女が承諾するのか、正直なところ分からない。

それに


『そんなわけないじゃん、負けるに決まってるさ。どちらにせよ場数が違うんでしょ。』


そう言うと、今度はどこか怒りやら諦めやらを含んだような溜息を返された。

何故だろうか。


「全く。身の程をわきまえなさいって言うのはそういうところよ。なんだか気に食わないから助言して損した気分。それから、私はそろそろお暇させてもらうわ。‥‥‥今後は気軽に話せるなんて思わないことね。貴方の内側が出てきても責任は取れないから。」


『僕の、内側‥‥‥‥?』


問いかけても返事はない。

彼女はもう消えてしまったのか、気配が感じられない。

丁度月明かりが彼女を照らし出した瞬間に、髪の色が見覚えのある綺麗な色へと変化する。

そして瞳をぱちくりとさせた後、彼女はきょとんとして言った。


「‥‥‥‥あれ、寿文人。‥‥‥‥?本棚の上にいたと思ったけど、あれ?それに、なんだか変な顔をしているね、寿文人。元からだけど。」


最後の一言は余計だけれどいつもの彼女に戻ったようだ。

疑問はさっさと解決するに限る。と、言う訳で、僕は彼女に提案をしてみる。


『葵、気分転換にちょっと手合わせお願いできないかな。』


すると彼女は小首をかしげてから頷いた。


「別に構わないけれど‥‥‥魔術強化をして普段戦ってるから、そうなったら寿文人に勝ち目ないけど、きっと魔術強化なかったら逆に私勝ち目ないんだよね。奇襲ならともかく。‥‥‥‥どっちでやり合いたい?」


魔術での強化、という物に興味がわいたけれど、ちょっとこれは良い機会かもしれない。


『じゃあさ、僕も自信ないから、魔術の強化無しでお願いしてもいいかな。それで、僕が勝ったらお願い聞いてくれない?』


「お願い?ものによるけど。」


訝しげな声音で答える彼女。

それに対して僕は満面の笑みで提案してみる。


『うん。僕が勝ったら文人って呼んでよ。いい加減、良いでしょ?』


すると、彼女は一瞬あっけにとられたような顔をした後に表情を微かに歪める。


「え‥‥‥私が負けるって言った試合でそれを提案するの‥‥‥?」


それに対し、僕は内心でほくそ笑みながら続ける。


『いやいや、流石にそう言う訳じゃないけど‥‥‥‥まさか、いくら葵でも色んな死線を潜り抜けてきたんだろうしさ、僕が負ける可能性だって大いにあると思うんだ。だから、僕が負けたらもう文人って呼んでなんて言わないよ。‥‥‥‥それとも葵、負けるのが怖いの?』


ピクリ、と彼女の小さな肩が動いた。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥やってやろうじゃん。」


