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[二部三章]大人の会話というやつだよ。

大人の会話です。


何故か唐突に我が息子を連れて可憐なレディーがやってきたと思ったら、そのレディーはとんでもない異形で、しかも我が息子はそのレディーに御執心ときた。流石私と“彼女”の血を引くだけあるなぁ、なんて思いつつ、日本へと向かう。

道中、何故か紹介状を見た航空会社の人が大喜びでファーストクラスに案内してきたのには驚いたけれど、きっとあの可憐なレディーが何かやったんだろうなぁ、なんて思う。

次会った時にはできればお礼を言いたいくらいだけれど、私がこれからやろうとしているのは大人の会話、所謂息子の恋する女の子の意にそぐわない会話だ。

どこか別の事を考えていたらしいあの子は、私の会話に隠された罠に気が付かなかったようだ。

あの時、“自分にとって都合の悪いことを言うな”と、言っておかないとこうなってしまうのにね?

なんて内心ちょっとした罪悪感を抱えつつ、指定された場所へ向かう。

そしてそこは“山”だった。

遠い遠い私のご先祖様が張ったらしい、古いが異常に強固な結界を超えた瞬間、喉元に刀の切っ先が当てられた。

いや、結界を超えた瞬間だからと言って、決して警戒をしていなかったわけではない。

けれどもこの刀の切っ先は、人間の反射神経を優に超える動きをしてきた。しかも、私が歩く速度によって間違えて表皮一枚斬ってしまわないように、けれどもピタリと切っ先を止めて。

これは‥‥‥‥


(達人、いや、人間離れした動きをするものだ。流石はあの子のお師匠様といったところかな。)


内心でそう思いつつ、私は諸手を挙げて降参の意を示しながら、刀の持ち主の言葉を待つ。


「何者だ。名乗れ。」


『わお、激しいね。私は寿 幽鬼。君のところの弟子である葵さんに紹介状を書いてもらってね。』


そう伝えて紹介状を出そうか迷っていると、彼の方から声をかけてきた。


「‥‥‥‥葵が紹介状?‥‥‥失礼した、初めてのことでな。だが、貴殿も切っ先を向けられる理由位は分かるだろう?」


そう言って無駄のない動きで刀を仕舞う、暗褐色の長髪の彼。まず間違いなく彼が彼女のお師匠様だと分かる。なんでって?そりゃ、警戒の仕方がそっくりだったからね。

けれどそこに触れるために来たわけじゃない。


『まあね、心当たりしかない。その天音葵のことを話しに来たのさ。本当に素晴らしい手練れだ。お見事だったよ』


そう言って素直に褒めると、微かに彼の表情が動いた。とてもうれしいようだ。師弟そろってとても分かりやすい。


「世辞など要らぬ。年月も経てば誰でもこの域に達するだろうよ。

して、葵の話とは何の事だ。連絡を絶って久しいが、息災であったか?」


こう、真っ先に互いの心配をするところもそっくりだ。

本当、あの子はいい師に恵まれたんだなぁなんて思う。

だからこそ、少し罪悪感があるけれど、仕方がない。


『その年月が人間には足りてないんだよ、ネフィーとやら。

ああ、元気そうだった。それ以上に話したいことがある。あげてもらっていいかな』


そう言うと、お師匠さんは少し不思議そうな顔をする。


「む…俺も人間なのだが……そうだな、葵からの紹介での客人ともなればもてなしはそれなりにさせていただこう」


生真面目なところまでそっくりときた。それにしても久しい言葉を聞いた気がする。


『わかってるよ、きみからは感じないからね。おもてなしかぁ、何年ぶりだろう、人にされるの。』


本当に何年ぶりだろうか。仕事で何年も海外を飛び回ったけれど、おもてなしをしてもらうほど人と深く接することがなかったからか、必要以上に久しぶりに感じられる。

そして、ネフィーというらしい彼は何かを考えこんでいるようだ。


「ふむ‥‥‥‥普段の食事ではもてなしには到底足りぬな。獲物の一つでも仕留めてくるか。お待ちいただきたい、御客人。」


そう言って彼は何故か銃を持たずに出かけ、たったの数分で鹿一頭を丸ごと担いで帰ってきた。

‥‥‥‥一体刀でどうやってあんな綺麗な獲物の仕留め方ができるのだろうか。

不思議でならない。


『まさかの獣肉ジビエとはね。君、住んでいるのは一人だけなのかい?』


そう聞いてみると、よく分からない顔をして、彼は答えた。


「いや、現在はめいど?を名乗る同居人がいるが…基本的には肉を食べる事が無くてな。肉が必要になったら狩が必要になる」


メイド。なんだか彼に似つかわしいような、そうでないような単語だ。何の因果だか気になるけれど今回は聞かないでおこう。

彼は厨房らしい方へ向かうと、そこにいるらしい誰かに声をかけた。


「一縷、鹿肉と客人だ、用意を頼めるか?あぁ、鹿の処理は任せておけ」


『メイドさんがいるんだ?それなら頼めばいいのに。』


そう言うと、彼は首を横に振った。


「あ奴が勝手に居座っているだけの事。本来であればあ奴も一緒に客人扱いをしたいところなのだが、当人がそれはそれは嫌がってな。ならばと折衷案として少々家事を手伝ってもらっている。」


