[二部三章]寿家
今回は少し長めの章になります。
「んー、仙人って本当にいるのかぁ‥‥‥‥‥」
『みたいなもの、って言ってたけどね。本人は』
「へぇ‥‥‥あ、そうだ、葵さんは調査に来たんでしょ、今日から行くの?」
そう問われて私は頷く。
『‥‥‥‥って、ついてくる気?』
「え、うん。女の子に危ない目にあわせられないからね。」
『‥‥‥とはいっても、私が寿文人の事守れないかもよ。』
念を押すように言っておく。何がいるかもまだ分からない、そもそもいるかどうかすら怪しいのについてくる気なのだろうか、この人間は。
「それでもついて行くさ、君がいくなら。」
『‥‥‥‥知らない、好きにすれば。』
そう言って諦めてもらおうとするけれど、影から声がする。
「今日の21時半に学校ねー」
「うん?うん。」
(‥‥‥‥‥?何で内亜が勝手に答えるんだろう。)
そんな疑問がわくけれど、とりあえず時間を伝えてしまったからには時間通りにいかないといけない。
そう思ってこないでくれと念じながら向かうと
「やぁ、葵さん。」
『うわ‥‥‥本当にいる‥‥』
「だって黒い人が教えてくれたし。危ない目にあわせたくないって言ったでしょ。」
そんなこと言われても、危ない目にあうのは私じゃないと何度言えばわかるのだろうか。
『危なくなんかならない。それに、あの黒いのは内亜。天海、内亜。』
「内亜さんか。えへへ、強気なところも可愛いと思うよ、そういうところも好き。」
内亜が影の中で楽しそうに笑っているのを感じる。
それに、なんだろう。
『‥‥‥その、好き、っていうの、あんまりよくないと思う。』
「なんで?」
『なんで、って‥‥‥‥‥』
なんとも形容しがたいのだけれど、あえて言うのであればこうだろうか。
『なんか、もそもそする。』
「もそもそ????」
『うん、だからあんまり言わないで。』
すると、内亜が影の中から声をかけてくる。
「葵ー、それ、照れてるんじゃないのー?」
『違う。』
断じて違う、と思う。
「??とにかく分かった、善処はしてみるね。」
『ん。変なものを見つけても勝手に触ったりする前に声かけてよね、おかしなことになっても困るし。』
そう言い含めて捜査を開始する。
すると、一か所ほの暗い明かりのついた教室から、複数の人の声のようなものがする。あと、何だか不思議な音。
なんだろうかと確かめようとすると、影で内亜に、そして寿文人に止められた。
『???』
何で息ぴったりで止めようとするのだろうか。
「うん、なんにもない、何にもなかったから帰ろう、」
「そだね、今夜の収穫無し、さっさと帰ろう。」
『ねぇ、なんでそんなに二人して止めようとするの。』
「葵にはまだだいぶ早い。」
「うん、そうだね、ちょっと、だいぶ早いから帰ろう、僕も帰りたくなっちゃったなー」
『?????分かった‥‥‥‥』
納得はいかないけれど、ここまで言われては仕方がない、さっさと適当な扉を開けてバーに戻ろうとする。
「葵?普通に帰ろうよ、それ普通じゃないから。」
『あ。』
寿文人がいるのを失念していた。
「んー、まぁいいんじゃないかな?普通じゃないのはもう分かったし。僕はこのまま徒歩で帰るよ。」
つい、服の裾を掴む。
「へ?」
若干顔の赤くなった寿文人。少し体温が上がっているみたいだ。
『危ないんでしょ。送る。』
「え、あ、はい‥‥‥‥、?」
困惑した表情の寿文人を掴んだままバーに入り、扉を閉める。それから再度扉を開けて、寿文人の家へとつなげる。
『はい、おやすみ、ばいばい。』
「え???なに?どこでもドア?え、えっと、バイバイ‥‥‥‥?」
「ふふ、そのようなものですよ、まぁ、マスターが他人のためにお使いになるのはあまり見ませんけれど。」
ノワールが余計なことを言うので、私はぐいぐいと寿文人を押して家へ帰す。
『またあした』
「へぇ、?えっと、また明日!」
「ふふ、それではまた今度ということで。寿家のお方。」
私は、一応の礼儀を尽くそうと思って小さく手を振ってみた。
「かわ、っ、」
何か聞こえた気もするけれど、寿文人は口を塞いだまま手を振り返し、帰宅していった。
彼が帰った後、ノワールが言った。
「それにしてもマスター、またおかしな者を連れて歩きますね。」
おかしな者?
『寿文人のこと?』
「えぇ。お家の事を窺ってみれば面白い発見があるかもしれませんよ。」
『‥‥‥‥‥‥分かった。』
あまり、気は進まない。けれど、あちらから声をかけてくるのだから仕方ない。
だから、次の日、学校は休みだけれど、また明日、とつい言ってしまったので、迎えに行くために扉を繋ぐ。
一緒に活動している人間を狙う存在もいるので、念のため、というやつだ。
『‥‥‥‥一緒に活動してると、狙ってくる奴もいるから、一緒に動くならと思って来てみた。』
あまり昨日はじっくり見なかったけれど、彼の家はだいぶ広い。そして、何かの建物とつながっているようだ。
「そうなの?優しいね、ありがとう。」
そう言って微笑む寿文人。
『‥‥‥‥普通、じゃないかな。そう言えば、ノワールが言ってた。寿家、って何?』
一瞬だけ、肩がピクリと動いた気がする。けれどきっと気のせいだと思う。
「のわーる?んー?寿家は寿家、普通の家だよ。見ての通り。それがどうかしたの?」
『バーにいた悪魔。ノワール。そのノワールがなんか言ってたから、何かあるのかと思ったんだけど。』
「あぁ、あの人か。うーん、普通に父さんもいるしなぁ」
ノワールの情報で何かが間違っていることなんてない、と思うんだけれど。
『お母さんは?』
「お母さんも普通の人。あ、でもよく父さんと似てるって言われたなぁ。父さん外出してること多かったから。‥‥‥‥あ、家の裏が図書館になってるから、そこは違うかもしれない。」
『図書館。』
つい食いついてしまった。
「あはは‥‥‥‥良かったら、来る?」
『うん!』
思わず元気よく返事をしてしまった。けれども仕方がない。本には魔力でもあるのか私の心をつかんで離さないのだから。
さてさて今日は調子がいいので調子に乗って書きまくります(