ちょろいなぁ~なんて思いつつ、庭でそれぞれ準備運動をする。

ジェミニと言ったっけ、あの黒と白のナイフを軽く弄んで準備をしているようだった。


僕の方はただ精神を集中させるだけ。

‥‥‥‥‥‥ちょっと小狡いかもしれないけれど、僕はカウンターの方が得意なんだよね。


「じゃあ、コイン投げるから。落ちた瞬間にスタート、良い?」


『うん、問題ないよ。楽しみだなぁ。』


こらえきれない笑みを手で少し隠しつつ、抜刀の構えで彼女が攻めてくるのを待つ。


「、」


ひゅ、という小さな呼吸と共に姿勢を低くして駆け寄ってくる小さな彼女の身体を視界に収めて、しっかりと自身の間合いまで待つ。

そして彼女が繰り出してきたナイフでの攻撃を、抜刀術のカウンターで防ぐ。

思った以上に彼女自身が軽いのか、思った倍以上の軽さで弾くことができて内心驚く。

こんなか弱い体で彼女はあんな化け物たちと戦ってきたのだろうか。

そう思いつつ、体勢を崩しかける彼女を見ると、僕が追撃をしてこれないように短刀に巻かれたリボンを掴んで白い方のナイフを振ってくる。

流石にそんなことをしてくるとは予想外で一瞬反応が遅れかけたけれど、問題ない。

それも降った直後の刀で返して刃を防ぐ。

次の瞬間には彼女はもう体勢を立て直していて、彼女の身体能力の長短が見えてきた気がする。

確かに強い。けれど、魔術の強化がどういう物か知らない今は確定したことは言えないけれど恐らく、彼女はあまりにも“軽すぎる”んだろう。

抱えてみた時も思ったけれど、彼女は普通の人間の半分くらいの体重しかないだろう。

それが彼女自身の強みであり、弱みなんだと思う。

素早い行動が可能な代わりに一撃一撃がすごく軽い。

それから何度も何度も攻め込んでくるけれど、カウンターが得意な僕としては久しぶりに楽しめる試合でしかない。

そう思っていた矢先、彼女が急に何かを投げつけてくる。

ナイフかと思って一瞬刀を構えかけて、本能的にやめて瞳を閉じる。

直後に背後から彼女の気配を感じて半分以上は勘で刀を振るう。

すると、軽い衝撃と共に小さな悲鳴が聞こえた。


「うそでしょ、内亜に教えてもらったとっておき‥‥‥‥ってなんで目瞑ってるの!!!!」


どうやら彼女のターンは終了したみたいで、短刀をしまい込んでこちらに詰め寄ってくる。


「今ので大体格上相手何とかしてきたのに!」


ぷんすか怒る姿が可愛くて、つい頬が緩む。


『えへへ、本能的に、ね?砂でも投げつけてきた?でも僕、カウンターの方が得意でさ、そういう搦め手逆に利用しちゃうんだよね。』


すると彼女は一瞬あっけにとられたように固まってふるふると震えて呟いた。


「‥‥‥‥‥‥‥嵌められた‥‥‥‥‥」


『あはは、ごめんごめん、だって父さんですら名前呼びなのに僕の事はずっとフルネームでしょ?何回お願いしても聞いてくれないんだもん。だからちょっと意地悪しちゃった。‥‥‥ごめんね?』


「‥‥‥‥‥‥‥次」


『え?』


「次、魔術強化有りでいいんだよね?文人。」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥心なしか彼女の逆鱗に触れてしまったような気がする。


『あはは、休憩とかは大丈夫?あった方が良いんじゃないかな』


「いらない。早く構えてよ、ほら、ねぇ、早く。」


目の据わった彼女にそう言われて、慌てて刀を構える。

その直後に攻撃が来たけれど、さっきまでの軽さはどこへやら。受け流しきれないくらいに重たい斬撃に驚くことになる。


『ちょ、手加減、手加減!!!!』


焦って懇願したけれど、彼女は追撃の手をやめない。3、4振目までは何とかしのげたけれど、それ以上は手が痺れて降参の意を示す。


『葵、ごめん、ごめんって!怖い、怖いから!』


「嵌めたのが悪い。ほらもう一試合。」


‥‥‥‥‥‥怒らせるんじゃなかったなぁ、という気持ちと、怒るんだなぁ、という気持ち半分ずつで僕は何とかもう一度刀を構えようとした瞬間にまた追撃が来る。


『ねぇまって?!これただのリンチじゃない?!』


「大丈夫。殺しはしない」


『それ死ぬ直前までは行くって言ってない???謝る、謝るからぁ!!!!』


情けない声を上げながらもちょっと感心する。

さっきとはまったく違う、彼女との交戦。

ここまで彼女が起こってさえいなければ、久しぶりの運動で気分がすっきりするところなんだけれど。


「反省して。」


『うぅ‥‥‥ごめんってば‥‥‥』


「うん、分かった。じゃあ罰としてあと3試合で済ませてあげる。」


『まだ怒ってる??!』


そして結局その後、僕が体の限界が来て僕が刀を持てなくなるまで彼女の攻撃は続いた。

終わった後も、呼吸一つも乱さずに立つ彼女はちょっと、いや、だいぶ狡いんじゃないか、なんて思いいながら僕は庭に寝そべって休憩という名の仮眠をとる。

まぁ、仕合始めたのが夜中だから、もう日が昇っているのだけれど。



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