彼がそう言うと、そのメイドらしい(本当にメイド服だ)彼女がやってきた。


「ようこそ、いらっしゃいませ。しかし、鹿肉と御客人を一緒にするのは如何かと思います、ネフィウス様」


そう言いつつ、こちらにお辞儀をしてくるメイド、一縷さん。


「全く、こ奴が速く人里に降りれば好きに酒が楽しめるというのに。」


‥‥‥‥‥どうやら彼はお酒好きらしい。

彼女に聞こえないように、ぽつりと愚痴を呟くネフィウス。


「何か仰いましたか。」


「いや、今宵も平和だといった。」


そう言ってどこかへと立ち去ろうとする彼の服の隙間から、チラリと煙管が見えた。


(あー、禁欲的な生活にはあまり慣れていなかった、というより彼女によって慣れさせられた、といった感じかな。)


「御客人を放ってどこかへ?」


「‥‥‥‥‥‥‥そう言えば貴殿話があると言っていたな、さぁ用件を聞こうではないか。‥‥‥‥一縷、分かった、分かったからその目をやめろ。」


「‥‥‥かしこまりました。」


(ちょっと見てて面白いけどそれを言うのは藪蛇ってところかなぁ。)


そう思いつつ、頃合を見計らって声をかける。


『あ、お話終わった?』


「うむ。して‥‥‥幽鬼とやら、何用でここを訪れたのだ?わが弟子が何か粗相でもしでかしたか?

?」


『ん~、そうじゃないんだけどね。』


彼の眼を見てみる。

愛弟子を心配するそのままの表情に、僕は思わず笑みをこぼしそうになりながら、姿勢を正す。


『今の天音 葵について。貴方はどこまで知っていらっしゃる?』


そう問いかけると、彼は腕を組んでしばらく目を閉じると、話を始めた。


「つまり我が弟子は師匠にどんな顔して会えばいいか分からないから紹介状を書いた、と言ったところか。

‥‥‥‥本来、天音葵は一人で、かつ少しの不安定さはあれど、その不安定さはいつか成長と共に消え行く程度のものだった。

しかし、親、そう言いたくはない神々が、新たな“天音葵”を創り出した。それにより、天音葵は二人となり、どちらか片方が消えゆく運命になった。

‥‥‥‥しかし。あの日、我が弟子は、自分の事を顧みずにもう一人の自分を否定する事無く、肯定もする事無く。“もう一つの命”として成立させた。

折角の安定をもう一人の、自分を奪いにきた自分に与えて、な。

恐らく現状それをどうにかする術を探しているのか、それとも。

“探していいのか分からなくなっている”のではないかと思うが?

まぁ、これはあいつの姉と僕、ノワールが調べ上げた情報なだけで、俺自身には理解できようもない。

だから、こうして待つのだよ。」


なぁるほど、という感情と、そう来たか、という感情が半々。

つまり彼女は相当なお人よしなわけだ。

そりゃ、ここまで師匠に溺愛されていたらそうなるだろうなとも思う。


『彼女、実のところかなりぐらぐらしていてね、今吸血鬼を退治してきたところなんだけど、その時の彼女がややおかしくてね。

異形の性質に引っ張られてるみたいだったよ。

止めたときにも不思議そうにしていたし、蟻を題材にした質問をいくつかした時もネフィーが情操教育上よくないからって言う返答だった。あれじゃまるで3歳程度の幼子と変わらない。

あとは、私の息子……文人が天音葵に対して恋をしたらしくてね。彼女も好きって言われるとポカポカするそうだよ。かなり照れてる様子だったね。』


そう告げると、彼、ネフィウスの瞳がスゥッと細くなった。


「ほう?‥‥‥‥‥‥ほう。」


手が無意識なのか、刀の柄にかかっている。

ふむ、本当に過保護に育てられたらしい。そりゃ恋だの愛だのにああいった反応を示すわけだ。


『文人は真剣だから手加減してあげてほしいな?ネフィー。

そういやきみの名前は?』


そう問いかけると、はっとした様子で柄から手を放す彼。


「あぁ、しかし身体が勝手にな。…申し訳ない、申し遅れたが、私の名はネフィウス・アクアサイト。生まれは平安、だったか。何の因果かここまで生きながらえた仙人のようなものだ。

