幕間➃
遅れましたが幕間その一です!
「さぁて片翼ヴァイス君、準備はいーい?」
「片翼とか言わないでくださいって言いませんでしたっけこのペテン師。さっさと始めましょう。」
「ペテン師とかニャルラトホテプ冥利に尽きるなぁ、いいねぇ、じゃあやってやろう。」
殺気立つこの場で立っている二人の男。片方はもちろん私の相方内亜で、もう片方はシリア―ジョファミリーのボスの側近兼護衛のヴァイス。
何故この二人が殺気を醸し出しながら相対しているかというと、話は少しだけ前にさ前にさかのぼる。
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「ねぇ、そういうことであれば、孤児院の方から卒業するときの仕事先の斡旋は私達に任せてほしいな。」
そう言って私の話を聞きながら瞳を輝かせるシェリー、いや、桜。
『うれしい申し出だけどいいの?本当に。』
私が首をかしげると、桜は嬉しそうに頷いた。
「うん!ヴァイスも、最初は孤児みたいなものだったらしいだったし、シリアージョファミリー自体も何人か孤児を抱えていた時期があるの。だから、良かったらうちの子達の中でそっちに行きたいって子がいたらお願いしていいかな?」
成程、確かに当時ただのはぐれ天使だったヴァイスは言いようによってはストリートチルドレンのようなものか。
内心で納得しながらも、私は桜の言葉に頷く。
『いいよ。クローネもきっと喜ぶ。』
なんというか最近のクローネは、いつでも楽しそうに子供たちと戯れていたり、女の子達や男の子たちの一部と服飾についての話をしている姿を見かける。非常に微笑ましい光景だと思う。
たまに私に向ける視線が非常に痛いのでそれだけはやめてほしいところだけど。
「ほんと?!じゃあお願いしようかな、ヴァイス、お願い。」
しれっと傍に立っているヴァイスに声をかける桜。
「承りました。お嬢。リストアップと聞き取りだけしておけば後は任せても構いませんかね。」
こちらの様子を窺うヴァイスに私は頷く。
ふ、と気になって、ヴァイスの事を見つめてみる。
『‥‥‥‥‥‥‥‥そういえば、ヴァイスの腕前ってどんなものなんだろう。』
その言葉に反応して、桜が無邪気に笑う。
「あはは、すっごく強いよ。でも、うーん、そっちの相方の内亜さんには敵わないんじゃないかな。」
ぴしり、という音が聞こえた気がする。
ヴァイスが固まったのが私の視点からだけわかって同情するとともに好奇心が沸く。
たしかに、魔術を使えば内亜の圧勝だろうけれどそれ以外の戦闘だとどうなるんだろうか。
非常に気にはなるけれど、流石にヴァイスが簡単に応じてくれないだろうと思って私は黙ろうとした。
うん。私は黙ったよ。確かに。
「えぇ?魔術無しでも俺の圧勝に決まってんじゃんね、葵。だぁってヴァイス君なんかが俺に敵うわけ」
「口を閉じろ今すぐにその脳髄をここにぶちまけてやろうか。ニャルラトホテプサマなら簡単に再生するでしょう。ねぇ、葵様。」
勝手に影から出てきて場椅子を煽ったのは内亜である。
断じて私はなにも口に出していない。
「もう、そんなことしちゃだめだし、そもそもどうなんだろう本当に。ねぇ、葵はどう思う?」
三者三様の視線が突き刺さる。
この空気から逃げたかったはずなのに、私はつい口に出してしまった。
『やってみれば分かるんじゃないかな、?』
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と、言うわけで。
現在ヴァイスと内亜の模擬戦闘が行われようとしている。
得物は私のジェミニをナイフ形にして殺傷能力を無くしたものをそれぞれ手に持っている。
内亜の方はぽーい、ぽーいとジェミニを放り投げてはキャッチを繰り返して余裕の表情。
ヴァイスの方は、何度かジェミニを握りなおしながら、軽く振って調節をしているようだった。
『どうしてこうなった。』
勝者には、敗者へ一つ言うことを聞かせることができるなんて言う景品?までついてしまった。
どちらが勝ってもろくなことが起きそうにない。
「うーん、私は楽しいけれど。葵は嫌?」
嫌か、と聞かれるとそうでもないのがまた困りものなのだ。
私だって正直気になる。
でも
