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[四章]フォレ・ノワール【Ⅵ話】

6話目です。


私は、洞窟内の数ある氷塊の中から隅にあって、高さのあるものを選び、それに登り、じっと気配を殺して“その時”を待っていた。勿論、内亜のマントを羽織ったまま。


そして、内亜達が転移してきて何かを話し始めるのを見て、ノワールが狼狽する姿を確認する。

ノワールが縋りつき始めたのを見て、気配を殺したまま即座に内亜の影からレジーナを取り出し、音も無く構え、ノワールへと照準を合わせる。


内亜は、レジーナが抜き取られたことに気付いてか辺りを見渡す。

いつもは無駄にお洒落なその服がぼろぼろになっているのを見て、少々怒りが湧いてくる。

その怒りも込めて、一気に魔力で全身をコーティング、レジーナへと魔力を込めてノワールに向かってぶちかます。


轟音がし、爆風で影のマントが飛んで行った。

洞窟内にあるつららが何本か落ちたような音がした。


煙で暫く何も見えなかったが、やがて煙が晴れ、相手の姿が見えるようになる。


そこには、無傷で、無表情でこちらを見るノワールの姿があった。


私レジーナを影にしまい込みながら、勝ち誇った笑みを浮かべてやる。


レジーナが防がれるのは予想済み。

でも、私がしたかったこと(いやがらせ)はこれで達成できた。


「貴様、」


静かに、しかし怒りを込めたノワールの声が聞こえる。


「貴様、我が主との対面を邪魔するか!!」


そう言いながら私の方を向いて怒鳴るノワール。


『さぁ?そんなの知らないし。‥‥‥‥それよりも、良いの?大事な大事な我が主様、なんでしょ?』


くすくすと笑いながら彼の気分を更に逆撫でするように語りかける。


「‥‥‥‥‥!?き、さま、貴様ぁ!!我が主に何をした!!?」


綺麗に整えられていた髪が乱れる程に怒りを隠さずに叫ぶノワール。


『なぁんにも?敢えて言うなら、“知らないお兄さん二人”が来るからって説明してあげたくらいかなぁ?』


もう一度微笑んで高台から飛び降りる。

きっと今の私の笑顔は内亜のいつもの笑顔とそっくりなんじゃないかなぁなんて思う。

これが、愉しい、って感情なのかな。

表情、言動の一つ一つで他者を煽る。いつも見ている、相棒のように。


「そんなわけないだろう!!シュブ=ニグラス様がお目覚めになった今、貴様は消えていなければおかしいはずだ!それに、主様の返答が、御言葉が得られない!一体貴様は主様になにをした!」


『だーかーらー、なぁんにもしてないよ。ねぇ。』


敢えて挑発するように嗤う。嗤う。

だって本当におかしくって仕方がないんだもの。


「主様、お教えください!あの者に何をされたのですか!!?」


軽い足取りでノワールの方へと歩を進め、彼と人間の間に向かう。


人間は、私の姿を確認すると、急いで私の背後に隠れるようにしてノワールを見る。


そして、何かを書いてノワールへと差し出す。


「シュブ=ニグラスとは?」


ノワールはそれを見て目を丸くした。

そして、私を無視して人間の服の裾を掴んで必死に訴えかけた。


「貴女様の事です!主様!その美しき肉体を受肉して私めに御声をお聞かせくださいませ!そして私に啓示を!!」


しかし、帰ってくるのは戸惑うような人間の沈黙ばかり。


『っあははははははは!もう無理、耐えられないっ!』


堪え切れず、私は笑ってしまった。


私に向けて憤怒の表情を向けるノワール。

私は笑いすぎて出てきた涙をぬぐって解説してあげる。


『シュブ=ニグラスは女性だよ?』

「そんなこと分かりきっている!だから美しい肉体を探してここまで下僕を集め、贄を集め、場を整えたのだ!今日がわが主のお目覚めの日になるはずだった!ご降臨されるはずだった!なのに、なのにどうして!貴様、何をした!?!!?」


ノワールは食い気味に、吠えるように言った。


『何故、受肉できるだなんて思ったの?』


「は?何故、って私は、シュブ=ニグラス様に適合させるために美しい人間の身体を」


『なら。』


私は、ノワールへと顔を寄せ、満面の笑みで答えを伝える。


『“彼”に受肉させようだなんて、到底無理な話だよねぇ?』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」



沈黙が辺りを支配する。



私は“彼”に、声をかけてあげるように促す。

彼は少し困った顔をしながらも軽く咳ばらいをし、意を決したようにノワールに向かって言った。


「俺は正真正銘、男だ。美しい服装が似合うからこの衣装を身にまとっているに過ぎない。」


その声は、テナーの、男性らしい低い声だった。


それを聞いて、ノワールが絶望したように声を上げる


「ならば私の行動は全て、」


『そ。無駄だった、ってわけ。』


くすくす笑いながら私は答える。


がっくりうなだれたノワールを見て、私は内亜へと声をかける。


『内亜、こっちの後は任せて。彼、クローネ・グランベリーをよろしくね。』


内亜は私の声を聞いて安心したのか、ほうっと力を抜きかけてから頷き、戸惑うグランベリーを連れて影の中へと消えた。


そして、残されたのは私と、うなだれたノワールの二人だけ。


『何年かけたか分からないけど無駄だったね。残念。‥‥‥‥‥‥あぁそうだ。よくも私の相棒をいじめてくれたね。その分、しっかりとお返しさせてもらうから。』


私はくるりんっと楽し気にステップを踏みながら距離を取り、影から取り出したジェミニを構える。


「はは、ははははは」


壊れたように笑いながら、ノワールはそれでも私を視界にとらえると、無表情になった。


「そうですよ、女性の肉体でなかったのは失敗でした。けれど、貴女がいるではありませんか。貴女を使えばいいじゃないですか何にも問題ありませんとも私はまだ何も失ってはいないのですよ貴女の強大な魔力を使えば受肉など一瞬ですほら簡単なお話ですそれではその肉体をいただかなくてはなりませんねだって受肉すべき肉体に精神があってはなりませんからほらあの生意気な口を閉ざして壊れないようにだけ気を付けながら肉体を得れば済む話ですほら早く身体を手に入れなければ主様をお呼びしなくてはお待たせして申し訳ございません今すぐに新たな肉体を献上しますから」


そうブツブツと呟きながらゆらり、とノワールは立ち上がった。


『悪いけど、契約者はもういっぱいいっぱい。貴方の相手はすぐに終わらせて、寂しがりな相棒に元気な姿見せてあげないとね。』


私はジェミニの安全装置を外し、ノワールの眉間へ向けて問答無用で開幕の一撃を放った。





流石に一気にやりすぎましたがまだまだ続きます。

くるり狂った死の舞踏の始まりです。

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