[六章]私が私である為に。【Ⅵ話】
6話目です。じりじりと物語が動いてます。
『と、言うわけでこの二人が私の戦闘技術の師匠なわけで‥‥‥‥』
一通りの話をするために集められたのは内亜、ネフィー、若狭、ノワール、未希ねぇ。
それぞれがそれぞれの反応を見せていたけれど、なんだか師匠二人の視線が怖い。
現在バーで話をしているのだけれど、何故か、本当に何故か、私は若狭の膝の上にのせられている。
「ふむ、得心がいった。つまりそ奴に叩きこまれた武術があるが故に私との戦闘訓練の際に見知らぬ癖が出ていたのだな。」
「落ちてからもちゃんと覚えてたの偉い。良い子。」
ネフィーが納得している間に、機械から若狭の声が出力される。
そしてなぜか頭を撫でられる。
「んーと、つまりこゆこと?俺が初めて出会った時の葵は既に二人の武術の師匠を得てて、そこそこどころじゃない技術を学んでいたから一人でも生きれこれたってわけ。」
「葵ちゃんすごいすごい!私なんか、カルト的な医療所近くに落ちて実験されかけたのを逆に洗脳し返して乗っ取って現在の拠点にしてるけど、そんなの比にならないくらいすっごい!」
内亜へは頷くけれど未希ねぇのその話は詳しく聞きたいところである。
なんだ、一個集団を自分の物にしたって。
「それに納得しちゃった。私が葵ちゃんを見つけるのに時間がかかった理由も、一番不安定になりやすいはずの葵ちゃんがここまで自我を保てていたのは貴方達のおかげなんだね。ありがとうございます。けれど葵ちゃんのお姉さんは私なので。私の葵ちゃんなので。良ければそこの異形混じりのお兄さん葵ちゃんをわたしのところに。さぁ。遠慮なんかいらないから。ほら。」
何だか未希ねぇが怖い。
そして何故か若狭は私の事を余計に抱きしめる。
何故だ。
「ねーぇ、なぁんで葵の相棒で一番葵のこと知ってるはずの俺が葵から一番遠いわけ、そしてノワールはしれっとした顔でカウンター越しとはいえ一番葵に近い位置にいるわけ。」
「私めはマスターの僕ですから。」
しれっとした顔でグラスを拭き続けるノワール。
『なんでみんなして私の取り合い?が始まってるわけ?わたしそんな大層な影響与えたつもりがないんだけど。』
本気で訳が分からず私は困惑する。
「そりゃ、俺は数百年ぶりだし一番初めに武術を教えたのは俺だし。」
そう言って大切そうに抱きしめてくる若狭。
たしかに一番初めに力の使い方を教えてくれたのは若狭だけれども。
「けれど途中で記憶を消去して俺に任せたんだろう、なら俺のところにも来ると良い。」
ネフィーが若狭に向かって私を差し出すように(なんで?)手を広げるが、若狭は頑固として譲らない。
『ネフィー、なんでそうなるの??』
「えー‥‥‥‥‥そんなこと言ったら、“上”でずっと一緒にいたのは私が一番初めじゃない。ほら葵ちゃんおいでー」
未希ねぇまで参加しないでほしい。
私は心底困惑しつつ、話のとっかかりを探す。
これじゃあ私の取り合いしか始まらない。
「して、マスター。マスターの師匠様方をお呼びした理由をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」
ノワールが空気を読んで私達に問いかける。ノワールの目配せを見て、私はつい
『流石ノワール、助かる‥‥‥‥』
と、こぼしたのだけれど。
「はー、何その自分は分かってますよぉアピール。俺だってわかってたし。」
「なんですか、マスター、虫のさざめきが聞こえてきますね、邪魔なので除去いたしましょうか」
『なんなの?せっかく作ってくれた空気を無駄にする天才なの?』
「ほらみんな!葵ちゃんのお話聞きましょ。ノワールさん、私ジュース飲みたい~」
「かしこまりました、ではこちらを。」
一瞬また険悪になりかけた空気を、未希ねぇが戻してくれた。
私は一呼吸おいてから、話始める。
『まず、結論から言うと、“精神的”に私が未熟だから、“実力”に身体が追い付いていない。だから寿命云々の話になってるんだと思う。これは師匠である二人から見ての意見が欲しかったんだけど、あってる?』
そう。決して体自体の寿命がもう数か月しかないなんてことはありえない。そんなことがあるのであれば、私は未希ねぇの言う“成功作”足り得ないだろうから。
「そうだな。主様もその様に仰って葵を鍛えるようにと言われた。あえて精神面に制限を掛けなかったのは、恐らくあの船から降ろすときに記憶を無くすことを前提としていたからだろう。」
「こちらも同じだ。葵自身の中に渦巻く異形の力が喧嘩しないよう、あえて精神面の成長が来るまで何も言わなかった。それでつらい思いをさせてしまったこともあるだろうが、な。」
二人の同意を得て、私は頷いた。
『二人ともありがとう。で、内亜は悪魔とニャルラトホテプの力の両立ができてる。この理由はきっと、性質が似た者であり混ぜ合わせる者が少ないから、精神面にかかる負担が少ないからだと思う。
内亜、正直自分の寿命とか分かる?』
「んぁ~、そこ聞いちゃう?まぁ、正直ないに等しいよね。多分葵の推測はあってる。」
頬をポリポリかきながら答える内亜。私はそんな内亜に微笑みかけた。
『だと思った。ありがと、内亜。』
「はいはーい。どーもね。‥‥‥‥てーかそろそろ葵の影の中でぬくぬくしてたいんだけど、師匠ズが怖いんだよね。」
あっはっはっはと笑いながらも冷や汗だらだらで話す内亜。
たしかによくよく見てみると、師匠二人の内亜に向ける視線が怖い。
『二人とも、内亜とはライバルで友人で兄妹みたいなものだから気にしないでほしいんだけど。』
そう言うと途端に内亜に向けられていた重圧が消える。
内亜はここぞとばかりに影の中にもぐりこんだ。
「葵ありがとぉ~‥‥‥‥ちょーっと疲れたから寝るねぇ‥‥‥‥」
そう言って気配が消える内亜。無理もない。正直私が内亜の立場にいたら怖くて仕方がない。
『さて、内亜も休んだことだし、話をつづけるね。つまり今の私に足りていないのは精神力。というわけで、‥‥‥‥‥‥自ら地獄の特訓に突っ込むわけなんだけれど。』
段々と心細くなってつい声が小さくなってしまう。
「成程な。であれば俺は全力で手を貸そう。そちらは?」
「無論、久しぶりに会った葵の実力も知りたいところだしな。」
「じゃあ、今の葵ちゃんの勢力とお師匠一人ずつとで真剣勝負とかどう?」
未希ねぇが、特大の爆弾を落とした。
「「ほう。」」
「マスター、これは」
『うん、言わなくていい。私が考えてた中で最も最悪な事態が起こりそうだ。』
さて、どうやって師匠二人を出し抜こう。
(ま、こんな考えになったのは内亜の影響が大きい証拠だね)
と内心思ったのは、師匠たちの戦闘意欲を煽るだけなので心の中に仕舞っておく。
さて。何度ノワールと内亜が悲鳴を上げるかなぁ‥‥‥‥‥‥
ちょーっと停滞気味の話ですが、どうしても今後必要になりますのでご容赦ください。
皆様が気になっているであろうあのあたりの問題にもそろそろ触れることができそうです。