そしてこちらのめいど、は、一縷。」


そう言って紹介されたメイドさんがお辞儀をしてくる。


「一縷とお呼びください。」


『ふむ、一縷とネフィウスだね。それにしても、想像以上に長生きだねぇ、ネフィウス。』


そう言うと、言われてみればといった様子でネフィウスが腕を組む。


「ふむ。…いかんせん外界から離れた生活をしているせいで日数の計算が狂う。今の歴は何だったか。」


そこまで忘れているのか、それとも本当に外に出たことがないのか。

さてさて、平安から今何年たったんだろうか。計算するのも少々面倒くさそうだ。


『今なら、“令和”だよ。』


そう答えると、また難しそうな顔をするネフィウス。


「れいわ。‥‥‥‥平安のいくつ後だ、それは。と、その話はおいておいて。葵に何があったかの話だ。異形に引っ張られる、そういうことは今まで俺が見てきた中ではなかった行動だな。

恐らくだがそう言うことについては葵の姉が詳しいはずなんだが、如何せん彼女もどこかにいなくなってしまってだな。」


彼女の姉。少しだけ聞いた話だけれど、彼女の姉も息災ならどこかであっておく必要があるかもしれない。‥‥‥‥身近にいるといいけど。


『なるほどなるほど。

彼女はいま不安定な状態だ。だからいろんなものに影響を受けやすいんだろうね。引っ張られるって言うのはそういうことだね。

吸血鬼を返り血を顧みず何度もぶっさしてたのさ。たぶん吸血鬼の影響かなって。

あとは発言からもおかしな部分があったねぇ血がどうのって言った後に、本人もあれは少し気づいているんじゃないかな。』


「ふむ。‥‥‥異形を取りこんだ人間にそう言った傾向が見られることはあるが‥‥‥‥いや、まさかな。」


『不安定だからこそ引っ張られやすいところもあるんだと思うよ。だから、ちょっと酷かもしれないけど暫く討伐はやめとけって言っちゃった。』


そう言うと、一瞬目を丸くしてからふっと微笑むネフィウス。

きっと彼も同じ思いだったんだろう。あの子はあれ以上無茶をしてはいけない。あの子自身の為にも、他のみんなの為にも。


「……おい、聞いてから言うのも何だ、あれだ、あれだが。

貴殿、その話俺にするなと葵に釘を刺されなかったか。

んんっ、兎に角…まぁ、討伐を暫く休むのには賛成だな。そもそもあいつは働きすぎだ。」


やはり彼から見ても彼女は働きすぎらしい。

全く、私の息子も大変な子に惚れたものだと思う。


『刺されたよ、悲しむからって。だからきみは悲しむな。バレると面倒だからね。

ふふ、そこは賛同してもらえてうれしいよ。』


そう言うと、ふっと表情を崩すネフィウス。


「全く、大人には優しくない、といわれたことは無いか?」


『えぇ?初めてだよ。』


だってそもそもそんな話をする大人がいなかったからね、というのはおいといて。


「なら言っておこう。貴殿大人には優しくないな。

そして、まぁ、葵の隠し事を教えてくれたことには感謝する。」


そう言って深々とお辞儀をするネフィウス。よっぽど心配だったんだろう。


『あはは、誉め言葉として受け取っておくよ。

いやぁ、こちらこそ? ただまあ、ふたりのないしょってことで、ね?』


そう言って笑って見せると、分かったとでもいうように微笑むネフィウス。


「全く、あいつは様々な存在を連れてくる。

貴殿、陰陽師の類だろう。

結界がいつもと違う反応を見せたからな。まさかと思って出てみれば、と言うやつだ」


職業を言い当てられて少々驚く。

そんなそぶりを見せたつもりはなかったけれど、きっと彼の勘、というやつなんだろう。


『おや、正解だよ。私は陰陽師。それ相手に刀引き抜いてくるの、強くない?』


そう言って茶化してみると、彼は真顔で答える。


「斬れば問題なかろう?」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥仙人になると脳みそまで筋肉になるのかな??


「して、先から話が脱線しているのではないか?」


そう言われて、ふっと我に返る。良かった、ちゃんと脳があるみたいで。


『ああ、そうだそうだ。思わずボケが回っちゃったね

まあ、気になることはそれくらいかなって感じだ。』


そう答えると、ネフィウスは納得したようにうなずいた後、少し物足りなさそうな顔をして一縷というメイドさんの方をチラ見して言った。


「そうか。すまないな、本来なら酒の一つでも出すのだが。」


「‥‥‥‥‥‥‥‥かしこまりました。」


そう言って席を立つ彼女の見えないところで嬉しそうな顔をするネフィウス。


(お酒に煙草。体に悪そうなのによくもまぁ、仙人ってそういう物なのかなぁ)


なんて思いつつ、上機嫌なネフィウスと歓談しながら夜は更けてゆく。

文人の想い人、葵さんには悪いけれど、結構な収穫があった。

さて、大人は大人で卑怯なことをした分悪だくみをしようじゃないか。




さて、本当にまさかこの時間になるとは思っていませんでしたが‥‥‥‥

そしてついに情報共有にシナリオが追い付いたので多分幕間とかでごまか‥‥‥穴埋めすると思います。

何の話にしようかな。内亜の話とかでもしようかな。

あ、幕間のこういうの読みたい!とかいつでも募集してます。

Twitterが一番言いやすいのかな、こういうのって。

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