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[二章]口裂け女の都市伝説【中編】

中編です。



『はぁ‥‥‥‥』


自室のベットにダイブしながら、今日の事を思い出す。


(ダメダメ、悪いほうに考えちゃってほんとになっちゃったらどうするのさ‥‥‥‥‥)


そう思いながら、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて自分のベッドの上をゴロゴロと転がる。

二人が夜遊びというには危険なちょっとした冒険(?)へ向かうのを止められなかったという罪悪感、後悔、そしてちょっとの‥‥‥‥そう、ちょっとした嫉妬心。


(私だって、気にならないわけじゃなかったけど。でも仕方ないじゃない、危ないことには首を突っ込まないのが一番だよって。)


そう、すこしだけ。ほんのちょびっとだけ、私も行きたかったななんて、そんなことを思ってしまったのだ。

普段の私ならありえないの言葉で一蹴するかもしれない。けれど、私も一応一介の女子高校生というやつだ。それなりの好奇心くらい持ち合わせているし、漫画や小説の中の人物に憧れだって抱いたりする。


『私も行けばよかったかな‥‥‥』


ぽつり、言葉がこぼれる。

その言葉を聞いてか聞かずか、階下からお母さんの声がかかる。


「瑞希ー!!悪いけど、お醤油足りなくなっちゃったから、コンビニで買ってきてくれない?

お母さん、手が離せなくって!!」


これはどういった運命の悪戯か。

本当に外に出なければならなくなってしまった。

徒歩二分の距離にあるコンビニにわざわざ行かせるようだから、本当に手が離せないのだろう。

危ないからいやだなんて言えるような距離ではない。


(今何時だろう)


不安になりつつ、時計を見る。

19:55という何とも微妙な時間を見て、内心ため息をつきつつ、上着を羽織って急いで玄関まで出る。


(きっと、まだ大丈夫‥‥‥だよね?)


そわそわする理由は、きっと恐怖心だけじゃなくて一抹の好奇心もあったのであろうことは、否定しきれない。

実際、靴を履くまでの歩幅はいつもより少しだけ浮かれているかのように軽やかだった。


外に出て、周囲を見回してみる。

特に変わった様子もない。


(そりゃ、当たり前か‥‥‥。この時間に帰りの人も多いはずだしね。)


そう思いなおし、コンビニまで念のため速足で駆ける。

心なしか、道行く人の歩調も速い気がした。


(そりゃニュースであんなに話題に上ってたら気になるよね‥‥‥。このご時世テレワークも多いし、外出する人たちは大変だ。)


小走りで考えながら、辺りをまた見回してみる。

いつもと変わらない。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?


変わらない、はずだ。

ただ、何かが“違う”。

そんな確信にも似た感情が沸き上がる。


(なんだ、何が違う‥‥‥?!)


思考を巡らせる。

テストでのラストスパートの時みたいに必死になって、あまりいいとは言えない自分の頭脳を働かせる。


『ここ、どこ‥‥‥‥‥、』


気づく。


あまりにも分かりやすすぎて、何故分からなかったのかが分からないといったくらいに。

私は家を出て真っすぐ(考え事をしながら)小走りでコンビニに向かったはずだ。

目を瞑って走っても、たどり着けるような道のりのはずだ。

それをどこか間違えた感覚もない。

ただ、現在目の周りに広がる街並みはそれと違う。

なんだか、“一歩隣の世界に迷い込んだ”みたいだと、ふと考えが浮かんだ。


そして、私の心は一瞬にして恐怖に支配される。


(口裂け女の都市伝説‥‥‥‥!!)


本能的に理解する。

“ここ”がその都市伝説の舞台だと。


(逃げないと、帰らないと‥‥‥!)


ただ、走り出そうとして一瞬、思いとどまる。

闇雲に走りまわるほうが、迷って取り返しのつかないことになるんじゃないか。

この、“いつもと似て違う街”を下手に動き回るほうがリスクが高いんじゃないか、と。


よく辺りを見回してみる。

“人がいない”。

嫌な汗が頬を伝う。

誰か、誰かいないのか。

この恐怖を共有できる誰か理解者が欲しかった。

けれど、恐怖に支配されてか声が出ない。


(誰か、誰か‥‥‥‥‥っ)


自然と体が震える。


その肩を、背後から唐突にとんとん、と叩かれた。


『っきゃあああああああああああああ!!!!!!!!!』


思わず叫ぶ。


そしてバッと後ろを振り返ると、そこには


(き、れー‥‥‥‥‥‥)


