表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/246

[二部三章]悪魔とのやり取り

まだまだいっきます


葵は、図書館に入った瞬間に本に飛びついて本の虫と化した。

昔からその辺りは変わっていない。

日の当たる高い高い本棚の上に腰かけて、楽しそうに物色した本を読んでいる。


『さて、と。突然だけど文人と呼ばせてもらうよ。』


「わっ、‥‥‥‥影の人?」


『まぁ、正解。僕は天海内亜。あくまでニャルラトホテプさ。』


そう名乗りを上げても、特に不思議な点は見られない。

一番反応したのは、さっき、葵が母親の事を出した時。

けれど、その点については既に調査済み。知らないのは、葵だけ。

これから話すことも、葵に言う気はない。


「にゃる‥‥‥‥またよく分からない名前だね。それで?どうしたの?」


『この間言っただろう?葵が背負っているもの。それから、君が知らなきゃいけないこと。』


不思議そうな顔をする彼に、僕は一冊の手帳を投げてよこす。


『一ページ目、見てみなよ。』


「?」


不思議そうな顔をしながらもページをめくる文人。

そこには、だいぶ簡略化された魔王の姿があった。


『それは、クトゥルフ神話、ラヴクラフトが記したとされる神話の魔王様さ。』


「ふぅん?クトゥルフ神話、ねぇ。」


『‥‥‥‥‥その魔王アザトース、その存在を補佐するのが、ニャルラトホテプとしての僕。けれど、そのアザトースも、ニャルラトホテプも。全部全部無理やり詰め込んだ存在が、あの葵。』


「‥‥‥‥何、何が言いたいわけ。」


警戒心をむき出しにする文人。けれど仕方がない。時間がないから。


『この世界は、そのアザトースが見る夢でしかない、とすら言われていてね。葵の中の、そのアザトースが今、目覚めそうになっている。‥‥‥‥正直危ない状態だよ。』


「‥‥‥‥‥それを僕にどうにかしろって?普通の人間である僕に?」


告げるべきか一瞬だけ、迷う。けれど。心の中でごめんねと謝りながら、僕は告げる。


『君は、人間じゃない。次のページにあるのを見てごらんよ。』


そのページにあるのは、“副王、ヨグソトース”。


「‥‥‥‥なに?これ。」


『これが、君の中にある存在。そして、アザトースを目覚めさせないために必要な存在。』


「‥‥‥‥‥は?」


『簡潔に言おう。僕と先日会った悪魔、ノワールは、もう葵の事を抑えてあげられない、力になってあげられない。だから修行に出る。』


これは、葵には告げていない情報。そして、告げるつもりのない情報。


『これらの絵はだいぶ簡略化されているから、読んでも大丈夫。必要な時に、必要な情報が手に入るようにしてある。あげるよ、それ。』


文人は、僕が投げたそれを受け取る。


『‥‥‥‥どうだい、君の起源を知りたくはないかい?寿文人。それに、これは、』


つい、葵の方へ目をやってしまう。

どうやら僕は、だいぶ過保護になりすぎてしまったみたいだ。


『あの子の、為なんだ。あの子と、一緒にいたくはないかい?‥‥‥‥恋心を利用するようで、悪いけれど。』


「‥‥‥‥」


しばらく沈黙する彼を、僕は見守る。

答えは、分かり切っているのに。‥‥‥全く、嫌な役割だ。


「まぁ、あの子の事は知りたいし、一緒にいたい。そのために根源を知ることが必要なら、僕は甘んじて受け入れよう。」


『‥‥‥‥そうか。なら、いくつかお願いがあるんだ。』


「何?僕で聞ける範囲なら聞くけど。」


『葵を、絶対泣かせないでほしい。あと、甘やかしすぎないで。‥‥‥それから、そうだね。君が今、君だからこそできることを頼もう。僕らの代わりに、あの子を愛してあげてほしい。』


あぁ、離れたくないな、なんて今更だけど。


『君にできる精一杯でいいからさ。頼むよ。』


でも、彼に賭けるしかない。だから、頼もう。


「は、何それ。それは君らがしてあげればいいことじゃないの?なに、子離れの時期なの?」


『生憎と、時間が本当に惜しい。これ以上は、離れられなくなっちゃうからさ。‥‥‥さっき言ったとおり、僕らは修行に出る。』


文人は、黙って僕の言葉を聞いてくれている。


『あの子はね。とてつもなく大きな力を持っているんだ。少し前に、その力が彼女自身を壊しかけた。‥‥‥‥僕らは、従者たる僕らは。それを止める術を持たなかった。誰よりあの子の近くにいたのに。なのに、壊れてゆく彼女を見守ることしかできなかった。だから、それをもうしないために。させないために、修行に出てくる。僕らもいい加減、自分たちの起源に向き合わないとね。本当は、お別れのあいさつの一つでもしたいところだけどさ、そんなことしたら泣いちゃうから。だから、お願い。』


「‥‥‥‥ふぅん、そんな術、僕にもないと思うけど。していかない方が泣かない?彼女。それでもいいなら、急に重圧をかけられた気がするけれど、承諾するよ。」


『あはは、心配しないで。泣かないようにするのが君の初任務だから。それに、そうだね。力については、君が自分自身の起源を知ればおのずと分かってくるさ。』


「初任務が重いな~‥‥‥」


『そこは謝るよ、ごめんね、

彼女じゃない彼女が目を覚まさないように。‥‥‥‥多分、だけどさ。一度、目を覚ましかけているみたいなんだよね。僕らには、何も言わなかったけれど。‥‥‥‥さて、そろそろ葵が僕らの会話に気が付く頃合だ。それじゃ頼んだよ、片思いの寿文人君。そしてこれが、現在の君の父親の位置だ。』


「‥‥‥会えってこと?」


僕は思わず笑う、笑って見せる。


『そうじゃなかったらこの神は何だっていうんだい。さ、それじゃあ僕らはお別れの時間だからさ。少しだけだけど。彼女の武器、これ預けておくから渡しておいてよ。』


そう言って、僕は影からレジーナとジェミニを取り出して手渡す。


『あぁ、これは大きな独り言なんだけれどさ。

過去の産物によって押しつぶされそうになったら、ちゃんと頼ってあげてよね。大丈夫、君のそれを受け止めるのは、葵にとってはたやすいことだから。』


そう言って、道化のように笑う、


そして影に溶け込み、僕らは消える。まるで初めからいなかったかのように。


さぁ、次会う時を楽しみにしようじゃないか。



さてさて内亜との別れは正直作者的にしんどいです。水紫の一番好きなキャラの片割れなので‥‥‥‥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