[二部一章]出会い
二部です!
今回からは何話目、という表記は無くすことにしました。ちょっと色々混ざっていくので‥‥‥
それは突然の事だった。
いや、ずっと前から起きていたことだったのかもしれない。
けれど、僕が気付いた時には、自分が乗った電車は“見知らぬ場所”を走っていた。
「ん~、降りる駅間違えた‥‥‥にしては、寝ぼけてた覚えもないしなぁ。」
平々凡々な大学生である僕、寿 文人 (ことぶき あやと)はそう独り言を呟きながら立ち上がり、辺りを見回す。
どうやら自分以外に乗客はいないようだ。
(んー‥‥‥終点まで行っちゃったら車掌さんとかに声かけられるはずだし。)
そう思い、ぽすんと一人で椅子に座りなおす。
多少お行儀は良くないかもしれないけれど、足を広げてリラックスした体勢で座る。
他に乗客もいないしいいや、なんてちょっとした悪戯心からの行為だった。
けれど、やはりおかしい。
携帯で時間を確認すると、何故かとっくの遠に日付を超えた時間を表記している。
連絡を取ろうにも圏外になっていて、誰にも連絡が取れない。
(詰んだなぁ‥‥‥‥)
そう思いながら、足をぶらつかせて電車に揺られる。
いつまでそうしていただろうか。
急に、アナウンスが流れてきた。
「次はきさらぎ駅、きさらぎ駅。お降りのお客様はご準備をお願いいたします。」
『きさらぎ駅?』
聞いたことのない駅名だ。
辺りを見回しても見覚えのある景色はない。というかどこだろうここ。
暫くして電車が止まる。
一体どうしたものかと考えていると、別の車両を繋ぐドアが開いた。
そちらに目を向け、つい、固まってしまった。
綺麗な少女だ。
素直に、そう思った。
空を映したかのような瞳と髪の色。長すぎて地面につきそうなくらいの長さのその髪をくくることもせず、表情も平坦。服装も、身軽そうでお洒落とか苦手そうな、そんな少女。けれど、つい僕は目を奪われてしまった。
『‥‥‥‥‥‥‥きみは、』
「降りるの?降りないの?邪魔なんだけど。」
声を掛けようとして、邪魔だと言われてしまった。
内心少しだけしょんぼりとして、言われた通り素直に降り口を譲る。
少女が降りるのを見届けると、その子はこちらを振り返って言った。
「キミは降りないの?ろくでもないところに行くことになるけれど?」
『え、あ、お、降りる、降りるよ。』
慌てて電車から降りる。つい焦って躓きそうになって耐えた。
『え、っと‥‥‥‥君は、君の名前は何?』
ついつい焦って言葉が出なくなってしまう。
なんでだろうか、この子には格好の悪いところを見せたくないのだけれど。
「‥‥‥‥‥‥どうでもいいでしょ、そんなこと。」
けれど彼女は名前を教えてはくれなかった。
辺りを見渡すと、慣れたようにすたすたと辺りを歩き始める。
『ちょ、ちょっと待って、ここがどこか、君は知っているの?』
「きさらぎ駅。車内放送でもあったでしょ。危ない場所だから一人で来たかったんだけど。なんでこの一般人巻き込まれてるの?」
どうやら彼女は少々(?)毒舌なようだ。
『んんっ、えっと‥‥‥初めまして、僕は寿 文人 (ことぶき あやと)。よろしくね?』
とりあえず咳払いをして、彼女に手を差し出す。
けれど、彼女は手を出してくれる様子は無かった。
「悪いけど。危ない目に遭いたくなかったらあんまりうろちょろしてない方がいいと思う。それに、私は君と仲良しこよしをするつもりも毛頭ない。」
差し出した手の行く先が無くなってしまい、そのままポリポリと頬を掻く。
『ねぇ、でも君はここを知っているんでしょ?なら、ついて行ってもいいかな。』
彼女はしばらく考えこんでから言った。
「邪魔にならなければ。」
よし、と内心でガッツポーズを決めながら、彼女の邪魔にならない位置に立つ。
彼女は少しだけ迷惑そうな顔をしたけれど、それ以上は何も言わずに辺りの散策を始めた。
ふ、と。耳に、なにかガタン、という音が聞こえた。
彼女も気が付いたようで、そちらの方を同時に向く。
“車掌室”。そう書いてあった。
『ねぇ、』
「君に行先を決める権限なんかないから。けれどあの音に気が付いたんなら行くけど。ついてくる気?
