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[二部二章]八代とクロード

まーた長くなったよ(小声


ノワールの空間能力で、ひょいッと出た先。

そこには、機械人形の上に立つ女性がいた。

琥珀色のきりっとした釣り目に、所々明るいメッシュの入った茶髪を、真っすぐに切りそろえた短髪の女性。


(この人が、異形殺し。)


一目見て、そう分かる空気感。

向こうの方もこちらの方を向いて、気配に気が付いたようだった。


『君が、異形殺し?』


そう言って、彼女の行く道を塞ぐ。

これから先は、犠牲者なんて出したらいけないから。

そして向こうも、すぐにこちらがどういう存在か分かったらしい。

でもきっと、ぐちゃぐちゃすぎて、私が何者かなんてわからなかっただろう。

だって、私にだってわかっていないんだから。


「ほん、ほほほ、喋れる奴もおるんやなぁ。うちの事知りよるんなら、今からどんな目にあうかよぉ分かるやろ?」


愉し気に、そう嗤う女性。

きっと、彼女は人間だけど、いつか人間じゃなくされてしまう。

戦いは得意じゃないし好きでも何でもない。

けれど、彼女をここで止めないと、彼女が、危ない目にあってしまう。

だって、


“彼女は、私よりも弱い”


そう、一目見て分かるくらいには、力の差がはっきりとしているのに。

なのに彼女は、こっちを“殺す”ことしか考えていない。

はっきりと、向けられた殺意からそう分かる。分かってしまう。


殺意を向ける。それ自体が間違っているんじゃないけれど。

殺意があるということだけで、何を、何処を狙うか、戦闘時に分かってしまう。

だからこそ、殺意は隠さないといけない。

そう、師匠二人に教わった。


けれど彼女にはそれがない。

教えてもらっていないのか、それともあえてなのか。

戦ってみないことにはわからないけれど、真っすぐに彼女を見てそう思った。

だから。


『分からない。今日は話をしに来たから。』


少し、煽る。

案の定、眉がピクリと動く。


『なんで、異形を殺すの?』


分かり切ったことを聞く。この手の人間は、何らかの恨みを持って異形を殺そうと躍起になる。

けれど、けれども。

彼女は、本来の性質としては、もっと理性的に見える。

なのに、簡単に挑発に乗る。

つまり、“背後に何かいる”。


「生憎、うちは話すことがあらへんし、話す義理もあらへん。ち言うわけで、ほな」


彼女はそう言って、自らの乗る機械人形を起点にして本気で私を殺そうと蹴りを繰り出してくる。

けれど、的が私の急所であることが分かっているのであれば、防ぐのは簡単だ。

カンッという音と共に、展開したプリズム片で蹴りを止められ、舌打ちをして人形の肩の上に戻る。


『‥‥‥‥‥異形なら、見境無しってわけ?』


「そういうことや。」


あえて、会話を試みる。

きっと、どこかに彼女をそうした原因が見えるはずだから。


『異形だって、異形でありたくてそう在る訳じゃない者も居る。‥‥‥‥‥私だって、異形でありたいなんて願ったことは一度もなかった。』


けれど。


「知らん。そんなもんは知らん。それはそっちの都合やろがい。」


取り付く島がない。

けれども、私は語りかける。

だって、そうじゃないと何も分からない。

分からないまま、殺し合ってお終い、なんてしたくない。

だって、感情の薄れてしまった今でも覚えているから。

“救えるものは全部救う”。って。

それがたとえ自分を殺そうとするものでも。


『そう。こっちの都合。

けれど、貴女はそれを押し付けるの?

今まで、ただ逃げようとした異形を殺したことは?

人の中に混ざって、人として生きようとした異形を殺したことは?』


「そっちの都合を押し付けてくるんやあらへんよぉ。うちが押し付けるち言うならお前らも押しつけよる。‥‥‥‥それに、知らん。異形なんは変わらん。異形は全て殺す。」


‥‥‥‥‥あぁ、これは。


『‥‥‥‥‥それは、復讐?』


「さっき言わたはずや、答える義理はあらへん。」


‥‥‥‥‥‥でも。


「さかい、死ね。」


『そう、でもそれは——————、すごく、虚しいものだと思う。』


私は、また繰り出される蹴りをプリズム片で防ぐ。簡単に、防げてしまう。


「うっざ」


『‥‥‥‥‥‥‥』


私は黙って彼女を見つめる。

何か、何か伝えられることは無いかって。


「虚しいのは自分やろ。異形風情が測るなや。」


‥‥‥‥‥‥‥‥その言葉を聞いて、笑みが零れる。

笑うことを忘れたこの表情筋が、微かに、ほんの僅か、歪む。


『ふふ、あはは、虚しい、か。』


私は瞳を閉じて答える。


『いくらでもあるよ、そんな事。けれど。今はそうは思わないんだ。だって、』


だって。私は知ってしまった。


『だって、護るのは楽しい。誰かの笑顔を護るのは、とても楽しい。』


けれど、思ってしまう。


『貴女の復讐に、笑顔はあるの?』


彼女の事を思う。

痛い、と思った。

苦しい、悔しい、と思った。


「うちは人間を守っとるだけや‼‼」


そう叫んで、二回、三回と。宙で身を翻しながらプリズム片を壊そうとする彼女。

けれど、その叫びはすごく辛そうで。


『じゃあ、聞くけれど。

その人間が殺人鬼なら、人間だから護るの?

