[四章]フォレ・ノワール【Ⅶ話】
6話目です。戦闘描写は難しい。
眉間にかましたジェミニの弾は、何かにはじかれたかのように地に落ちた。
『へぇ、そんなこともできるんだ。』
私は笑いながらノワールへと声をかける。
彼は先程の取り乱しようが嘘のように、静かに佇んでいる。
(つまり、一瞬でも警戒を解けば負け。)
そうしっかりと自分に言い聞かせる。
そして、さらに3発。先程よりも力を込めて弾を撃つ。
また、弾かれる。‥‥‥‥‥空間に関する術の応用だろうか。
「全くの計算外でした。けれど、貴女を使えば問題ないことに変わりはありません。
どうやら少々手荒になってしまうようですが、私の主となってくださいませ。」
そう言いながら近づいてくるノワール。
どこか狂気的なその表情を見て、とりあえず辺りの状況の確認、ノワールの攻撃手段の予測を行う。
多分だけど、ノワールは私より強い。
けれど、小細工でなら負ける気がしない。
空間を利用しての攻撃が予想されるけれど、それ以外の攻撃もあり得ないわけではないし。
『と。』
嫌な気配を感じて咄嗟に後ずさる。
すると、先程まで自分がいた場所に巨大な氷柱が生えた。
『これ、生け捕りにする気ある?』
冷汗が流れる。
今の、避けなかったら確実に死んでいたと思う。
「ふふ、大丈夫ですよ、手加減くらいは致しますから。」
そう言って指を鳴らすノワール。洞窟のような空間がねじ曲がったようになって景色が変わる。
そこは、星の綺麗な丘だった。
だだっ広いその場所に二人。他に障害物は無い。私の小細工を警戒したのだろう。
『そりゃ、どーも』
私は姿勢を低くして、素早くノワールの懐に駆け込み、顎のあたりめがけてジェミニのグリップ部分でぶん殴ろうとする。
ノワールは私の腕を掴むと、そのままひねり上げようとしてきた。
力ではかなわない。
そう判断して私は身体ごと捻って逆にノワールへと組み付きを試みる。
「おや、」
組み付き自体には成功した。そのまま首を締めあげれないものかと試みるが、一瞬寒気がして咄嗟にノワールから距離を取る。
その直後に、宙から“星の欠片”が落ちてきた。
『冗談じゃない、っ』
焦って全力でプリズム片を大きく展開して防御する。
まるで隕石でも降ってきたかのような轟音がし、地面が揺れる。
プリズム片で防げなかった場所は、地面が大きく抉れていた。
背筋に冷たいものが走る。あんなもの、喰らったらチリ一つ残らないだろう。
(噓でしょ、‥‥‥‥煽りすぎた?)
そう思いつつジェミニに魔力を込め、何発か発砲する。
また弾かれる音がする。
「おやおや、このままではじり貧ですよ。貴女も分かっていらっしゃるでしょう。早く投降なさったら如何でしょうか?」
そう言って嗤うノワール。
環境を変えたのは自分に有利な場所で戦いたいからだろうとは思ってはいたけれど、まさかここまでバカみたいな威力で来るとは。
『投降する気無いの分かってて聞くのって性格悪いよね、悪魔だからかなぁ、っ』
そう問いかけつつ、プリズム片とジェミニの弾を今度は織り交ぜて射出してみる。
いくつかはあらぬ方向へ飛んで行ったが、当たったらしいものは空間の壁によってまた弾き飛ばされる。
「体術でも、魔術でも、私めに勝とうとなさっても無理なことは分かっておいででしょう。」
そう言いながら、また隕石を降らせるノワール。
その隙をついてジェミニの形をナイフのように変化させて、ノワールの懐に飛び込んで喉元を掻き切りにかかる。
キィンッという金属音と共に指で簡単に刃が止められる。
手袋にすら傷がつけられない。
でも、ここまでは想定の通りだ。
『でも同じことなんか、しないんだよね!!』
言うまま、魔力を腕とジェミニに強く込める。
