[六章]私が私である為に。【Ⅳ話】
4話目です。
ここに来たのは何百年ぶりだろうか。
ネフィーの屋敷からそう遠くない場所。山奥の木の洞の中で私は見つけられたらしい。
「当時は捨て子か何かかとも思ったが一瞬でその存在感から、落ちてきた、あるいはどこかからここに隠されたのであろうと推測していたが。」
ネフィーは私がいたという気の洞のあたりをのぞき込む。
一緒にのぞき込むと、もうそこは新たな木の根が張っていて、洞と呼べるほどの空間は無かった。
「お前は昔、ここにわずかな衣類と見たことのない金銭、わずかな食料と共に見つけられた。
‥‥‥‥‥‥まぁ、その時の金貨などから察するに地球上ではないだろうなとは思ってはいたが‥‥‥‥まさか、お前以外にも落ちてきた姉妹がいたとはな。」
私は黙ってその木の洞のあった場所を見つめる。
なんだか、暖かいような、悲しいような。そんな感じがした。
『ここに、私が‥‥‥』
じっと見つめてみても、なにも思い出せない。落ちてきた衝撃なのか、それとももっとほかのナニカがあったのか。
「そう言えば、お前の姉妹はお前と同じ外見をしているのか?」
そう問われて、私は首を横に振る。
『純白の髪に深紅の瞳。所謂アルビノっていう色に近かったよ。』
「ふむ。色素が薄すぎて血液の色がそのまま瞳に現れるという特殊な色か。‥‥‥‥そうすると、お前も初めはその色であった可能性が高いな。」
未希ねぇの言葉を思い出して、私は頷く。
『うん。なんだったっけな、未希ねぇは、“空に染まったみたい”って言ってた気がする。』
そう言いながら空を見上げる。
そうして、ふと気が付いたことがある。
『ネフィー。私を見つけた時のこと覚えてる?』
「ん?あぁ、大体な。」
そう言われて、わたっしはある疑問を口にする。
『‥‥‥‥‥、この辺り、やたらと空が広がっていたんじゃないかな。』
現在ではもう木の葉が所狭しと生い茂ってはいるが、なんだかほかの場所よりも少しだけ木の葉が少ないように感じて尋ねてみる。
すると、ネフィーは頷いた。
「確かにな。言われてみれば、この山の中でもここは特に空に近く、そして木の葉が少なく。
お前をすぐに見つけることができたのも、ここが他の場所に比べて明るかったからだ。」
『‥‥‥‥ちょっと、飛んでみる。』
「は?」
ぽかんとするネフィーをよそに、私はプリズムの翼を展開してできるだけ高く、高く飛んでみる。
空から見下ろす山は綺麗で、けれどやはり、私がいた場所は比較的空から見やすい場所だった。
『もっと、行けるはず。』
そう呟き、私は更に加速して雲の上を目指す。すると、一瞬何かが見えた気がした。
そして次の瞬間、私の翼は綺麗な音を立てて崩れ落ちた。
『え"。』
一瞬の浮遊感。その直後の落下。
ジェットコースターをイメージしてほしい。ま、高さは比にならないんだけれど。
『やあああああああああああああああああああああああああ?!??!』
思わず悲鳴を上げながら落ちてゆく。
途中で冷静になって再度翼を展開しようにも、焦りが勝って翼の展開ができない。
流石にこの高さから落ちたらシャレにならないのだが、ネフィーに受け止めろというのも無理な話で。
思わず目を瞑ると、急に落下する感覚が止まった。
正しく言うと、“何者かに受け止められた”。
『え‥‥‥‥?』
「もう少しだけ目を閉じてて、葵。」
機械的な音声が聞こえた。その音、いや。声に懐かしさを覚え、私は素直に瞳を閉じた。
十数秒経っただろうか。
「もういいよ」
そう、また機会音声が聞こえて、私は目を開ける。
すると、私を抱きかかえていたのはどこか中華風の服を身に纏った、変わった髪色(具体的には、前髪だけ金髪で後ろ髪は黒。)をした、顔半分が龍のうろこのようなもので覆われた青年だった。
「おい、急に飛び出すから何かと思えば‥‥‥‥‥、だれだ、そいつ」
駆け寄ってきたネフィーが警戒心むき出しで青年を見る。
私はぽかんとした顔をしてその青年の顔を見るしかなかった。
『‥‥‥‥‥‥‥若狭だ。』
「久しぶり、葵。」
機械的な音声がまた聞こえる。
ふと辺りを見回すと、若狭の周りをふよふよと漂っている丸い機械が喋っているようだった。
なぜか涙がこぼれる。
何故涙がこぼれるのかは分からないが、暖かい感覚が胸の中に広がる。
「どうした葵、その男は‥‥‥‥」
『‥‥‥‥思い、出したの』
「む?」
『全部、全部、思い出したの。』
あぁ、何故忘れていたのだろうか。
そう思うほど、記憶が溢れ出てくる。
説明したいのに、嗚咽が止まらなくって説明することができない。
「‥‥‥俺の主の仕業でもあるからな、少し、時間をおいてやってほしい。」
機械からそんな音声が流れ、ネフィーは少々警戒はしてるみたいだったけれど、すぐに納得して静かに頷いて待ってくれた。
『思い出したこと、内亜にも伝えたい。だから、みんなのところに行こう』
暫くしてから私がそう言うと、二人は頷いて同行してくれた。
お互いに何も分からない相手同士、警戒心は解けないだろうに。
私は道すがら、過去の溢れる思い出をずっと繰り返し思い出していた。
さて、急に登場してきたこの人物については次回、回想シーンで正体が明らかになります。
本当は説明させてあげたかったんですが、水紫が思った以上に葵さんの心に響いたみたいなので次回まとめて説明回兼回想回になります。