その異形が赤子でも、異形だから殺すの?』


胸が痛くなる。

痛くなるほど、この人は本気だと分かるから。

そう、伝わってくるから。


「殺人鬼は殺す。異形も殺す。」


けれどそれは、すごく辛い道のりなんじゃないかと、そう思う。

プリズム片を壊されてもすぐ展開する。

すると、彼女はまた舌打ちをして機械人形の肩に戻る。

‥‥‥‥‥‥これ以上、あまり長話を続けてもきっと彼女は変わらない。

だったら。


「長話する気はあらへんねんけど。しかも異形と。」


「ねーぇ、そこの異形殺しさん。」


忍ばせていた内亜が、機械人形の足元からひょっこり顔を出す。


「君のそれ、異形と一体何が違うんだい?」


そう言いながら機械人形の片足を影の中に取り込む内亜。

一瞬で姿勢をくずされて、機械人形はそれでも姿勢を保とうとする。


「あれ、」


「チッ、新しい異形か。見て分からへん?そいつは機械人形。ただのオートマタよ。それが何ち言うや、触るな。」


そう言いつつ彼女は人形の上から動こうとせず、姿勢を保ち続ける。

その姿に、違和感を感じた。多分だけど、内亜も同じ。


「おっと、ごめんねぇ、逃がせないんだぁ。壊したくはないから暴れないでねぇ。」


『‥‥‥‥‥異形殺し、内亜が言っているのはその人形じゃない、君の事だよ。』


「‥‥‥‥‥は?それこそ見ればわかるやろ、ただの人間や。」


‥‥‥‥‥‥‥大地に足をつけられない。きっとそんな当たりの呪詛がかけられているであろう彼女は、はたして人間なんだろうか。

だから、それは敢えて言わないけれど、間接的に伝える。


『異形を殺せば殺すほど、身体が重くなる。異形を殺す、それ自体に問題がなかったとしても、異形を殺すことで段々と貴女は人間からかけ離れてゆく。』


そう。最初は自分がそうと感じない程度に。

けれど、段々と苦しくなってくる。そのころには手遅れになる。


『それを感じないの?それとも、精神力だけで保っているの?』


「何度も言わせるな。ただの人間や言うとるやろ。」


機械人形の方が業を煮やしたのか、声を出す。


「八代様の邪魔になることを確認。‥‥‥‥‥叩くことを推奨。承認。」


そう言って内亜を叩こうとする機械人形。

でも。


「やぁ~だ、きみはこっち。」


とぷん、と、影の中に機械人形を引きずり込む内亜。


『‥‥‥貴女がそう言うなら、私達だって人間と共に在っていいはずだ。』


そう言いながら、私は鋭いプリズム片を撃ち出す。

殺す気はないから、効果としてはただの麻痺弾ってところだけど。


「クロード!」


そう機械人形に向かって叫びつつ、舌打ちをしてこちらが打ち出したプリズム片の上を走ってくる女性。

私は思う。


(あぁ、こんなにも強いのに、もったいない。)


