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[六章]私が私である為に。【Ⅰ話】

一話目です。


なんとなく話に聞いたことはあった。


武術や武器の扱い方、少人数戦闘と大人数戦闘の差。貨幣やらの一般知識を与えた師匠“ネフィウス・アクアサイト”なる人物がいるということ。


先日、身体を構成する存在のバランスが崩れて余命数か月と宣告された葵は、策があるとか何とか言ってその人物を呼びつけることにしたのだとか。

で、ノワールがその師匠とやらの自室とバーの入り口を繋げて勝手に呼びつけた。

現状目の前にいる人物がその“ネフィー”とやららしいのだが。


まさか和服の男性だとは思いもしなかった。

いやさ、ほら、名前からして西洋のどこかかと思ったら、日本のとある山奥に住んでいるとか。聞いた時には大層驚いた。驚いたけど今の驚きはそれ以上だ。


「む‥‥‥‥これは、空間術式だな。そして貴様らが俺を呼びつけたと。一体どういう了見だ。」


そのネフィーなる人物は普通に立ってこちらを見ている、ように見える。

けれど、正直隙が一切ない。ノワールと俺で全力を出しても正直勝てるのかすら怪しいほどだ。

その人物が、静かに殺気を込めてこちらを見ている。

あぁ、確かに葵の師匠だと思うと同時に、こんな“化け物みたいな人間”が実在したこと自体が驚きだ。

だって、俺の勘が告げている。


“目の前の男性は、純粋な人間である”と。


いやいやいやいやおかしいでしょと突っ込むのも無理はない。

だって、人間のはずなのだ。

人間のはずで、葵から聞いた年月的にふつう死んでいるはずなのにこの人間は普通に生きているし何なら相当若く見える。行っても30代だろう。

冷汗が背筋を伝う。

空間を繋いだノワールですら緊張しているのが伝わってくる。


(えぇ‥‥‥‥ほんとに葵何者なのこのお師匠様)


「貴様ら、用がないならさっさと————」


俺たちが何も言わないことに焦れたらしいお師匠様が、微かに殺気を強めた瞬間。


「ネフィーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼」


全力ダッシュで葵が階上から降りてきて途中プリズムの足場を展開してそれを蹴ってお師匠なる人物へと突撃した。


『葵、あぶな‥‥‥‥』


殺気を醸し出す人間に向かって突撃するとか何を考えているんだこの契約者はと思ったら、ネフィーと呼ばれた人物は葵を拘束しようとした。しかしそれをするりと抜けると、葵は背後からぎゅむっと抱き着いた。


