[二部三章]起源を探して
メモに書かれた場所は、隠れ家のような場所だった。
『この家らしいけど。』
私がそう言うと、寿文人は小首をかしげて
「ノック、する?」
と問いかけてくる。
何だかその問答をするのも面倒なので、黙って私はノックをして、挨拶をする。
『こんにちはー。』
すると、扉の向こうから、声が聞こえた。
確かに血の繋がりがあるのだろう。声が似ている。
『寿文人のお父さん?』
それだけを問うと、向こうから聞こえる声音に少々警戒の色が混じる。
「‥‥‥‥なんでその名前を知っている?」
『そりゃ、だって後ろにいるから。寿文人。』
そう言いながら、彼を前に出す。
すると、鍵がガチャリという音を立てて開いた。
「あれ、ほんとだ。」
「と、父さん‥‥‥‥」
二人が見つめ合ったのは一瞬で。
「随分と大きくなったねぇ!今まで留守にしていることが多くてごめんねぇ?私の可愛い息子!」
そう言って、彼の父は飛び出してくると、彼に抱き着いてすりすりと頬ずりを始めた。
(ん~‥‥‥?なんか若い気がする。年齢にしては、だけど。)
「わ、わわ、」
よたよたと慌ててバランスを取ろうとする寿文人。
「で、何の用かな、文人と可愛らしいレディ?」
私は真っすぐに彼の父を見据えて答えた。
『寿家の起源を知りに来た。私は天音 葵。‥‥‥‥正体は、分かっているでしょ。』
扉を開ける前から。いや。イギリスに来た時から感じていた違和感。
何だか監視されているような、警戒されているような。
それが、扉が開いた瞬間になくなった。ということは、監視をしていたのか彼の父親で、恐らく、私の正体を真っ先に見破ったはずだ。だから、そう問いかけてみる。
「うん、わかるとも。けれど、かなりぐちゃぐちゃ、というか複雑だね。」
じっと私を見つめた後に、彼はふむ、と私を見るのを止めて言った。
「で、起源だっけ。初代の?」
私はこくりと頷く。
『うん。あと、寿文人の話。私はなにも知らない。けど、“何かある”ことは知らされてる。』
そう言うと、彼の父親はふぅ、とため息をついた。
「‥‥‥‥あーあ、誰かが文人に教えちゃったんだねぇ。何も知らなければ人間として生活できたはずなのに。まぁいいや、文人もここにいるってことはそう言うことだろうし。‥‥‥それで?何かある。それは何に対してだい?」
多分、教えたのは十中八九内亜だ。
何故、そんなことをしたのかも、きっと彼の父親がカギを握っているはず。
だから、自信はないけれどこれだろうという答えを返す。
『多分、存在。何かが混ざってる。‥‥‥‥‥違う?』
すると、彼の父親はにっこりと微笑んだ。
「副王、ヨグソトースの存在は知っているね?それの一部を、それこそ先祖返りのように文人は受け継いでいる。」
「え?あー、内亜になんか見せられたな‥‥‥直前に。」
いつの話だろうか。初耳なんだけれど。
そう言いたい気持ちを押し殺して、私は彼の父親をじっと見つめる。
外見もそうだけれど、なんだか空気が似ている気がする。
これが、人間の言う家族、という物なのだろうか。
「あはは、事情はよく分からないけれど、まぁその名前は覚えておくよ。彼?彼女?分からないけれど、当人の事情もあっただろうしね。」
それから私の方を見ると、彼は不思議そうに問いかけてきた。
「ってか、陰陽師たる私に話しかけてくるの強くない?いや、文人が文人だから気にしないんだけどさ。」
陰陽師。確か、日本のエクソシストのようなものだっただろうか。
昔そんな名前を名乗る存在に異形と間違われて、いや、間違ってはいないけれど、悪い異形扱いされて殺されかけたっけか。当時はまだネフィーの加護の元にいないといけないのを抜け出してしまった私が悪かったと今では反省している。
確か、名前はなんだか歴史書にも乗っていた人物だった気がするけれど。
『東洋のエクソシストみたいなものでしょう?確か。最近異形殺しと渡り合ったばっかりだからあんまり怖くなかったし、見ていること自体は気づいていたし。』
「うーん、そっかぁ。でも私は陰陽師であることに変わりはない。それこそ幽霊、怪異、妖怪、悪魔。それ以外の名状しがたい異形までこの手で処分することもあるんだよ。まぁ、君にはしないけどね。文人を連れてきてくれてありがとう。」
そう言ってから、あ、と声を漏らしてから寿文人の父は言った。
「そう言えば名乗り遅れてしまっていたね、私は寿幽鬼。よろしく頼むよ。」
『幽鬼、ね、よろしく。』
そう言うと、彼は何かを考えるような仕草をしてから言った。
「ん?異形殺しと渡り合った‥‥‥‥巷を騒がせていた、あの通り魔の女?あの人和解で来たんだね。」
通り魔‥‥‥‥八代が聞いたら怒りそうだなと思いつつ、私は頷く。
『彼女はその優しさゆえに呪詛を駆けられちゃっただけだから、そんなに怖くなかったし。呪詛は解いておいたから精神性は戻ると思うよ。』
「もともとの破天荒さにバフがかかっていたってことね、なるほど、納得したよ。まあ、彼女が優しいのは認めるけど、勝ち気で破天荒なのに変わりはないから注意しなよ?」
『?若狭にノックアウトされてたけど、そのこと?』
そう問うと、困ったように幽鬼は笑う。
「流石にその人は存じ上げないなぁ。ごめんねぇ?ただ、あの人をノックアウトしたってことは相当な手誰なんだね、その若狭って人は。」
そう言われてつい嬉しくなる。
若狭とネフィー、この二人の師匠が強いのは当たり前なのだ。
『地球史上最強の一角だよ。』
「そうなんだ、それはすごいねぇ。」
そうニコニコ微笑む幽鬼。
私が褒められたわけでもないのに、つい嬉しくなってしまう。
『えへへ、負けなしなんだよ。引き分けはそれぞれ一回ずつ、だってさ。』
「へぇ~‥‥‥‥へぇ?ふたりいるのかい?」
きょとんとする幽鬼に、私は自慢げに語って聞かせる。
『若狭と、ネフィーだよ。片方が体術で、もう片方が剣術の達人!』
「へぇ。ってことは不知火八代からの傾向を察するに、彼女を制したのは若狭という人物で、二人とも戦って一分けずつってとこかな?」
そう言われて今度は私がついきょとんとしてしまう。
『何でわかったの?』
「きみの喋り方から察するにそうかなって思っただけさ。わかりやすい話をありがとう。」
『うん?うん。』
私が頷くと、幽鬼は何かに納得したようにうなずいた。そして、急に真面目な顔になると、唐突にこんなことを言い出した。
「ところで君、自分の存在自体がぐらついていることに気が付いている?」
今日はここまでです。
本当はもっと書きたいんですけどあんまり書きすぎるとRP情報の備蓄がなくなっちゃうので‥‥‥