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[二部二章]神聖なチェイサー

異形殺し編次で終わりです


『‥‥‥‥‥‥ごめんね、帰してあげたいけれど、きっと帰したら見つけた異形を殺してしまうでしょう。だから、と言っては何なんだけれど‥‥‥‥‥‥』


私は心底自信なさげに、異形殺しに問いかける。


『‥‥‥‥‥お酒、好き?』


すると、異形殺し、八代はしばらく黙ってから静かに言った。


「‥‥‥‥‥‥何が望みや」


私が望むのは一つ。だけど、きっと彼女が異形殺しになるまでの経緯を聞いたら、その言葉は口にできなくなってしまう。

だから、早めに口にしないといけないと思う。けど、やっぱり自信がない。


『‥‥‥‥和解‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』


ネフィーが言っていたのだ。もしも欲求が全く異なる存在、相容れない存在と相容れたいのであれば、酒を使えと。ただし私は飲むなと。なんでだろうか。

どう伝えればいいか分からなかった。だから、そのままを伝える。


『ネフィ、‥‥‥‥‥師匠が、和解のためにはお酒がいいって言ってたから。‥‥‥‥えっとね、私は飲めないけど、ノワールと、さっきの内亜は、付き合ってくれるはず。‥‥‥‥それに、わたし達だって異形を殺していないわけじゃない。悪さをする異形は殺すし、和解したり、退散させたりすることだって少なくない。けれどやっぱり、人手が足りない。だから、その。‥‥‥‥手伝いが、欲しい、かな。』


八代は、彼女はとても訝しげな顔をしたまま黙って、暫くして言った。


「‥‥‥‥‥‥‥ふん、事情は知らへんけど、ええよ。」


そして、釣り目の綺麗な瞳を細めて、続ける。


「の、前に。さっきの黒いの出せや。」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥多分良くないことが起きる。けど、仕方ないと思う。

だって内亜は彼女の逆鱗にわざわざ踏み込みに行ったから。


けれど流石というか、内亜は既にバーテンダーの服に着替えて(なんで?)、カウンターの向こうに逃げていた。


「え?俺いやだよだってこっちでフレアする気満々だしおい何でてめぇ俺の事掴んでんだよ離せよ似非バーテンダーノワールおいふっざけんなちょ影に逃げられないように固めるんじゃねぇおい!」


しかし、そこは何というか、悪魔の格というか。ノワールに捕まっている。


(なぁんかやけに愉し気なノワール見ると更に嫌な予感が大きくなるんだけど。)


けれど、ここは頷くしかないだろう。だから。


『‥‥‥‥‥‥うぅ‥‥‥致し方なし。ごめん内亜』


「葵?????????????」


ざまぁないなという表情のノワール。ほら、ろくなことにならない。


「ちと行儀の悪いことするで。」


次の瞬間。

彼女は、カウンターに手をついて思い切り内亜の顔面を蹴飛ばした。

そして私は見た。丁度いいところにヒットするように内亜の位置を調節したノワールのほくそ笑む顔を。


「あぁ、備品の事ならお構いなく。と、伝えるのを忘れていましたね。」


『‥‥‥‥‥‥内亜ー、大丈夫‥‥‥‥?』


綺麗に吹き飛んだ内亜を見てこっそり声をかける。

内亜は一瞬でひょいッと起き上がってノワールを睨みつけると叫んだ。


「めっちゃくっちゃいったいんですけど。ねぇ葵??」


「日頃の行いですよ、駄犬。」


「それならお前の方がたち悪いだろうがよ虫けらが。」


喧嘩をし始める二人を見て、私はため息をつく。

八代は満足したのかカウンターについて、


「ふぅ、スッキリした。」


と、既にくつろいでいる様子。

‥‥‥‥‥あの威力、内亜達じゃなかったら普通に死ねるなぁ。そう思いつつ、内亜を呼び寄せて手当てをする。


『内亜、怪我だけ治すから。』


「うぅー、葵、なぁんで見捨てたのさぁ」


『んー‥‥‥‥流石に自業自得かなって』


そうとしか言いようがない。

ノワールは既にいつもの四倍増しの笑顔で、八代に注文を聞いている。


「八代様、お好みの物をご用意いたしますが。ふふ、先程は良い蹴りでした。お見事です。」


「ほん、それはおおきに。‥‥‥酒、なぁ。おすすめでええよ。」


そう八代が答えると、ノワールは笑顔でワインセラーからとある逸品を出してきた。

ノワールがたまに飲んでるやつだ。多分お気に入りの。

それをワイングラスに注ぐノワール。

血のように紅いワインは、なんだかとても八代に似合う気がした。


「ほぉん。どこから仕入れてるんだか。」


やはり、酒飲みの中では有名な酒なのか、軽くグラスを回して香りをかぐ八代。

く、っと一口飲んだ後に、その味わいを確かめるように瞳を閉じる。


「ふふ、それはマスターにお聞きください。」


急に話を振られて私は驚く(今オレンジジュースを準備していたのに。)


