[二章]口裂け女の都市伝説【前編】
二話目です。今回は皆さんご存じ?の都市伝説のお話です。
口裂け女、って、実在するらしいよ。
そう噂が流れるようになったのはいつからだっただろうか。
昔からある口裂け女の都市伝説だが、今回は少しだけ気色が違う。
ここ数日、数週間で、夕方から夜にかけての黄昏時にその『口裂け女』とやらを見たという情報が多発しているのである。
もちろん、あからさまなコラ画像やらウソ情報なども多いが、一部だけ、画像が見れなくなる投稿や、入力した文字が刻々と文字化けしていく様子を動画で撮った投稿なんかも出てきたりする。
そうなると、非日常に飢えている私たち女子高校生的には、そのネタが必然的に餌食となるのは止めようがないのだろう。
授業中でもお構いなしに携帯を触っている生徒が多すぎて、先生の方も半ばあきらめたのか聞いてくれる残りの生徒に向けて授業を続けている。
ただの都市伝説だと思っていたものが身近に現存するのかもしれないという好奇心は、きっと子供でなくても抑えきれるものではないのだろう。
先生だって、授業が終わるとすぐに近くの生徒に話を振り始めた。
とりあえず怒られることはなさそうだと判断して、自分もスマホのニュースサイトを確認する。
その一、その口裂け女は黄昏時にこの町のどこかに出現するとか。
その二、その口裂け女はマスクをせず、口元を隠さないのだとか。
その三、被害者がすでに何人か出ているらしいとか。
『?なにこれ』
思わず声が出る。
その被害者とみられる事件についてニュースになっているのを発見してリンクをタップすると、都市伝説とは異なる情報が出てきた。
たしか、既存の口裂け女は、マスクの下を確認したものの口を自分と同じように裂いてしまうという方法で犠牲者を出す、というのが通説のはずだが。
この記事サイトだけでなく、いくつか外のサイトも確認したが、結果は同じだった。
殺害方法が違う。
いや、殺害というかこれは‥‥‥‥‥
「何々、瑞希も気になるわけ?」
思わずスマホを落としかけた。
仲の良いグループのメンバーの一人、皐月がひょっこり私のスマホの画面をのぞき込んでいる。
私の視線もお構いなしといった様子で、皐月は記事の内容を声に出して読み上げる。
「何々、連続猟奇殺人事件、都市伝説との紐付けの噂も‥‥‥‥‥被害者は大きな口で喰われたかのように全身がバラバラに‥‥‥‥ってこれただのスプラッターじゃん。何でこんなのが口裂け女と紐づけられているのさ‥‥‥口裂け女なんかがこんな大人とかをバラバラにする理由なんかないじゃん。」
勝手に読み上げておいて勝手な感想を言う。
ただ、私も同感で、なぜ今回の殺人事件が都市伝説と紐付けされているのかを検索してみる。
すると、真っ先に該当のものらしい記事が出てきた。
“現代の口裂け女は大男?!猟奇的な死体の原因とは!!”
