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[五章]彼方よりの来訪者【Ⅸ話】

九話目です。今回の章はまだもう少し続きます。


少年はぎゅっと瞳を閉じて、痛みが来るのを待った。


けれど、おかしい。


10秒経っても、20秒経っても。痛みは、訪れない。


「‥‥‥‥、?」


そうっと、静かに。ゆっくりと、閉じた瞳を開く。


そこには、先程までいたローブの人物はいなかった。


綺麗なお空の色と同じ髪の色と、瞳の色の女の子が顔をのぞき込んでいた。


大人に連れて行ってもらって、一度だけ“教会”に連れて行ってもらったことがある。


そこは、こことは全く違っていて、白くてきれいで、綺麗で大きくて白い人の人形のようなものが建っていた。


そう、それを大人は何と言っていたか。


確か‥‥‥


「てんしさま‥‥‥?」


つい、少年がそう口に出すと、てんしさまはぱちくりと瞳を瞬かせた。


「あの、」


少年がてんしさまに声を掛けようとした、次の瞬間。



悲鳴が上がった。

怨嗟の声が上がった。

憎しみの言葉が飛び交った。

罵詈雑言が飛び交った。


神聖なる儀式の邪魔をするものが現れたと


邪悪なるものが現れたと


神を愚弄するものが現れたと。


「異端者だ!殺せ‼‼‼‼」


誰かがそう叫んだ。少年に意味は分からなかったけれど、とても怖い声だった。


周りを囲っていたローブの人物たちが次々に銀色のナイフを取り出し、どこからともなく現れ、てんしさまに向かってきた。


少年は、叫んだ。


「てんしさま!」


きっと、危ないと思った。

あの大人みたいになってしまうと思った。

なのに。



『もう、見過ごしたりなんかしないって、助けるって、そう決めたから。』



てんしさまはそう言うと、少年を振り返って微笑んだ。暖かな微笑みだった。


『大丈夫。もう、怖くないよ。』


なにか、言いたかった。

けれど、少年の意識はもう限界で。

てんしさまのその言葉に安心して、気を失ってしまった。




————————————




『“天使様”、ねぇ。‥‥‥‥ごめんね、私はそんなものじゃないんだ。』


“一度見捨ててしまった少年”が気を失ったのを確認すると、私はジェミニをナイフの形に変えて構えた。


『でもまぁ、悪くない響きだった、かな?』


口元に笑みを浮かべ、不敵に笑って見せる。

数は、いっぱい。守らないといけない子が、一人。

それに、“地下の人達”も救わないといけない。


けれど、やろうと決めたなら、やろう。


『内亜、情報ミスってたら承知しないからね‥‥‥‥‥』


現在、内亜は“別件”でここにいない。

つまりは完全なる孤立無援。

けれどやるしかない。

よし、と覚悟を決めた瞬間、異常が現れた。



『攻撃術式、用意。』


言葉が勝手に零れた。



(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?)



自らの周囲にいくつもの鋭利なプリズム片が現れる


『標的、多数。』


何故だろう。現れた数多のプリズム片。


“それら全て、一つ一つをコントロールできる”


そんな自信が、あった。


『目標、補足。』


けれど、零れるこの言葉はどこから来るものなのか、分からない。


『術式用意、完了。』


けれど、何をしているかは理解している。

知らないはずなのに、身体が、言葉が、全てが、勝手に動く。


『術式展開、攻撃を、開始する。』


次の瞬間、展開されたプリズム片一つ一つが勝手に信者達に向けて真っすぐに発射される。

それと同時に、身体が勝手に動く。


プリズム片の届かない位置にいる信者達の場所が何故か分かる。


私の身体は、勝手にその信者達に向かって跳躍し、ジェミニで喉元を斬り裂く。


無駄な動きなど一切ない。


けれど、何かがおかしい。


“私の意図した動きと違う”


そう、分かるのに。体が勝手に動いて、機械のように信者達を斬り裂く。


いや、これでは殺戮だ。


『攻撃術式再展開、目標を補足。』


けれど、身体は思い描いていたよりずっと、遥かに合理的に動く。


(なに、これ、なにこれ、なんなの、これ‼)


頭も、身体も、冷静に、機械的に動き、処理する。


(いやだ、なんだかこれ、“すごく嫌だ”‼‼)


けれど心だけがそれらを拒否する。自分のその力に、行動に、思考に、恐怖する。


信者たちの数は、200を超えていたと思う。


普段の私が全力で動き回って、全員殺すのに1時間はかかるはずだった。


なのに


なのに、終わったのは


たったの、10分程度だった。


『全目標の沈黙を確認、術式を解体。』


また、言葉が勝手に紡がれる。

そして、身体が自由に動くようになる。


辺りを見渡す。


祭壇の上で気絶している少年と、私。


それ以外の生存者は、確認できなかった。

全員、死んでいた。


ある者はジェミニで斬り裂かれ


ある者は心臓を的確にプリズム片で射抜かれ


全員の制圧が、私の知らない私の行動で、死んでいた。


『今の、何』


呟く声に答えは無かった。


ずっと、不思議ではあった


けれど、“覚えていない”から、“知らない”ふりをしていた。


内亜はいつも言っていた。


「僕は悪魔でニャルラトホテプだよ」


そう、名乗っていた。


けれど、私は


『天音 葵だよ。』


たった一つ、最初から“覚えていた”名前、それだけを名乗りにしていた。


ずっと、無意識に避けていた。


けれど。


私、“天音 葵”は、何者なんだろうか


わたしは、なんなんだろうか。


そう、疑問に思ってしまった。


『私は、なに、?』


口が勝手に動いて、疑問を零す。


答える声は、無い。



ずっと。すっと逃げていた疑問。



2022.01.14

ちょっと物語の都合上、ネタバレになりうる部分をあらすじから削除させていただきました。

一話目の零章の時点で分かっていることではあるんですが‥‥‥まぁ、念のためというやつです。

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