「そいやあんたがマスターやないんか。」


私としてはややこしいからノワールにマスターやっててほしいんだけれど、何度持ち出してもノワールは首を縦に振らない。


「えぇ、私めはマスターの忠実なる僕、あくまでバーテンダーでございます。」


仕方がないから、ジュースを一気飲みしてから(ちょっと行儀悪いけど)、私はゆっくりと口を開く。


『‥‥‥‥‥えっとね、八代。こういう貴重なワインを保管するのとか、後は、そのワインを入手する為だけに争う人間がいるのは分かるよね。‥‥‥ここでは、ノワールたちの魔力によってそのワインの量は減ることがない。それによって防げる争いだって、あるんだよ。』


禁酒令だって、守られてはいなかったし。アルコールを求めて争う人間だって、本当に実在する。


「ほん。」


少し、興味深そうな声を出す八代。

自慢げに、ノワールが補足する。


「えぇ。今お出ししたワインも、本来であれば一滴程度しか残っていなかった逸品。けれど、私めどもの魔術によって、多くの人に届かせ、感動を与えることができるようにさせていただきました。」


「‥‥‥せやろな。」


ワインをまた一口含みつつ、頷く八代。


『とはいえ、人間ができる事じゃないから、これは異形だけ、というかここだけでしか飲めないものだけど。‥‥‥‥‥でも、多くの伝承に残る通り、人間たちの戦争を起こすのに悪魔が加担することもある。その他の異形もね。でも、それだけじゃないと思うんだ。その争いを鎮めるために奔走して、努力する異形だっている。

人間も、異形も、持って生まれた力は違うかもしれないけれど、みんな違って、みんなおんなじ、だと思う。』


そう私が言う言葉にも、耳を傾けてくれているようだ。

ノワールは、くすくすと笑いながら言った。


「実は私めも昔少々やんちゃ、という物をしましてね。マスターに止められてからは、ここのバーテンダーの一人として働かせていただいているのですよ。」


シュブ=ニグラスの召喚は少々で済むのか。

私は内心そう思いつつ、あえて突っ込まずにおく。


「ほん?まっさか異形の巣に招かれるとはなぁ。」


そう言いつつ欠伸をする八代。

そりゃそうだ。だって彼女は異形殺しだ。‥‥‥‥今は、分からないけれど。


『確かに地下はそうだけど、地上は孤児院やってるよ。‥‥‥そういえば、そのワインは気に入った?』


「そらもう‥‥‥‥、孤児院?」


不思議そうに首をかしげる八代。


『戦争孤児とかを、集めて暮らしているんだ。スラムで、悪さしか知らず、できず。そのまま殺されるばかりの子供を放っておけなかったから。』


それに、クローネの願いでもあったし。


「ほん、そいで?」


『‥‥‥‥‥‥ワイン、もし気に入ってくれたなら、一つ、お願いがあるの。』


「なんや。」


そう。私が気になることが一つ、それを聞かないと、正直八代をここに読んで話す理由がない。


『‥‥‥悪魔の名前は、分かる?』


少しの沈黙。


「何の、は無粋やなぁ。知らんよ。」


『そ、っか。』


悪魔の名前が分かれば、やり返すこともできるし、きっと呪詛返しもできた。けれど分からないならば仕方がない。

原始的な方法で呪いを解こう。


『じゃあ、浄化するために、二人、上の階に行ってて。‥‥‥‥多分結構害になる。』


今から行うのは、未希ねぇに教えてもらった術式と、古い魔本に書いてあったものを組み合わせて作るいわば聖水だ。私は混ざりすぎていて影響なく作れるけれど、悪魔の二人にはきついだろう。

二人は、私の言葉に従って、けど何だか口論しながら上の階へと向かう。


「何をするつもりや。力手放す気はあらへんよ。」


『分かってる。多分だけどその悪魔、代償無しでも‥‥‥‥なんであんな高いところに。‥‥‥‥力、あげられたはずだと思う。だから、きっとその火傷は呪詛の一種だから、別物。

ん、しょ、っと(小さく飛びながら棚に並ぶ瓶を取る。)呪いの部分だけ、きっと浄化できる、から。

だから、まってて。』


そう言って冷蔵庫の中からも薬草やらを取り出して調合を始める。

八代は黙って私の手元を見ているようだった。

段々と森のような、神聖な香りが辺りに充満する。成功の証のそれが心地よいのか、八代は少し瞳を閉じて香りを堪能している様子だった。

暫くの手順を踏んだ後、プリズム片でグラスを造り出し、純粋なままの聖水を造り出すことに成功する。


『できた。これで解呪できるはずだよ。』


‥‥‥‥恐らく、地面を踏まない癖はどうしても治らないだろう。

けれど、もう怖がらなくていい。そう伝えたかった。

背伸びをしてグラスを差し出すと、八代は問いかけてきた。


「‥‥‥‥、なんでそこまでする?うちはあんたらに害をもたらすものやで。また手を返すんやないかってその可能性を考えへんの?」


『その時はその時かな、でも、人の傷って見ていられなくってさ。あとは、以前イタリアンマフィアのボスの女の子と話して、決めてることがあるんだ。“救えるものは手の届く限り救う”って。』


そう告げると、八代は満足げに微笑んだ。


「ほん。ええ心意気やないの、」


そう言ってグラスを受け取り、くいっと中の聖水を飲み干す。

様子を見るに、効果はちゃんとあったみたいだ。


「‥‥‥‥えぇチェイサーやないの。」


心の底から楽しそうな彼女の笑みを、私は初めて見た気がする。


差別っていつの時代にもありますけど嫌だなって。生まれが違うだけでなんで差別って起きるんでしょうね。

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