「‥‥‥‥‥腕を上げたな。先程の術は自前か?」


「うん!ネフィーは相変わらず変わらないね、元気だった?」


瞳を輝かせる葵を撫でるネフィウス。

先の殺気はどこへやら、なんともまぁ葵を溺愛している近所のお兄さんにしか見えなくなった。


「そうだな、元気だ。けれど、説明はしてもらえるだろうな?葵。」


「勿論、説明しないと何も始まらないからね。とはいえ気づいてそうだけど。」


さぁ座って座ってとカウンターへと案内する葵。ネフィウスはこういう場所に来たことがないのか、バー特有の高い椅子に少々苦戦しているようだった。


「何か飲まれますか?マスターの恩人とあってはこの私、全力でおもてなしをさせていただかなくては、ねぇ、内亜。貴方も手伝ってください。」


ノワールは二人を見て微笑みながら声をかける。

しかし、その言葉を聞いてネフィウスなる人物は眉尻を少し下げて困った顔をした。

きょとんとするノワールに、葵が補足説明を入れる。


「ノワール、あのね。私ネフィーがお酒飲んでる姿見たことない。」


「む、ぅ‥‥‥まぁ、そう、そう、だな。」


葵の補足に対して少々苦い顔をするネフィウス。

なんとなぁぁくだけれど事情がつかめて、葵のお師匠に助け舟を出してみることにする。


『ねぇ、ネフィウス‥‥‥だっけか、俺はあくまでニャルラトホテプで葵の契約者、天海 内亜。

キミと離れた後の葵とすぐに出会った相方なんだけどさ、もしかして当時、“お酒飲むの、控えてた

”?』


ぴくりとネフィウスの肩が動く。どうやら図星のようだ。


「え、え、そうなの?ネフィー、なんで?」


きょとんとした顔でネフィウスを見つめる葵。

すると、今度はノワールの方から声がかかる。


「マスター、恐らく当時のマスターの外見年齢的にアルコールを嗜む姿を見せるのは大人げないと思っていたのではないでしょうか?」


「‥‥‥‥そうなの?」


「む、ぅ‥‥‥‥‥まぁ、そんなところだ。最近は別の理由もあるが‥‥‥‥葵、ここはもしかしてお前が経営する酒場のようなものなのか?」


ノワールの言葉を肯定して少し気まずそうにしながら葵へと問いかけるネフィウス。

どうやら当時から相当気を使われていたらしい。

そんな状態の葵ってどんなだったんだろうかと聞きたいところだけれど、正直それは後でもできる。


今はできるだけ早く本題に入りたい。

本題に、入りたいのだが


「うん、バーって言って、洋風の酒屋だよ。お酒もワインとか、洋酒を混ぜて作るカクテルも多いからね。‥‥‥‥‥‥でもそっかぁ、当時我慢させちゃってごめんね‥‥‥」


「い、いや、葵が気にすることではない。その、この給仕らしいのわぁる?はお前の仲間なのか?」


「お名前をお呼びいただき光栄でございます、ネフィウス・アクアサイト様。私はあくまで現在バーテンダー、ここの給仕を務めさせていただいております、ノワールと申します。」


「‥‥‥‥そうか、ノワール、内亜、俺の弟子が迷惑をかけたかもしれぬ。申し訳ない。そして感謝する。弟子である葵がまさかここまで感情豊かに話せるようになるとは思っていなくてな。それから、西洋の事には疎いので、酒についてもまた同じく詳しくない、ノワール、葵がよければ一杯いただけないか。久方ぶりの酒なのでな‥‥‥。」


「かしこまりました、えぇ、そうですね。ではお好みもわかりませぬし、初めは日本式の日本酒からお出しいたしましょう。この中からお選びいただけると幸いなのですが。」


「ん?おぉ!これは幻の酒と呼ばれる一品ではないか。どこで手に入れたのだろうか‥‥‥‥それに、この通り部屋から直通でこちらへ来たものでな、何分金がないのだが‥‥‥‥‥」


「えぇ‥‥‥‥‥そんなの気にしないでいいよ、ほら選んで?私まだお酒飲んだことないから分からないけれど、ネフィーがそんなに目を輝かせるお酒何なら、すごくおいしいものなんでしょう?

おつまみ、とかも必要だって聞いたよ、ノワール、お願い。」


「承りました、マスター。私のできる限りの全力を以てお師匠様のおもてなしをさせていただきますとも。」


「それは非常にありがたい。では注文は任せよう。頼む、ノワール。」


「えぇ、えぇ!このノワール、感激でございます!わが主、我がマスターのお師匠様に私のもてなしを見ていただけるとは!」


「ノワール、私お菓子とジュースがいいな、お願い。」


「はい!勿論ですとも!さぁ、何からおつくりいたしましょうか‥‥‥‥あぁ、ではまず初めにこちらの日本酒からいかがでございましょう、ネフィウス様。」


「あぁ、それはいい。では一杯頼もうか。」


「はい!ではまず日本式のお通し、というもので、簡素な料理から提供させていただきますね。」


「おぉ、これはまた美味な。酒が楽しみになる味わいだな。」


「わぁ‥‥‥‥ネフィーが嬉しそうなの、すごくいいなぁ。ね、ノワール、思う存分おもてなしお願い。私、そう言えば当時ネフィーの笑顔って見たことなかったかも。」


「まぁそれは色々と理由があってだな。しかしまぁ立派に育ったものだ。良い相棒に恵まれたのだな。葵。」


「うん!ノワールとは最近敵から味方になった悪魔の王だけど、ほんとうにつくるりょうりがおいしくてね?」


「うん?悪魔の王?それは西洋で言う異形の主では」


「で、内亜は悪魔とニャルラトホテプっていうクトゥルフ神話の邪神の性質を併せ持つ相棒でね、影で何でもできちゃうすっごい相方なんだ!ネフィーとお別れした直後に出会ったんだよ!」


「待て葵邪神と言ったか今邪神と」


「ネフィウス様、日本酒の用意ができました、こちらに。」


「む?うむ、ありがたくいただこう、そして葵—————」


『はいストーーーーーーーーーーーーップ‼‼‼‼‼‼‼‼‼』


「「「??」」」


『本題‼本題忘れてない??大丈夫?ねぇ?』


さっきからずっと声をかける隙を窺っていたのに一切会話が途切れなかった。

なので強制的に会話をストップさせた。


とりあえず、きちんとした話は大事。特に今回の件なんてその最たる例だし。


「‥‥‥‥‥とりあえず一杯飲んでからでいいか」


「いいよ、最近禁酒してるって言ってた理由も知りたいしね!」


というのにまぁほのぼのとした光景だ。


『だーーーーーーー、わぁかった!俺が西洋式のカクテル振舞ってあげる!でもその後にちゃんと話すんだからね‼‼‼‼』


ま、たまにはいいかとも思えてしまい、やけくそになって叫ぶ。


‥‥‥‥‥ねーぇ?こういう時のボケって俺担当なんじゃなかったっけ?

なんて内心思いつつ。



突っ込み担当だってボケたいときもあるさ(適当

さて、更新についてですが、暫く忙しくなるので一日一話が限界になってくると思います。

ですが一話一話は少し長くなる予定ですので、暫くはご容赦ください。

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