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[六章]私が私である為に。【Ⅲ話】

おはようございます‥‥‥気圧差に弱くってすみません


「して、葵。あの魔力塊はなんだ。」


あの後、私はネフィーと二人きりで部屋で話をすることになった。


『‥‥‥‥あれは、私の力だけど“私”の力じゃない。』


「ほう?」


ネフィーが興味深そうにこちらを見つめてくる。

居心地が悪くなって、つい視線を逸らしたくなるが、あの現象についてネフィーから意見を聞きたいという気持ちもあったので、渋々だけれど承諾した。


『以前、トゥールスチャっていう神様を召喚しようとしていた教団があって、それを潰そうということになったんだけど。‥‥‥‥‥なんでだろうね、内亜もノワールもいない、そんな孤立無援の状態で正直きっついかなこれ、って、思ってたら、身体が、口が、勝手に動き出したの。』


正直に言う。けれども今でも実感がわかなくて何だか気持ちが悪い。


「それは、機械で言う自己防衛本能、というものに似たようなものか。」


『機械で例えたくはないけれど‥‥‥‥そうだね、一番分かりやすくて簡潔的かも。

でもなんか、自分が自分じゃなくなるみたいですごく怖かった。』


正直な感想を述べると、頭を撫でられる。

ネフィーは時折私の頭を撫でて安心させようとしてくる。なんでだろうか。‥‥‥まぁ、嫌ではないけど。


「それは怖いだろう。何故なら自分が自分でなくなるというのは、自分がこれから何をしてしまうか、もしかしたら身近な人間に危害を加えないか心配になるだろうよ。‥‥‥‥現在は落ち着いているのか?」