ちょっと怪しげだが、そもそも都市伝説なんて全部怪しいもんだと思い読み進める。
どうやら、目撃者を名乗る情報提供者が、口裂け女(?)とみられる6mの巨人に食いちぎられる被害者を見たと証言しているそうなのだ。
『6m、ってもう人間じゃないじゃん、何この記事、嘘ばっかり。』
私はそのままスマホを閉じようとしたが、皐月に横からスマホをかすめ取られる。
『あ、ちょっと。』
皐月に向かって手を伸ばすと、ずいと先程のページを突き付けられる。
もう見たし、どうせ大した話じゃないでしょと手を伸ばすと、
「瑞希、この部分見た?」
と、真面目な顔をして皐月が言う。
怪訝に思いながらも、皐月の示すその部分を見て思わず手をひっこめた。
“被害者は証言者の妻、DNA鑑定で遺体の身元と一致。”
つまり、旦那さんは6mもある巨人に食べられる奥さんを見たといっているのである。
流石に冗談で記者に語るような内容ではないだろう。
「ね、本物っぽくない??」
興奮しながら言う皐月に、私は少し考えこむ。
正直めちゃくちゃ気になる。気になるが、人間が食べられた街の中をむやみに歩き回りたくはないし、警察や探偵になりたいわけでもない。
だからこの件についてこれ以上調べる気にはならない。
『皐月、確かに本物だとして、調べたいなんてそれこそ口が裂けても言うもんじゃないよ。この件がほんとの本当だとしても、そもそもこの時間なんか不良が多いから危ないって先生も言ってたじゃん。』
そう皐月を窘めるが、皐月の瞳が輝いている。これはダメなパターンだとなんとなく察しつつも、忠告だけはしておく。
『皐月、調べるんなら先輩とか谷古達とか、できれば大人と調べに行くんだよ?』
谷古というのは、クラスのグループの中の一人である。
三人でよくつるんでるから、私が行く気がないことを悟ったらこの子は谷古に声をかけるはずだとふんでの発言だったのだが‥‥‥‥‥
「谷古ーーーーーー!今日の夜暇ー?!」
私の言葉を聞いてか聞かずか、既に実行に移していたようだった。
当の谷古は、先程の皐月と同じように目を輝かせている。
(あー、あれは無理だなぁ)
その様子を確認して嘆息する。
ただカラオケに行くとかそういう次元じゃないのだ。
ひとの命がかかわっているかもしれないのに、なんで皐月はあんな楽し気に話題にあげたり、首を突っ込もうとするのだろうか。
少なくとも私は無理だ。
少しだけ、想像してみる。
6m越えの巨人と対面する自分。
うん、死ぬ。確実に死ぬ。
そもそもなんだ口裂け女って。巨人(そもそも人間じゃなさそうだし)だしばりばり人間食べるし、もうただの化け物じゃないか。いや、口裂け女も化け物だった。
やっぱり、皐月にはやめるように説得しておこうと思い、帰りのホームルームの前に二人に声をかける。
『二人とも、気になるのは分かるけどやめたほうがいいって、絶対。』
「えー、瑞希の怖がり。ほら、人間の好奇心は止められないって誰か偉い人が言ってた気がするし。」
『そんな次元じゃないんだよ?自分がどうなっちゃうのかわかんないし、もしものことがあったらどうすんの?!私は絶対賛成なんかしないんだからね。』
確かに人間はその好奇心によって文明を発達させてきたが、その好奇心は猫をも殺すこともまた忘れちゃいけないと思う。
そう思って何を言おうか考えていると、ちょいちょいっと制服の裾をつままれる。
「瑞希ちゃん、ほら、危ないのは分かってるから、私がちゃんと見てるから少しだけ、皐月ちゃんの気が済むようにさせてあげて?」
困ったように眉を下げながら言う谷古を見て、諦めた。
出会う前提で考えてしまっていたが、この町は案外広い。
そんな中でまだ警察も捕まえれていない化け物に遭遇することもないだろう。
というか、遭遇したら雷に当たるような奇跡的な不運だろう。
そう考えたら、少しだけ安心してきたような気がして、二人に言う。
『もう、今日の夜だけだよ?』
やったやったと騒ぐこの二人の友人を見て、私はあきれたように笑う。
ホームルームの中で、夜出歩かないようにとの注意がされるが、きっと二人には届いていないのだろうと、私はどこかふわふわした気分で先生の話を聞いていた。
「行ってくるねー。なんかあったらバッチリ写真撮ってく‥‥‥‥‥撮れるんだっけ?」
「無理だった気がするけど、試してみるね。またね、瑞希ちゃん。」
そう言って皐月の家の方向へ向かう二人を見送り、私は深呼吸した。
(二人が無事帰ってこれますように、っと)
そう、心の中だけで願いながら、自分の家までの道のりを歩く。
獅噛による挿絵がPixivの方で掲載されたりする予定なので、良かったらそっちも見てみてくださいね。
今回は三分割予定で、明日までには(今もう日付変わっちゃったので)あげてしまいたいと思っております。