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[二部一章]日常へ

とりあえずこれで四話目ですかね。


「‥‥‥‥‥‥‥よく、分からない。」


本気で理解していないように、彼女は呟く。


『ごめん、気分害したなら謝るけど‥‥‥その、景色も綺麗だけど、君も綺麗だ。』


せめてもの贖罪としてしっかりと言い直す。


「そう‥‥‥‥そう?」


彼女はやはり不思議そうな顔をする。けれど、そんな表情も可愛いと思ってしまう。


『うん。で、これはどこに向かっているの?』


「‥‥‥‥‥‥‥駅」


進歩、したのだろうか。

彼女の返事を受けて、僕はまた景色の方を見る。

うん。やっぱり綺麗だ。


『駅、かぁ。そう言えば、君の名前、やっぱり教えてもらうのは、駄目?』


もうすぐ帰れるんだと思うと、嬉しいと思うとともに名残惜しさがどうしても出てしまう。

ダメ元で聞いてみると、彼女はしばらく黙ってから言った。


「葵。天音 葵。」


そうか、彼女の名前は葵さんっていうのか。


『えへへ、じゃあよろしくね。葵さん。』


けれど彼女からの答えは返ってこない。


少しの時間の浮遊時間はすぐに終わってしまい、駅の方には乗ってきた電車がそのまま止まっている。


「あれに乗れば帰れる。」


そう言って、彼女は下降を開始する。

そしてすぐに降り立つと、よいしょ、と掛け声をかけて僕を降ろし、自分も地面に降り立つ。


『‥‥‥‥‥ありがとうね。葵さん。きっと僕一人だったら何が起きてたか分からなかったや。』


そう言いながら先に電車に乗り込み、手を差し出してみる。

すると意外なことに、彼女はその手を握って乗車してくれた。


「‥‥‥‥そんなこともないと思う。日本刀の腕前、見事だったから。」


『んー、でも、あれは葵さんが貸してくれたから手に入ったものでしょ?そうじゃなかったらきっとろくでもないことになってたと思うし。』


素直に僕は思ったことを述べる。

すると彼女は少し考えるようなそぶりを見せると、言った。


「そこにおいてはそうかもしれないけど。でも、寿文人が道中冷静だったのもすごいとは思った。

普通なら発狂しててもおかしくない。」


『‥‥‥‥‥‥それについても、さ、ほら‥‥‥‥実は君に見惚れてしまって、他の事なんか考える余裕なんてなかったんだ。だから、別にすごくなんかないよ。』


「‥‥‥‥‥‥寿文人。」


それにしても、彼女が名前を呼んでくれるということは、多少は僕の事を認めてくれたということなのだろうか。名前を呼んでくれるたびにくすぐったくなる。


『ん?』


「あんまりそういうこと言わない方がいいと思う。君が思っているほど、私は綺麗じゃないし。それに、それが事実だとしたら今回君私の事しか見てないってことになるけど。」


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』


「え?」


『あはは‥‥‥‥いや、仰る通りで。』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥物好き」


ボソッと呟く彼女の耳が微かに赤い。

よくよく見てみると先がとがっていて、俗にいうエルフ耳、って奴だろうか。

初めて実物を見たけれど、本当にかわいいと思う。


「楽しかったの?旅。」


そう問われて僕は、こくりと頷く。


『すごく。‥‥‥‥‥正直、一人だったらそんなことも言えなかったと思うけれど。

君と一緒だったからかな、すごく、楽しかった。ありがとう。葵さん。』


そう言って僕は思わず微笑む。

迷惑だと思われるかもしれないけれど。お礼を言いたかったんだ。


「‥‥‥‥‥‥そう、なら、良かった。けれどこれは一時の出会い。今後君と私が出会うことは無いと思うから。というか、会ってしまったらそれはそれでこちらとしても大問題なんだけれど。」


『え。』


「一種の夢みたいなもの。ほら、電車が動き出すよ、しっかりと座るなり掴まるなりして。」


そう言って彼女は、葵さんは、適当なところに腰かける。

‥‥‥‥‥迷惑だろうか。そう思いながらも僕はつい、彼女の隣に腰かける。

彼女は少し驚いた表情をしていたけれど、仕方がないなぁ、とでも言いたげに、足をぶらつかせ始めた。


『でもさ、二度と会えないっていうのは少し寂しいかも。だってせっかく君の名前も教えてくれたんだし。』


「‥‥‥‥‥それはただの気まぐれ。本当に、こんな異形だらけの場所に迷い込む人間がホイホイいてたまるものか。」


溜息と共に彼女がそう言うと、電車が動き出す。


『ねぇ、この電車どこへ向かうの?』


「ちゃんと拠点を壊せたから、気が付いたら自分の家の近くの駅にいると思うよ。」


『‥‥‥‥もしも壊せてなかったら?』


「順当な手順を踏んでいたら帰れたかもしれないけれど、あの女みたいに異形に取りつかれてさぁ大変、なんてことになったかも。それか、あの世まで電車で一直線だったかもね。」


思わず体が震える。


『‥‥‥‥‥はは、じゃあ、君に出会えたことは本当に幸運だったわけだ。』


「そうかもね。」


全く、学校帰りかと思ったら異形だらけの場所に迷い込むなんてどういうアンハッピーかと思ったけれども、彼女に会えたことは本当に心の底から幸運だったと思う。

だって、運命の相手に一目惚れして、一緒に戦って、名前も教えてもらえて。

僕は幸せだなぁ。なんて思いつつ、段々と視界がかすんできた。


『あ、れ‥‥‥‥‥』


「あぁ、朝だね。‥‥‥次出会わないことを期待するよ、寿文人。」


『僕は、あいたいけどな、ぁ‥‥‥‥‥』


その言葉は彼女に届いたのだろうか。

それは分からないけれど、僕の意識はだんだん遠ざかってゆく。


「‥‥‥‥ろくでもないことに巻き込まれても知らないからね。」


その彼女の言葉を最後に、僕の意識は真っ白に染まった。

気が付くと、彼女の言う通り、自分の最寄り駅についていた。


『‥‥‥‥‥葵さん、かぁ。』


彼女の名前を呟くだけで心が躍る。

さて、日常へと帰ろう。

で、また次があったら今度は一緒にまた冒険しよう。

僕は心にそう決めて、電車を降り、家に帰る。



さて、彼がこの先何と出会うのかはお楽しみです。

けれどもまぁ、察しのつく通り寿文人、彼が獅噛卓の主人公です。

ここからはちゃんと恋愛関係の描写もできるぞー(自らの小説のキーワードを見ながら

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