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幕間⑥ティナ


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


“おやすみ。じゃあ、これから、よろしく。”


彼女はそう言った。

そう言って、本来殺されてもおかしくない私の方にいろんなものを与えて、与えるだけ与えて、消えた。

きっと彼女の従者がやったことだと思う。

けれど、そのあと。

その後にあろうことか彼女は“私”に名前を付けた。


「あはは、やっぱりごっそり持って行かれたなぁ。‥‥‥‥ねぇ、あんな奴らの言いなりになるのなんかやめなよ。

だからさ、もうあんな奴らの言うことなんか聞かなくっていいようにしてあげる。

‥‥‥‥‥そうだね、“ティナ”なんていうのはどうだろう。もう一人の私だった君への、訣別の為のプレゼントだよ。」


私は、彼女の、天音 葵の従者を傷つけた。

救いだと言われて、それをそのまま。

つまり、救いと言われた行為、“殺し”を、しようとした。

恨まれてもおかしくなかった。

憎まれてもおかしくなかった。

なのに彼女は、私を、彼女の大事な人を傷つけた私なんかを救うために、私が私である証明、名前を、くれた。

ティナ。

それが今の私の名前。

あの後、どうしていいか分からなくってあの場を逃げ出した。

もう、神様たちの言うことなんか聞きたくなくて

自分がやってきたことの罪悪感、初めて感じたそれから逃げたくって

そうして、私は逃げ出した。

逃げ出すことしか頭になかった

けれど、彼女は笑っていた。

大事な人たちを殺そうとしてしまった私を

彼女自身を奪おうとしてしまった私を

そんな私を見て、彼女は笑ったんだ。

嘲笑う訳じゃ無く、ただ、喜ばしいものを見るように

でも、でも。

そのせい、ううん。私があの場にいたせいで、彼女はきっと壊れかけているはず。

だってあんなにきれいに保たれていたバランスが、私のせいで崩壊した。

崩壊させてしまった。

逃げ延びた先、路地の裏で私は初めて声を上げて泣いた。

だって、だって祝福されるべきは、彼女だったはずなんだ。

私はなにも知らないと、ううん、本当に何も知らなかった、そうプログラムされていたけれど、

でも、彼女の大切なものを奪ってしまった。

あの時彼女から沢山の想いが流れ込んできた

仲間たちへの慈しみ、愛情、友情、

沢山の、本当にたくさんの感情を奪ってしまった。

なのに私はどうしていいか分からない

会いに行けばいいのだろうか。

けれど、壊れてしまうかもしれない彼女を見たくはなかった

私に名前を与えてくれた、初めての“大事”な人。

彼女を助けたい

けれど。

けれど、それは多分、私の知識じゃ難しくって

分かること、できそうなことと言ったら、私が彼女へ全部返すことくらいで

でも、

“怖い”。

死ぬことが、怖い。

あんなにも泣き叫ぶ人たちを救いの名目で殺してきた人殺しのくせに

なのに、私は怖い。

自分がそうなってしまうことがすごく怖い。

そうなりたくない、なりたくない。

でも、そうしたら彼女はどうなってしまうんだろうか。

私の中で悪魔のようなささやきが聞こえる

放っておいても、彼女には仲間がいるから何とかなるだろう。って

自分にはもう関係のない人だって

そんな声がずっとずっと聞こえる

でも、でも何も返せていない。

何も償えていない

それでも、消えることは怖い

こんな感情を、どうしていたのだろうか。あの私は

“葵”は、どうやってこの感情をコントロールしていたのだろうか。

知りたい。

いや、きっと知らないといけない

知らないままじゃもういられない

だってそうじゃなかったら償えない

償わないといけない、生きないといけない

あぁ、苦しい。

すごく苦しい

けれど、きっとこれが正しい罰で、罪なんだ

だから、私は探そうと決めた

葵を助ける手段を

今まで殺してきた人たちに償う術を

様々な感情に交じって流れ込んできた言葉

“手の届く限り、救えるものは全部救う”

きっとこの救う、は、私の今までしてきた罪とは違う

ちゃんと、助けないと。

助けて、償って

それからどうしようかはまだ分からないけれど

でも、探そう。

手あたり次第、探そう

それしか今の私にできることは無いと思うから

葵に託された、生かされたこの命を無駄にしたりなんかしちゃいけない。絶対に。

命は、すごく尊くて大切なものだって、流れ込んだ感情が伝えてくるから

暖かな感情がそれを伝えてくるから。

あぁ、あぁ。

こんなにも温かい感情を色んな人からもらった葵はきっと幸せ者だ

けれど嫉妬はしてない。

だって、苦悩の感情もたくさん流れ込んできたから

感情って、すごくすごく難しい

けれど、だからこそ大切なんだって

だからこそ欠けちゃいけないんだって

そう分かった。

だから、彼女からそれを託されてしまった私は、この感情たちをコントロールして、たくさん償わないといけない。

そうやって償っていくうちに、きっとまた葵と会える気がするから

その時はちゃんと言おう。ありがとうって

ちゃんと、つたえよう。ごめんなさいって

きっとそれはすごくすごく長い道のりで

きっとそれは、葵のように仲間のいない私にとっては葵より大変な道のりで

でも、そうしようと思わせてくれた葵の為に、頑張ろう

精一杯、本当の救いでみんなを助けよう


そんなことを決心した私の髪と瞳の色は、いつの間にか薄いミントのような色に染まっていたけれど。

鏡を見ていない私は気づかなくて、そのまま旅に出る。

償いと、感謝の旅に出る。




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