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[五章]彼方よりの来訪者【Ⅹ話】

体調不良で不定期になってしまいすみません‥‥‥何分ちょっとした事情がありまして、ここしばらくは忙しいかと‥‥‥‥

恐らく4月ころには安定してくるかなと。


零れ出た疑問に答える者はいない。


『‥‥‥‥‥』


もう一度周囲を見渡す。

中央の祭壇に祀られて殺されかけていた少年の生存確認をするために、ふらふらとした足取りで祭壇へと向かう。


少年は、安らかな寝息を立てていた。


その寝息を聞き、心の底から安堵する。

先程のおかしな自分の身体‥‥‥と言って良いのだろうか、言うことの聞かない身体が、勝手に少年の命を奪っていないかが怖かった。

けれど、その様子は無い。


私は無言でジェミニを使って少年を拘束する紐を斬り裂き、少年を解放する。


先程少年に言われた言葉を思い出す。


“天使様”。


私はそんな存在じゃないよ。そう私は少年に言った。けれども、実際どうなのかは分からない。

何も、覚えていないのだから。

けれど、そのことばかりを気にしてはいられない。


私達はきちんと作戦を立ててこの拠点にもぐりこんだのだから。

自身の冷静さを取り戻すためにも、私は作戦を思い返す。



————————————



「悪だくみをしよう、葵。」


そう言った内亜は、私が手渡されたローブを羽織っている間に、倒れた少女をノワールに預けると、少女そっくりの姿に変身した。


「999とか神話では言われているけれど大体美少年美少女なら変身できるニャルラトホテプってべんりだよねぇ。」


そう言って内亜は両手を差し出してきた。


「ほらほら。縛ってよ葵。」


私が思わず内亜から距離を取ると、内亜は一瞬固まってから焦った声で言った。


「ま、待って待ってそういうし趣味じゃないよ、ほら、魔力封じなんか施されて権限の器になって過去の子を運ぶ先にこいつらの拠点があるはずだから探ろうってこと‼‼決して縛られて愉しむマゾなんかじゃないからねぇ!?」


一瞬、疑惑の視線を投げかけてしまったが、見た限りの泣きべそ顔ではきっとそういう性癖でないのは嘘ではないはず。ていうかそうだったらちょっと、いや、だいぶ嫌だ。(泣き顔は嘘だろうけど。)そう思って、私は周囲の倒れた人物たちに記憶改ざんの術式を施して、連中に紛れて拠点までついて行ったのだった。

地下に向かった時は思わずその場で全員はっ倒してやろうかと思ったけれどちゃんと我慢した。

そうして、リーダーらしき人物が儀式をしようとした瞬間に止めに入った、というのが今までのいきさつなわけだけれど。


いくつか想定外の事案が起こったのも事実だった。

まず、信者の数があまりにも多かった。

内亜はアーティファクトで力を封じられても悪魔かニャルラトホテプどちらかの力を使って抜け出せるから、それまで場を持たせる、というのが本来の予定で、途中から内亜は変装を解いて制圧に加勢する予定だったはずだった。

けれども、私の不調(?)により制圧はもう済んでしまった。

私は、黙って中央の人物の懐を探ると、地下室の物らしい鍵を盗って、地下へと向かう。

少年は念のため抱えていくことにした。地下室内に親がいるかもしれなかったから。

地下への階段を下りながら、先の戦闘の事を考える。

“私であって、あれは私ではない”そう感じた。

けれど、なんだろうか、この感情は。私はしばらく考える。


あぁ、そうか。


『“私”が怖いんだ、わたし。』


暫く考えた末にたどり着いた答えに納得する。

そして、少しだけ考える。

考えてから、私は地下室への扉を開ける前に少年を壁にもたれかからせ、影のマントを羽織り、その上から教団のマントを被る。

こうすることで、きっと地下に閉じ込められた人間達からは“見知らぬ信者”としか認識されないだろう、そう考えて。

そして地下室の扉を開くと、先程聞いた閉じ込められた人々の怨嗟の声が聞こえる。

私はそれを黙って聞き流しながら、彼らを閉じ込める錠を解除していった。

罠だと思われたのか、罵倒や疑惑の声を投げかけられる。

けれど私はそれを否定も肯定もせず、黙ったまま彼らを解放した。

中には私に飛びかかろうとする者もいたけれど、それだけは避けておいた。

全ての錠を解除すると、解放された人々の疑惑の目が一斉に私に向けられる。

きっと、罠かどうかを見極めようとしているのだろう。

影のマントのおかげで顔は分からないはずだけれど、ローブを被っているということは教団の一因に見られていてもおかしくない。というか、そのつもりで被ったのだから。


『‥‥‥‥‥私を信じろとは言わない。けれど、私はもう、これ以上皆に共感できなくなった。だから、これはたまたまだ。たまたま、“鍵の管理者が鍵をすり取られ、とらわれた人物たちは解放された。”それだけだ。私はこれ以上貴方方に何もする気はない。さっさと自らの居所に戻るといい。』


声音を変える術式を使い、年齢や性別の分からないような声で私は彼らに告げる。

彼らは少々混乱したようにひそひそと話を始めた。その頃合を見計らって、私は信者用のローブをその辺に脱ぎ捨てる。

これで、私は風景の一部と同化したように、彼らに声を掛けられることもないだろう。

彼らがこれからどうするのかは分からない。

念のためタペストリーなどは燃やして教団があった証拠自体は隠滅してきたので、元々身元のない人間達を集めていたらしい教団一つがつぶれたことが気付かれることは無いだろう。

だから、もしかしたらこの建物を彼らは利用して新たに居住区とするかもしれないし、ここなんか見なかったことにして自らの居場所へ帰ってゆくかもしれない。


どちらにせよ、今の私にはそれ以上何かをする気持ちの余裕はなかった。

変装した内亜の居場所は感覚でなんとなく分かったので、さっさと迎えに行くことにした。


『終わったよ。』


「あるぇ、思ってたより数倍速いね??なんか増援でもあったの?」


『‥‥‥‥‥さぁ。』


内亜が変身を解いて問いかけてくるが、私は返事を濁した。


「んー。んーーーーーー。わぁかった、んじゃそういうことにしておこう。」


内亜は何事もなかったかのようにけろりとした顔で言うと、私の影の中に溶け込んだ。


「帰ろ、葵。」


心の中だけですっとぼけさせてくれた内亜に感謝する。

そして、バーの方へ戻るとノワールが扉の前で待ち構えていた。(一体どこの扉から帰るのかどうやって想定したのか問いただしたい。)


内心驚愕しつつも、平静を装って私はノワールに声をかける。


『何、送った子が目を覚ましでもした?』


「いいえマスター。そうであれば私はお迎えにまでは上がらなかったのですが。」


一瞬考えた後、ノワールは意外な言葉を口にした。


「お客様がいらっしゃいました。マスター。」



さて、ノワールの言う客人、どういった人物なのか。


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