[二部一章]もう一つの日常
葵さん視点です。別に久しぶりでもなんでもない日常ですね。
『あーーーー、もう、びっくりした。あの人間、剣術すごかったね、内亜。』
私は今回ほとんど話さなかった相棒に向かって語り掛ける。
「だーねぇ。にしても葵。一目惚れされちゃうなんてやるじゃん、良いじゃん。」
『そのことなんだけど、内亜。』
「なーぁにぃ」
『ひとめぼれってなに?』
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そっからはじまるかぁぁぁ」
『お米の種類じゃないような気はしてたんだけど。後あの人間ずっと顔真っ赤だった。』
「うんうんそうだね葵。だったらちょっとは察しようよって言いたいけど言えないね、ごめんね、うん。」
時は、何年たったか覚えてない。
けれど、私が私でなくなって、でも変わらないままの私になってから何年かが経った。
変わったことと言えば、あの私はどこかへと消えてしまって、私はどこか感情が欠落してしまって。
けれど、魔術の腕はだいぶ上達した。それくらいのささやかな変化。
最初は内亜は何だか難しそうな顔していたけれど、一度得たものを二度目得るのは存外簡単なことかもしれないね、なんて言って一緒に旅を続けている。
ネフィーや若狭にはまだ会ってない。なんだか、まだ出会っちゃいけないような気がするから。
けれどきっと大丈夫なはず。だって、彼らは私のお師匠様だから。
だから、きっと私よりも私の事よく知ってて、理解してて、ちゃんと待っていてくれるはず。
未希ねぇは、風の便りでどこかの病院に所属しているとか聞いた。未希ねぇらしいとは思うけれど年齢とか大丈夫なんだろうか。
そのうちに会いに行こうとは思っている。どこの病院か分かり次第だけれど。
それと、今回は珍しく、というか久々に“ニャルラトホテプ”が相手だった。
勝手知ったるニャルラトホテプとの戦いなんか、もう慣れたものだけれど。
存外数が多くて驚く。
どんだけ内亜の同胞は暗躍するのが好きなんだってつい聞いてみたら、
「どっちかって言うと興味、好奇心で行動した結果暗躍したって形かなぁ。ほら、人間って面白いし」
との、何ともまぁそれらしい回答が返ってきた。
『じゃー、あれだ。暗躍するのがニャルラトホテプ』
「んー、合ってるけど違う。ニャルラトホテプだからつい暗躍しちゃう。」
つい暗躍しちゃうってなんだ、ついって。
『とりあえず。こんかいのきさらぎ駅?は、どっかのネット発祥の都市伝説なんでしょう。なんでそんなものにあんな馬鹿でかい神殿が建ってたわけ?』
「んとねー、多分だけど人間喰らいすぎて飽きて作ったとかそんな程度の話だと思うよ。
でもま、あの人間も大分LUKが高いね。葵と一緒じゃなかったら、片足さんとか、親切さんとか、あのニャルラトホテプなんかに化かされてジ・エンドってとこだったんじゃない?にしても珍しかったよね、葵が名乗るの。」
『‥‥‥‥そういえばなんでだろうね。あれから、特に何も感じることが無くなって、誰に対しても名乗りなんか上げることなかったのに。』
「まさかとは思うけど運命♡とか」
『内亜。ちょっと出てきて切刻まれる気無い?』
「あっはっはないかなー。」
『じゃあ黙らないと口縫うからね』
「えっ僕の契約者怖い。」
そんな軽口は、最近叩けるようになってきた。
初めは、感情の起伏を感じられなくて、内亜にいっぱい心配かけた。
“ほんと、金輪際、絶対、ぜぇぇったいに同じことしないでね。したら泣くから。”
目が覚めた時に内亜はぼろっぼろに泣きながらそう訴えかけてきた。
『うん。しない。』
そう約束して、ようやく泣き止んだ内亜。
正直初めての出会いが最悪だったから、こんな風に頼れる相棒になるだなんて思わなかった。
『ねぇ、内亜』
「なーぁに?」
『ずっとずっと、ありがとうね。』
「‥‥‥‥‥‥‥‥あー、こりゃ人間の男なんかいちころだぁ。」
『いちころってなぁに?』
「一直線にころん。」
『????』
よく分からないことを言う。
けれどもまぁ仕方のない事でもあるかもしれないと思いつつ、いつもの戯言だと思って放っておく。
『‥‥‥‥‥寿文人、かぁ。』
「ん?何々、契約者にラブの気配?」
『いや、なんでかまた会うような気がして。』
「あっはっは、そりゃないでしょ。だってそうだとしたら“人間じゃない”か、“世界から排除されようとしているか”のどっちかだよ。」
『そうだよね。‥‥‥‥‥‥あ、人間と言えば、桜はどうしてるかな。』
「あー、あのマフィアの?大人のレディーになって美しいボスとでも呼ばれるようになってるんじゃないかな?会いに行ってみるのもいいと思うけど。」
『んー、一度あった人間が年を取るのを見るのはどうにも、ね。』
「“置いて行かれるように感じる”?」
『そんなところ。』
「‥‥‥‥‥‥まぁ、そうだね。向こうがどう思っていようが僕らは異形。本来出会ってはいけない存在だからね。」
ポンポンと言葉が飛び交うけれど、この時間が私は案外嫌いじゃない。
だって、何にも考えずにいられるから。
『そうなんだよね。‥‥‥‥でも、約束もしちゃったし、今度会いに行こうかな。』
「お、じゃあいつにしよっか。」
『んー、数年後』
「それ会いに行かないと同義だけど?」
『じゃあ、今から?』
「それもアリ。まぁいいさ、僕は君に従うよ、葵。」
『‥‥‥‥じゃあ、感情がある程度戻ったら、合いに行く。』
「‥‥‥‥‥‥、そっか、それがいい。」
そうして、私達は次の怪異を探しに出る。
まさかまさか、同じ人間に出会うことがあるなんて思わなかったけれど。
この二人を書いているときが一番言葉がポンポン出てきて、かつ会話文だけで一話がおわってしまいます。
会話と会話の間が無いんじゃなくて、何も考えずともお互いの呼吸に合わせて会話ができる。そんな関係の二人を書いているのはとても気分が良いです。
では、また次回。