私の意識は恐怖を忘れてそこに立っていた青年に吸い寄せられた。

塗りつぶしたような黒い服で、黒のはずの髪と瞳の色は光の反射によって何色にでも見えそうだった。

肌は透き通るような白で、本当に綺麗としか表現する言葉が見つからないくらい位、美しい青年だ。

そんな青年が、ニコニコともニヤニヤともとれる笑顔でこちらを見ていた。


『え、あ、えっと‥‥‥‥はじめまして‥‥‥?』


もっと他に言うことがあるでしょうが!と自分を叱責したくなったが、それでもこの青年の前では思考が停止するのも無理はないと思いたい。

だって、綺麗すぎて天使かなにかと勘違いしてしまいそうだ。

微笑む青年に向かってバカみたいな挨拶をしてみたが、はたして私なんかに言葉が返って来るものかと考え始めた頃


「初めまして、お嬢さん。ごめんね?急に手をかけたから驚かせちゃったでしょ。」


天使、いや、青年が喋った。

私は必死になって首を横に振る。


『い、いえ、大丈夫です。本当に大丈夫です。むしろ叫んじゃって失礼なことしちゃってほんとに』


もっと何か言うことは無いのか。

なんて言えばいいのか分からず一人慌てていると、青年が微笑みながら手を差し出す。


『へ?』


間抜けな声が出た。

何故手を出されたのかが理解できず、曖昧な笑みを返すと、スッと青年がかがんだ。


「ほら、怪我はしてない?」


そう声をかけられて、ようやく自分が驚きのあまり腰を抜かしてしりもちをついていたことに気付く。

恥ずかしすぎて顔から火が出そうだし死にたくなってきた。

おずおずと差し伸べられた手(陶器のように滑らかで、少し冷たかった。)を取り力を借りて立ち上がる。


『怪我、はないみたいです。』


強いて言えば、手の平が少しすりむいている位かもしれないが、これくらい怪我のうちに入らない。


「そう?ならよかった。女の子に怪我があったら大変だ。歩けるかい?」


手を取ったまま歯の浮くようなセリフと共に微笑んで先を歩き始める青年。

こんなセリフが似合う存在なんか現実にいたのかと驚くが、この青年の美しさでは文句の一つも言いようがない。

頬に熱が集まるのを感じ、青年にそれがバレていないか心配になりつつ後をついていく。


そしてふっと気が付いた。


『あっ』


思わず声に出てしまい、不思議そうに青年がこちらを振り返る。

眩しくて直視できない顔から目を背けながら、忘れていた要件を伝える。


『あの、私、お使いの途中で、でも迷子になっちゃって、その、』


「うん、道案内しようか?」


たどたどしかった言葉をくみ取り、青年は小首をかしげて提言してくれた。

是非もない申し出に驚きつつ頷くと、青年はクスクス笑って道の向こうを見る。笑顔も綺麗だ。


「大丈夫だよ。心配しないで。」


私の慌てぶりの中身を知ってか知らず気遣うような言葉をかける青年に、なんだか少し安心感を覚えながら、青年の後をついていく。


夢見心地で10分ほど歩いただろうか。

いつの間にか、いつもの人通りが戻ってきており、私達は私の家の前に立っていた。


『何でここが‥‥‥‥』


何が起こったのか分からないでいると、青年はその唇に人差し指を立てて当てる。


「さぁ、いい子は帰る時間だ。夢みたいな場所は夢みたいだからこそいいんだよ。飲み込まれないように気を付けて。」


そう言って青年は私の手をほどき、そのまま夕闇の中へと消えていった。


(あ、名前聞き忘れた‥‥‥‥‥)


そう思いつつ、ひんやりとした感触の残る手の方を見ると、いつの間にかそこにはいつものコンビニの袋がぶら下がっており、中には醤油が入っていた。


(あれ、)


不思議に思い、何があったのかもう一度思い出そうとする。


“あぁそうだ、私は口裂け女を怖がりながらコンビニでお使いを終えたんだった。”


何か不思議なことを経験した気がするけれど、どうせコンビニスイーツの中におかしなフレーバーがあったとかそんなところだろう。


(二人、大丈夫だったか明日確認しようっと。)

 



そう心の中で思い、家に帰る。


不思議な空間と青年のことを忘れていることにも気づくことなく、彼女は日常へと帰る。



—————————————



次の日、登校した私は教室の扉を開くと皆の視線が自分に集まるのを感じた。

妙な違和感と胸騒ぎを覚え教室を見渡す。


真っ先に皐月の机を確認するが、まだ来ていないようだ。

ホームルームまで時間がないのにと思いつつ、今度は谷古の机の方へ視線を向ける。



谷古の机の上には花瓶があり、花が一輪生けてあった。



『‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?』


さてさて、後編の投稿もすぐの予定なので()

次回後編、続いて解決編となる人外視点です。

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