?」
こくこくと頷く。もし危ない何かがあったら彼女ではきっと大変だろう。そう思って。
「そう。」
そう言って彼女は車掌室の扉を開けようとした。
カシャン、と、鍵のかかっているらしい音がした。
「ねぇ、鍵がどこかに」
ガッシャン‼‼‼‼‼
鍵を探そう。そう提案しようとしたはずなのだけれど。どうしてだろうか。ド派手な音が響いた。
いったい何をしているのだろうか。そう思い、彼女の方を見ると、扉が少々歪んでいるのが見えた。後ついでに小さなブーツの跡も。
『え?なにしてるの?』
「開けてる。」
『あけ、』
ガッシャン‼‼‼‼‼‼‼
今度はもっと派手な音が響いた。
今度は僕の視界にも彼女が何をしているかが入る。
けれどもまさか、まさか。
“蹴り”で、捻じ曲がるような、そんな扉じゃないだろうに。
彼女はとてもきれいな回し蹴りを扉に叩き込み、そのまま文字通り“蹴飛ばす”。
「開いた。」
違う。そう突っ込みたいけれど突っ込んではいけない気がする。
これは決して正規の開け方ではないはず。
『ん、んー。開いたね?』
けれどもどうあれ、扉が開いたことは事実である。(閉まらないとは思うけど)
彼女の邪魔にならないように仲をのぞき込むと、おびえた様子の女性が目に入った。
女性の手は手錠で拘束されており、片方の錠は車掌室の重たそうな机に繋がっている。
「ど、どなたですか、私は、私は‥‥‥‥」
「知らない、どうでもいい。黙ってて。」
にべもなく黙ってしまう女性。しかし彼女は女性を気にすることなく辺りを探っている。
「あ、あの‥‥‥助けてくださいませんか‥‥‥‥‥‥?」
女性は彼女に声をかけても無駄だと悟ったのか、僕の方へと声をかけてきた。
『んー‥‥‥‥そう言われても、鍵が見つからないとどうしようもないしなぁ。』
「で、では先程の扉のように‥‥‥」
『あれは彼女。僕のやったことじゃない。』
「そう、ですか‥‥‥‥‥」
しおらしくしょんぼりとした様子を見せる女性。
どうにか助けてあげたい気持ちはあるけれど、ここじゃ僕は彼女の跡をついて回るだけのただの大学生だ。
大人しく出入り口で待っていると、奥から彼女が戻ってきた。
「あった。ここでの探し物はお終い。」
彼女はそう言うと、さっさと別の場所へ向かおうとする。
『と、ちょっとだけ待って、この女性、助けてあげられないかな。』
僕がつい引き留めてそう言うと、彼女はため息をついて僕を見上げてくる。
薄い空色の瞳にじっと見つめられて、つい引き込まれそうになった。
「お勧めしないけど。」
『う、うーん、そうだなぁ‥‥‥この部屋を見つけることができたのは、きっとこの女性が物音を立ててくれたからだと思うから、じゃダメかな?』
「‥‥‥‥‥‥どいて。」
何とか理由を見つけて言ってはみたけれど、まさか聞いてもらえると思っていなくて一瞬あっけにとられる。
彼女は出ていこうとしていた場所から心底面倒くさそうに戻ってくると、どこからともなく取り出したナイフ(見たこともない真っ白な刃の綺麗な造形のナイフだ。)を取り出し、手錠へと振り下ろす。
一瞬女性に突き立てようとしたかのように見えたけれどそれはただの見間違いで、彼女は事も無げに手錠の鎖をそのナイフで断ち切った。
『‥‥‥‥(そのナイフが何製かとかがめちゃくちゃ気になるけれど)ありがとう。』
「わ、私も、ありがとうございます!私、名前は————」
「うるさい、どうでもいい、話さないで。邪魔。」
少々女性に同情する。
ふと、彼女は何になら興味があるのか気になったけれど、あえて聞かないことにしてすたすたと歩き始めてしまう彼女を追いかける。
「ま、待ってください、」
慌てて立ち上がり、駆け足で追いかけようとしてくる女性。
彼女はその女性にも全く興味を示さず、辺りを見回すと、改札口の方へと向かう。
「えっと、あなたは‥‥‥?あなたも、ありがとうございます!あの子に、声をかけてくださって!」
『え?僕はただの大学生、寿 文人だよ。お礼を言われることなんかしてないさ。全部彼女がやってくれているから。』
「いえ、本当に感謝しているんです!気が付いたら私、あんな場所に監禁されていて‥‥‥ずっと怖かったんです。‥‥‥‥その、手を繋いだりしても、いいですか?すごく、怖くて。」
そう申し出られて、何故か僕は即答した。
『ごめんね、ちょっとそういうことはできないかな。できるならついてくることだけだよ。』
すると女性は瞳を真ん丸に見開いてから、うつむいた。
「そ、そうですか、‥‥‥‥‥‥‥そう、ですか。」
『あ、遅れちゃう、待って待って、ついて行くから待ってー!』
僕は女性の事に気を取られすぎていて彼女の事を見失いかけていたことに気が付く。
急がないと彼女とはぐれてしまう。
なんでだろうか。それだけはすごく、嫌だった。
だから僕は駆け足で眩しいくらいに綺麗な彼女の後を追って駆け出す。
いつも見てくださる方々、本当にありがとうございます。
一部の後半は少々読みづらいところもあったかとは思いますが、正直プロットなしで書いていたので難しくなってしまいました、すみません‥‥‥‥
けれど今後は結果も過程もすでに相談済みでRP済みですので、すらすらとかけるかなと思います。
さて次回もよろしくお願いいたします!