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[五章]彼方よりの来訪者【Ⅷ話】

八話目です。


アメリカ、マサチューセッツ州アーカム某所。


“偉大なる神”の器を利用しての顕現実験。本日の顕現時間は5分、器への影響は無し。

器は現在監視室にて首輪をつけて監視中。


以上の報告を上げた後、信者達は地下に閉じ込めてある“偉大なる神”への供物たちの様子を確認する為に地下へと向かった。


「なに、ここ、出して、助けてよぉ」「おなか減った、何、あなたたち、」「やだ、帰して、お家へ帰してぇ‥‥‥‥」「何がしたいの、何で閉じ込めるの?!」「あぁ、きっとこれは夢だ、そうだよ、目が覚めたらお家にいるはずだもん。」「お前たちが憎い、帰せ、俺たちを帰せ‼」「ママ、パパ、どこ?ここ怖いよ、さびしいよぅ」「返して、ここから連れて行ったみんなを返して!」「怖い、寒い、嫌だ、悪夢が‥‥‥」「もういい、どうせ殺すなら早くしてくれよ!」


助けを求める声。怨嗟の声。悲しむ声。諦めた者の声。現実逃避する者の声。


スラムから集められたありとあらゆる人間たちが、この地下の牢獄に所狭しと押し込められている。


「あっ、」


一人、その中から少年が選ばれ、無造作に引きずり出されて腕を掴まれ、階上へと連れていかれる。

足をもつれさせて転ぶ少年。しかし、少年を引きずるそのマントの人物はそれを考慮することなく引きずって行く。


「痛い、ねぇ、どこに連れていかれるの、僕、どうなっちゃうの、」


少年の問いにもローブの人物は答えない。


そして階上、大きな扉を開くと、そこには壁に緑色の炎の柱を描いた巨大なタペストりーが飾られ、巨大な魔方陣の描かれた床と、その中央に置かれた深紅に染まった祭壇があった。

祭壇の周りには多くの信者たちがローブを羽織り、顔を隠し、何事かを呟いている。

ずっと、ずっと同じ言葉を呟いている。

少年の耳に届いたその声はどこか不気味で、吐き気を催すような空気を纏った呪詛のようだった。


「いあ、いあ、大いなる神よ。死と腐敗と衰退をもたらす外なる神よ。」


よく聞いてみると、そう言っているように聞こえた。

ふはい?すうたい?いあ?よく分からない単語が連ねられ、少年は戸惑い、恐怖する。

自分はこれからどうなるのだろうか、この人たちはいったい何者なのだろうか。

疑問が次々とわいてくる。

少年の知っている神様は、大人が言っていたもので、あたたかくて、やさしいものだと思っていた。

悪いことさえしなければ、自分たちに嫌なことをしないものだと思っていた。

けれど、この人たちの言う神様は、なんだかとても、こわい。

少年によくご飯をくれる大人の人が言っていた。


「神様は、不公平なほど公平で、だからこそ私達はこんなところでも生きていられる。明日を見ていられる。」


と。けれど、違う、違うのだ。この人たちの言う神様は、その大人が言う神様と違う。

怖い、怖い。けれど、路地裏の人間は誰にも助けてもらえない。

少年は、大人たちにそうも教わっていた。


そして、少年の腕を引っ張るローブの人物も、同じ文言を唱えた後、中央の魔法陣の方へと向かった。

そして、少年が祭壇の上に横たえられる。


「な、なに、ですか。なにをするん、ですか、」


大人たちに教わったつたない言葉で少年はローブの人物に問いかける。

しかし、返答はない。


本能的に、嫌な感じがして、少年は祭壇から降りようとする。

しかし、ローブの人物はそれを許さなかった。

ローブの人物は懐から紐を取り出し、少年を祭壇の上に縛り付ける。


「や、やだ、痛い、痛い!!」


微かな少年の抵抗を、ローブの人物は許さない。


「神への生贄となれることを幸運に思うがいい。」


ローブの人物は少年に初めて語りかけた。


「いけ、にえ?」


けれど、返事はしてくれなかった。


いけにえ。確かにこの人はそう言った。

いけにえとは何だろうか。こうえい、とは何だろうか。

分からない。分からないけれど、怖い。


少年は初めて祈った。


たすけて、と。


祈るという行為は無意味だと大人たちが言っていた。

けれど、少年はもうそれしかできなかった。


たすけて、だれかたすけて!


救いを求める少年の心の叫び。


ローブの人物が、懐から銀色に光る何かを取り出した。


少年はそれに見覚えがあった。


大人たちが一度だけ使っているのを見たことがある。


あれは、すごく痛いものだ。


あれで刺された大人が、そう叫んでいたのを思い出した。


その後、刺された大人は動かなくなったことも思い出した。


冷たく、動かなくなったのを、思い出した。


「あれは、“死”だよ。」


そう教えてくれた大人の言葉を思い出す。


思い出して、少年は恐怖した。


「いやだ、いやだ、それ、いたいの、いやだ、“しぬ”のは、嫌だ!」


少年は叫んだ。

けれどそれに答える声はない。

先程からずっと聞こえる意味の分からない声しか聞こえない。


ローブの人物が、銀色のそれを振り上げた。


きっと、自分をそれで刺すのだろうと少年は分かってしまった。


それでも。それでも嫌だった


「だれか、誰か助けて——————‼‼‼」


ローブの人物が、それを振り下ろすのを見た瞬間、少年はぎゅっと自らの瞳を閉じた。



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