[二部三章]異変と異変
執筆楽しいですけど結構カロリー消費するのかおなかが減ります。この時間に減るのはおやめください私の身体。
『痕跡は、メモに添えられてたこれであってるかな。
最近事件何度か起きてるんじゃないの?吸血鬼ーとか』
乾いたゼリーのような欠片。日に透かすと赤く、紅く、血が付いているのが分かる。
恐らくだけど星の精、吸血性を持つクトゥルフ神話の異形だ。
多分だけどこの辺りでは吸血鬼騒ぎ、なんて言ってそんな感じの事件が起きていたんじゃないだろうか。
そう思って問いかけてみると、幽鬼は頷いた。
「うん、そうだね、巷で吸血鬼事件として取り上げられてる。」
案の定の肯定を得て、私は少し考えてから聞いてみる。
『幽鬼、目星はついてる?もしわからなければ、一晩もらえればわかると思うけど。』
「まぁ現象的に限られてくるからね。手っ取り早く文人を囮にでもしてみる?」
冗談っぽく言って笑う幽鬼。
囮、かぁ、それもアリかもしれない。
『ありだと思う、けどそれをするなら私だね。寿文人だと、自覚が薄いせいか血がおいしくなさそう。』
‥‥‥‥‥‥、ふと違和感を感じた。自分の発言に。
“血がおいしくなさそう”って、なんだ。何なんだ。
『いま、わたし、血がどうのって言った?』
否定の言葉が欲しくって、そう問いかける。
けれど返ってきたのは
「うん。」
「言ったね。」
二人の肯定。
動揺が、隠せない。いや、動揺なのか?それすら危うくなる。
何だかこの件について詳しく考えてはいけない気がする。
だから、
『‥‥‥‥と、とりあえず。おとりになるなら私がやるよ。適任でしょ。』
「‥‥‥‥‥‥‥まぁ、良いだろう。」
暫く私を見つめてからそう答える幽鬼。
「でも、危ないよ、」
私なんかを危険な目にあわせたくないのか、焦った声で言う寿文人。
けれど。
「文人、君では難しい場面だ。この意味が分かるね?」
そう言って、幽鬼が言い聞かせる。
寿文人は悔しそうに顔を歪めて、頷く。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ッ、わかったよ」
けれど、なんで悔しそうなのかは分からなくって。
けれど、彼の様子を見るにそこに触れてはいけないような気がして。
『星の精相手なら簡単だし、今夜決行でいいかな。』
星の精。あいつは、血を求めている間は不可視で何も見えない。けれど、吸血行為を行うとその犠牲者の血によってその姿が浮かび上がる。
いつもなら内亜を囮にして戦うところだけど、私が魔力を漏らしてでもいればおのずと向こうからやってくるはず。
「うん、勿論。犠牲者は少ない方がいいからね。いつでも術式展開できるように準備しておくよ。」
そう言って何か色々な道具を取り出す幽鬼。
その懐は四次元ポケットか何かなんだろうか。気にしないでおこう。
「僕は~‥‥‥?」
そう言って何かをしたそうに言う寿文人。
けれど正直彼の出る幕はない。
『んー‥‥‥見てて?』
「なんで‥‥‥!守りに来たのに‥‥‥‥‥‼‼」
悔しそうな彼の言葉がどうしてか痛い。
だから、せめてと思って手を握る。
『‥‥‥大丈夫、手の届かないところにはいかないから。』
気休め程度にしか、ならないだろうけれど。
そして、夜が来る。
私達は路地裏の、人目につかない場所で獲物が飛びついてくるのを待つ。
暫くすると、星の精が私の魔力につられてやってくる。
「来たね。」
そう言って拘束の術式の準備をする幽鬼。
寿文人は不思議そうな顔をして、
「え?」
と、辺りを見回している。
私は、不可視の触手のうちの一本が触れそうになった瞬間にその触手を掴んで、思い切り幽鬼の術式の中へ叩き込み、ジェミニをナイフの形にして星の精を斬り刻む。私の頬をかすめた一本の鉤爪が表皮を斬り裂いて血が飛び散り、星の精の姿を映し出す。
「え、」
戸惑う寿文人の声。
私はそれを気にせず、ジェミニを突き立て続ける。
的確に、急所を、何度も、何度も、何度も、何度も、
「‥‥‥‥」
黙って幽鬼が私の腕を掴むまで、私は、刃を突き立てるのをやめなかった。
いや、やめることを忘れていた。
そのまま、返り血のついたまま私は振り返る。
すると、なんだかすごく痛そうな顔をした幽鬼が言った。
「君の状態はよく分かった。暫く討伐するのはやめておいた方がいい。」
‥‥‥‥‥‥?
『なんで?』
私は問う。
何故だろうか。何故、幽鬼は私を止めたのだろうか。
けれど、なんだか急に吐き気がした。
けれど、その姿を彼に、寿文人に何でか見られたくなくって、隠す。
「私が後処理をするからきみはきみと会話するといいさ。それか、よく文人とでも話すことだ。
それがわからないなら討伐するべきではないよ。
わかったときにまた討伐し始めなさい。それまでは所謂休業、だね。」
ぼんやりとした頭で幽鬼の言葉を聞いている私。
どうしてだろう。聞こえているのに理解ができない。
おかしい、多分、これはおかしい状態だ。そう分かっていても、動けない。
「今のきみは例えるなら面白がって蟻の行進を潰すのと変わらないくらい無邪気に軽視してるのさ。軽視、っていうか、『無い』。ゆえに、私はお勧めしないし止めるよ。
例えばの話、きみは蟻の巣穴を見つけた子供たちを見たことにしよう。無邪気にその巣穴に子供たちがお湯を注ぎ始めたらきみはどうする?どう思う?