「あっはは、ジェミニの扱いなんか俺の方が慣れてるから圧勝に決まってるもんね、這いつくばらせてあげるから感謝しなよ、片翼わんこ。」
「そういう風に大口叩いて無様を晒すんですね。仕方がありません。手伝って差し上げましょう。」
こーんな険悪な空気を作り出してしまったのはこう、なんというか責任を感じないでもない。
「ねぇ、葵、早く始めましょう?大丈夫、怪我しても二人なら問題ないんでしょう?」
そしてこのお嬢様はさすがファミリーのボスというかバトルジャンキーというか。
そして従者も従者というか、帽子を桜に預けて戦闘に臨んでいる。
「んーーーーーーー、わぁかった。それじゃ、撃ち上げたプリズム片の爆発が合図ね。」
そう言って、覚悟を決めてプリズム片を撃ち上げる。
シャーン、ともいうような破裂音がした瞬間、二人の姿が消えた、ように見えた。
キィン、とナイフの擦り合う音が響く。どうやらお互い同時に相手の喉元を狙ったらしい。
仲がいいのか悪いのかわからなくなる。
「へーぇ、やるじゃん」
「そちらこそ」
そう言いつつ、ヴァイスが内亜の体勢を崩そうと足払いを仕掛ける。
内亜はニヤニヤ笑いを浮かべたままそれを回避し、ヴァイスの肩を踏み台にして跳躍し、距離を取ったかと思ったらもう一度今度は低めの姿勢で突っ込んで足払いを仕掛け、避けようとしたヴァイスの逃げ先にジェミニを振りかざす。
それをなんと素手でジェミニの持ち手のあたりを殴って弾き飛ばし、ヴァイスはがら空きになった内亜の脇をめがけてジェミニを振るう。
しかし、その刃は通らない。
「ざぁんねん」
「?!」
体勢を崩したと見せかけて、弾かれることを想定して弾かれたように“体勢を変えて”、もう片方の手でヴァイスの腕を掴んで投げ飛ばす。
何とか咄嗟に受け身を取るヴァイスだが、間髪入れずに内亜が再度けしかけてくる。
「っと、わぉ」
突っ込んだ内亜が、即座に後方へと距離を取る。
よく見ると、ヴァイスは受け身を取りながらジェミニを構え、あのまま内亜が突っ込んでいたらジェミニにそのまま突っ込むように罠を仕掛けていたようだ。
「よく避けましたね。今度はこっちのターンです」
そう言ってヴァイスは地面を蹴って跳躍、ジェミニを振りかぶる。
「そんな跳躍したら逃げ場無いよぉ?」
そう言ってジェミニを構えつつ応戦しようとする内亜。しかし
「そんな無策で突っ込むとでも?」
そう言いながらヴァイスはもう片方の手に隠していた“物”を、内亜に向かって投げつける。
「なぁにそ、れぇぇぇ?!」
ヴァイスが投げたのは砂。受け身を取った際に掴んでいたらしい。
まともに喰らってしまった内亜は一瞬隙を見せ、ヴァイスはその隙を見逃さずに短い呼吸と共にジェミニを振るう、が
避けられた。
しかも、ジェミニを持った手を掴まれた状態で。
「っな、」
転ばされそうになりながら内亜を見上げるヴァイス。
内亜は
『あー、やっぱりね』
“目を瞑ったまま”、その腕をひねり上げてジェミニを落とさせ、ヴァイスを投げ飛ばす。
「っぐ、ぅ」
受け身をとれずに地面に背中から叩きつけられるヴァイス。
『はい、しゅーりょー。』
私がパンパン、と手を打つと、ハッとしたように隣のシェリーがこちらを見る。
「な、な何が起きてたの???見えなかった!」
『んー、残念だけどヴァイスの負け、だけどヴァイスもすごかったってとこかなぁ。』
「へぇ‥‥‥‥‼後で詳しく解説してくれる?」
『勿論。』
悔しそうにするヴァイスに手を貸して起き上がらせつつ、耳元で何かを囁く内亜。
その瞬間にヴァイスの顔が真っ赤に染まった。
『?』
何を言ったのかは分からない。けれど、おかしなことではなさそうなので放っておくことにする。
『ふたりともー、とりあえず集合ー。』
そう言って二人を集め、勝負の詳細を桜に言って聞かせる。
「へぇ‥‥‥‥!じゃあ、姑息な手段は内亜さんの方が上なんだね‼‼」
「『ッふふ、っ‼』」
桜の純粋な感想に、つい私とヴァイスの笑い声が混ざってしまう。
「え、え、なんで?なんで????」
半涙状態の内亜を見てつい、さらに笑ってしまう。
その後は、四人で先の戦闘について語り合ったりしていたのだが。
まさかまさか、それが自分に返ってくるとは思いもしていなかった。
今日中にもう数話投稿しますね