『あれ以来‥‥‥‥そうだね、起きてないよ。けれど、練習場の時にはあの感覚でプリズム片を撃ってみたらあの様。正直力の制御なんかまったくできてない。』


あの大きくえぐれた壁を思い出して私は身震いする。

あれがもし、味方に間違ってでもあたってしまったらと思うと恐怖心が止まない。

いままで、こんなこと気にしたことは無かったはずなのに。


「‥‥‥‥‥葵。以前聞いたトロッコ問題、というやつを覚えているか。」


『えーと、貧乏人五人か権力者一人、どちらかを殺さないといけない選択のお話だよね、そのトロッコの行先は自分が決めるしかないってやつ』


細部は違ったかもしれないが、大まかに言うとこんなところだろう。


「あぁ。昔、その質問にお前はなんて答えたか覚えているか。」


『‥‥‥‥たしか、“関与しない”。見ない、知らない。どちらかが死ぬなんて、それは当人たちの運命なんだからそれを選択する権利はない。』


そんなことを答えた気がする。

よくもまぁ、他人と関わらないようにした人間の言うことそのままだ。


「‥‥‥‥そうだな。なら、今のお前はどうする。」


『‥‥‥‥トロッコを止める。どんな手を使ってでも。全員助けて、誰も犠牲がいないようにする。』


そう、今なら即答できるけれど。当時の自分はなんて薄情なんだと正直思わざるを得ない。


「あぁ、そうだろうな。そこのところの情緒がしっかりしてきたのはいい事でもあり、戦いにおいてはデメリットでもある。‥‥‥言わなくてもわかるか?」


『守らないといけないものがいる戦はそれだけで、その条件だけで大分不利になる。だって相手だけじゃない、守るべき相手の事も考えた戦闘をしないといけない。』


「正解だ。‥‥‥‥‥本当に、成長したな。」


ふぅ、とため息をつきながら暗褐色の瞳を閉じるネフィー。

ランプの明かりに照らされたその横顔は、とてもきれいだと思う。本当いくつ何だこの人。


『これは、成長と呼んでいいものなの?だって、その護るものを切り捨てる覚悟も必要だってネフィーは前に言ってたじゃん。』


「そうだな。それについてはどう思う。」


私は少しだけ考える。

今大事にしたいみんなを守りながら戦う場合。

でも、みんなを切り捨てないと勝てない相手だった場合。

私は、迷わなかった。


『切り捨てる必要なんてないくらい強くなればいい。心も、身体も。』


だけれども。正直なところ、自分はまだまだ弱い、と思う。

ネフィーにあれだけぼこぼこにされてしまうし、正直契約者である内亜にも勝てるビジョンが見つからない。

ノワールに至ってはもう勝負にすらならないと思う。あれは奇襲と陽動がうまくいっただけで。


「そう、したいんだろう。だから俺を呼んだのだろう。」


私は静かに頷く。

そう。見捨てたくないから。救えるものを増やしたいから強くなりたいと思った。

“あの時の自分”に負けないようになりたいと思った。

だから、自分と向き合う必要があって、強くなる必要があると思った。


「ならば鍛錬に励め。その力は強大だ。正直まともなコントロールができなければ戦場で巻き込まれる人間や仲間が出てくる。それだけ、今のお前は弱い。」


『そう、だね。そうする。』


「それから」


『?』


「自らを知ることも大切だ。‥‥‥‥‥ある程度話は聞いたって顔だな。」


ネフィーが私の顔を見て微笑む。

未希ねぇとの話の事だろうか。

正直、何とも言えない部分が多いと思う。けれど。


『ネフィーは、私が何だか知ってたの?』


「‥‥‥‥、そうだな、知っていたともいえるし、知らなかったとも言える。」


そう言うとネフィーは懐から煙管を取り出して咥えながら言った。


「少し長い昔話になるが、聞くか?」


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥うん。』


煙草、吸うんだ。という気持ちと、話してくれるんだ、という気持ちが混ざり合って私は静かにネフィーの言葉を待つ。


「正直、お前を最初に見た時は妖の類か何かかと思った。子供に化けて出る妖も多いからな。

けれど、違うとすぐに分かった。何故ならお前は、“純真無垢すぎた”のだ。

それを装うことは簡単かもしれない。けれど、お前は強大な力を内包しながら自分の名前以外、すべて落して落ちてきたのだ。

拾ってすぐは正直困った。俺には幼子を成育させるだけの知識も何も持ってはいなかったからな。

山で仙人のように暮らしていただろう?身体もそうなってしまったようで今では不老長寿と言っても過言ではない。

それから、村の方へ預けようとしたが売られたり騙される危険性があるのでやめた。

そして、俺直々に様々なことを教えることになったのだが。葵、ここで一つ話しておこう。

恐らく、の話だが。

お前は、空から落ちてくる途中、引っかかった場所があったはずだ。そしてそこで、“武術”を学んでいる。」


前半の話は正直分かっていたというか知っていた。

けれど、最後の話だけは、初めて聞いたものだった。


『どういうこと?』


「言った通りだ。お前には、戦闘技術の師匠が俺以外に一人、しかも俺と同レベルの存在がいるとな。」


‥‥‥‥‥‥未希ねぇと一緒に落ちたはずなのに、会えなかったのはそこが理由なんだろうか。


『その師匠って?』


「分からん。が、おそらく人間ではないだろうな。」


『そう、なんだ。‥‥‥‥ネフィー、私に姉妹がいるって、知ってた?』


その言葉を聞くと、ネフィウスは目を丸くした。


「なんだそれは。」


『私も最近思い出したんだけど、ね。』


私は未希ねぇのことについて簡潔に述べた。

それを聞いたネフィーは、どうやら戸惑っているようだった。


「全く‥‥‥神が作った失敗作と成功作とな‥‥‥‥」


『うん、その上で、私達には落ちるまでタイムラグがあったらしいの。なんでか分かるかな。』


ネフィーは静かに考えるそぶりを見せた後、こう言った。


「よし、お前が落ちてきた場所まで行ってみるか。」



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