「八代様、このままでは“まずい”と判断いたしますが」


「分かっとる‼‼」


機械人形の声に応答して叫びつつ、また私の急所を狙って蹴りを繰り出してくる彼女。

すこし、悪いことをするけれど。確認のため、少々痛い目を見てもらうことにする。

だから。


タァン、


軽い音がして、女性、八代の姿勢が崩れる。

ジェミニで麻痺弾を片足に打ち込ませてもらった。


『これで、今まで通りの立ち回りはできない。殺す気はない。降参して‼』


そう言いながら、麻痺させた足を掴んで背負い投げをする。

八代の背中が地面に触れそうになった瞬間、彼女が上体を起こそうと力んだのを感じて、不思議に思う、けれど、そのまま勢いよく腰から叩きつける。

柔道で言う受け身とも違う受け方。不思議に思った瞬間。


「う゛ぁああぁあぁあッ‼‼」


思いもよらない悲鳴を上げる八代。

無我夢中と言った形で顔面を蹴られそうになって焦る。


『ちょ、』


内亜と意思疎通をして、一瞬影に飲み込ませてから吐き出させ、プリズム片で作った台座の上に彼女を乗せる。


『だ、大丈夫?!』


先の叫びは尋常じゃなかった。

八代に駆け寄ると、機械人形、クロードを完全に影の中に取り込んだらしい内亜が言う。


「葵。多分これ、なんかとの制約、あるいは呪詛だ。」


『制約、呪詛、って、』


「大方、身体機能と引き換えになんて言ってつけられたものだろうね。違う?」


助けられたことが余程悔しいのか、憎々し気にこちらを睨みつける八代。


「答える義理はない。」


でも、放っておけない。


『それなら、怪我とか、傷とか、ごめんなさい!』


謝りつつ打ち付けた腰のあたりの服を引っぺがす。


そこにあったのは、酷く爛れた火傷のような跡。

咄嗟に傷跡に手を添えて、未希ねぇから教えてもらった治癒術式を使う。

これで痛みはすぐに消えるはず、

そう思った瞬間、蹴りが飛んできた。


『や、っ』


驚きで、咄嗟に瞳をぎゅっと瞑る。

しかし、衝撃は来ない。

今のを喰らっていたら、多分良くて致命傷だったはずなのに。

目を開けると、八代の足が影に掴まれているのが見えた。


「‥‥‥‥‥何しようとしてんの?お前。」


内亜の低い声。

これは、本気でキレた時の声だ。

ぎりぎりと、影に力が込められていくのが分かる。


「離せ!」


「知るか。」


『内亜!』


静止の為に声を上げる。

けれど、内亜は八代を睨みつけたままだ。


「お前、何しようとしたか分かってんのか。」


抵抗しても無駄だと悟ったのか、抵抗は止む、けれど、八代は今にも飛びかかりそうなくらい内亜を睨みつける。


「それがお前の正義か。異形殺し。」


内亜の低い声が辺りに響く。

ふつふつとした内亜の怒りがこみあげてくるのを感じる。


「答えろ。自分を殺そうとした相手を気遣って無防備晒した相手に容赦なく追撃加えようってのがお前の正義なのかって聞いてんだよ、答えろ!異形殺し!」


「五月蠅い!異形は殺す!気を遣おうが異形は異形や!お前らのせいでこうなってんねん、なァ!一人の人間が!クロードを返せ!」


そう喚き散らす八代。

その声が、叫びが、どうしても、痛い。すごく、痛い。‥‥‥‥すごく、悲痛な叫びだった。


「ハッ、抵抗しないんならすぐ返すさ。けどお生憎様ってやつ。俺は葵より優しくなんかない。てめぇが気遣ってる命のない自律人形なんかと同じように、俺も葵の命の方が大事なんでね‼‼」


そう叫んだ後に、静かに内亜が問う。

静かに、けれど、確かな怒りを込めて。


「なぁ、その“感情”に、異形たちと今のてめぇと何が違う。異形のせいでこうなった、だぁ?てめぇのせいだろうがよ、この小娘。」


ここまでの内亜の怒りを、私は見たことがない。

どうしてだろう。内亜のその言葉は自分自身にも向けられているように感じて。


「————————種別。人間と異形の単純な差や。うちの線引きはそれや。」


嘲笑するように内亜が嗤う。

嘲笑い、何かを言おうとしている。


「内亜、」


「‥‥‥‥‥ハッ、人間サマはいつもいつもそれだ。そんなんだから悪魔なんかに騙されて制約なんて名ばかりの呪いをかけられるんだよ、お前みてえになぁ‼‼」


「騙されたとしても、得るものは得た。何も困らん。いつもはな。」


つい、と、八代が視線を逸らした気がした。

私が何かを言う前に、内亜はこう告げた。


「で?じゃあ今回は?


“昔みたいに”


涙流して唇噛んで、血が出るほど拳握って、自らの無力さを悔やむか?」


『、うち、』


出かけた声は、音を漏らしたに過ぎなかった。

“それ”は、彼女の逆鱗に触れたようだった。


影で掴まれていない方の足で、内亜を全力で蹴ろうとする。

内亜は、避けようとしない。

だって。


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ごめん。ごめんなさい。でも、でも。“それ”は、それだけは、私だって許せやしない。』


私が、プリズム片で全力で防御したから。

内亜は、私がこうすると分かっていたみたいだった。


『‥‥‥‥ねぇ、内亜?さっきの人形さん、返してあげて。』


「でも葵」


『いいから、早く。』


今度は、私が内亜の言葉を遮る。

納得いかなさそうだったけれど。それでも、内亜は自律人形さんを影から傷一つない状態で出した。


『内亜、ありがとう。』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


心底不愉快そうなのが伝わってくる。

けれど、仕方のない事であると内亜はちゃんとわかってる。


『治療は終わったよ。異形殺しの八代。だから、今の会話を以てなお殺し合うなら受けて立つ。‥‥‥‥‥‥でも、戦力差は、分かってもらえないかな。』


八代は非常に不快で、悔しそうな顔をしている。

けれど、クロードという名らしい自律人形が、八代をすぐに抱き上げて言う。


「撤退しましょう。我々の負けです。」


そう言った直後に八代に叩かれるクロード。機械人形だけど痛みはあるのだろうか?


「負けはない!借りを作っただけや!」


そう吠える八代。

けれど。


『でも、ごめんね。帰してあげることも、できない。』


だって、そうじゃなかったら次の犠牲者が出てしまうから。

だったらこうする。


『ノワール。』


そう名前を呼んだ瞬間に、バーへと転移させられる。


「ようこそ、異形殺し様、いいえ、八代様、クロード様。」


そう言って、悪魔の王が客人を迎えるための礼をした。



RPってやっぱり楽しいですね。

想定通りだったり、そうじゃ無かったり。

色々まぜこぜなの楽しいです。

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