ノワールは一瞬表情をゆがめ、力を込めてジェミニを弾こうとする。が、弾かれない。
「小細工なさいましたね」
ノワールが言いながらジェミニの刃を指先だけでなく手の平全体で掴み直す。手袋越しに血がにじむが、気にせずそのままジェミニを大きく上に私ごと振り上げる。
『空間を歪めることが分かってるならその空間ごと斬れって教わったからね!』
宙に身体が放り出されるが問題ない。その勢いのまま宙返りをして足元にプリズムを展開し、大きく跳躍して再度ノワールから距離を取る。
と、見せかけてくるりと宙返りをし、体勢を一気に低くして足の腱を斬り裂きにかかる。
「おや、」
その動きは予想外だったのか、声を漏らしつつ地面を蹴って宙へと避難するノワール。
『やっぱり飛ぶよねー‥‥‥‥‥』
空中から見下ろされるのは性に合わない。というかなんとなく腹が立つ。
けれど、そんな些細なことで逸らしたら負けると意識を持ち直す。
私は再度ジェミニを銃の形へと変化させ、魔力を込めてノワールの肩のあたりを撃ち抜く。
しかし、その弾は回避された。
「やんちゃなお方ですね、けれどそんなに魔力を大量に使っていて大丈夫ですか?そんな使い方じゃあすぐに魔力が枯渇しますよ。」
そう言いつつまた隕石が降ってくる、今度は回避しづらいようにか細かい欠片がたくさん。
足場を造ってその雨から逃れようとした瞬間、私は驚愕に目を見開いた。
足場を造ることができない。
『、ッ!!』
冷静に、冷静に。そう言い聞かせ、直撃しないように最低限の動きで小さな隕石を避ける。
『今のは、』
ニコニコ微笑みながら地面に着陸するノワールを観察して今の現象を解析する。
(私がプリズム片を出す位置を予測して、出したプリズム片を一瞬で異空間にプリズムを送り込んだ、ってわけ)
出現したはずの消えたプリズム。ちょっと動揺したけれど、冷静に考えたらそれしか考えられない。
今まで出会った中でも一番の難敵。‥‥‥‥‥少し、こころが沸き立つ。
予想外の攻撃だったが、身体へ直接の影響が出なかったことを考えると、身体の分裂などに使うのは不可能なのか。
(なーる、ほど。分かった。)
ジェミニで何発かまた弾かれる弾と弾かれない弾の区別を見分けてみる。
確かに微かなものだけれど、違いがある。
重要な器官はやっぱり重点的に守っているようだった。
(へぇ。)
「おや、どうされましたか?」
言われて、口元に笑みが浮かんでいることに気が付く。
ノワールはこちらの様子を窺うように見つめてくる。
先程から降ってくる隕石のおかげか平坦だった地面はいくつも抉れた箇所が見受けられ、体を隠しながら戦うことができるようになっている。
『悪だくみ。魔力だけは有り余ってるからね。』
そう言って私は“先程からずっと準備していた”術式を発動させるために、空へ向けてジェミニの弾を撃ち上げ、術式を起動する。
「何を、」
一気に警戒した表情になるノワール。
しかし、特に周囲に変化は見受けられないようだった。
「脅かしですか。全く、質の悪い‥‥‥‥‥!?!?」
一瞬遅れて、星空が消える。
代わりに空に浮かんでいるのは、最初に私達のいた屋敷だった。
『それじゃあね!』
ノワールが反応するより早く、プリズム片を展開しながら跳躍してその空間の中へと飛び込む。
「‥‥‥‥‥‥私の空間転移を、あの短時間で模倣した、と。」
残されたノワールは知らず口元を緩ませ、少女を追って空間へと飛び込む。
一件、☆五で評価を頂けました‼‼どなたか分からないのですが、この作品を見つけてくださって本当にありがとうございます。それに評価まで。本当に感謝しかありません。
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