繰り返すけど、ぱっと答えが出てこないのなら、今はやめておくべきだよ。」
幽鬼の言う通り、ぱっと答えが出てこない。
けれど、何とか不調を隠したくて、私は答える。
『止める、と思う。』
「何を思って?」
‥‥‥‥‥何を思って。‥‥‥どうしよう。答えが、出てこない。
『じょうそうきょういくじょう、良くないって、ネフィーが言ってたから、』
そんな、簡単な答えしか出てこない。
そんな私の心情を知ってか知らずか、幽鬼は続ける。
「なるほど。じゃあそれに甘んじて応えよう。今きみがやっているのは加害者側のことだ。これがどういうことか、わかるかい?‥‥‥分かったのなら、それが答えさ。
ところでだけど、君の師匠、そのネフィーとやらの居場所って知っているかい?」
どうしてそこでネフィーの名前が出てくるのだろうか。
いやだ、と、咄嗟に思った言葉は飲み込んだ。飲み込めた。
『ネフィーは住居を変えない。だから多分、すぐわかる。とおもう、けど、会いたくない。』
今の状態を知ってほしくない。見られたくない。その一心で私は幽鬼に答える。
幽鬼はゆっくりと首を横に振って言った。
「違うよ、私が会いに行きたいから居所を聞いているのさ。なに、きみがついてくる必要は最初からないよ。」
幽鬼とネフィーが会う。それはとても、嬉しいことのはず。なのに、なのに私は嫌だと思ってしまう。
けれど、必要な事であることだけは理解はできる。だから
『‥‥‥‥私の現状を話さないなら、紹介状は書ける。じゃないとは入れないから。』
「‥‥‥‥それはどうしてか教えてくれないかな?」
『ネフィーを悲しませたくないから。』
これだけ、これだけは、即答できた。
だってきっと今日の話を聞いたらネフィーは悲しむ。
「別に悲しませに行くわけじゃない。大人同士の話だよ。」
大人同士の話。‥‥‥寿文人についてでも話すのだろうか。そうであれば止める理由はない。
『‥‥‥‥それなら。』
そう言って、私はネフィーの住居を詳細に書いた紙と私の名前を刻印した紙を手渡す。
これがないと、そもそもあの住居へは立ち寄れないから。
「ありがとう、助かったよ。‥‥‥君たちも早く帰国しなさい。」
『‥‥‥‥変なことは言わないでよ。』
念を押すようにそう言うと、幽鬼はにっこりと微笑んだ。
「言わないよ。」
そう言って、幽鬼は旅支度らしいものを始めた。
星の精の死体は自然と消えるはずだから、特に問題ないはずだ。
それにしても。
『二人で話せって、何を‥‥‥』
そう呟くと、寿文人がひょっこりと顔を出して言った。
「世間話でもする?それか、とりあえず帰る?」
少し考えて、学園の事を思い出した。かりそめの姿とは言え、仕事を放っておくのはいけない。
『帰らないと仕事溜まってる、と思う。だから悪いけど、帰りはゆっくりできない。飛んでいくから寒いと思う、寒さ対策はしっかりして』
そう言うと、構わないと頷く寿文人。
支度が済んだ後、私は寿文人に向かって手を差し出す。
『はい、手』
「手?」
不思議そうにしながらも手を握ってくる寿文人。
それを確認すると、私はプリズムの翼を展開する。
正直まだ慣れていないし魔力の消費が激しいのでやりたいわけではないけれど。
そしてそのまま手を繋いで飛翔し、日本まで一直線に飛ぶ。
「‥‥‥綺麗だ」
そう呟く寿文人の声にも、飛びながら微かに、本当に微かにプリズム片が微量ずつ削れて散って消えてゆくことにも気が付かずに。
そしてそのまま日本へ直行した後、私はつい倒れ込みそうになった。
それを寿文人が慌てて支える。
横抱きで抱えられて、私は不機嫌さを隠さずに言う。
『疲れた、だけ。子ども扱いみたいでいやだし、魔力の回復はこれでも早い方。気にしないで。』
そう言って無理やり降ろさせる。
渋々と言った形で降ろされた直後、私は閉館した図書館へ直行して寿文人の見えない場所へ逃げ込んでそのまま倒れ込む。
『‥‥‥‥‥何、あの魔力の消費量‥‥‥それに、なんだろう、すごく、あのまま一緒にいたらまずい気が、して‥‥‥‥』
独り言は途中で途切れて、私の意識も一緒に途切れる。
皆さんお好きな夜食は何ですか?
私は甘味と、お風呂上がりのアイスが好きです。
え?前書きと真逆のこと言ってるって?
‥‥‥‥‥カラオケにでも行ってカロリー消費するかぁ