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[四章]フォレ・ノワール【Ⅰ話】

そういえば初詣に昨日行ってきましたが、奇跡の大吉!!人生初で嬉しいのでお財布に入れて持ち歩いてます



『‥‥‥‥‥だめだ、戻し方分かんない。』


日の射さない深い森、木にされた人間達を元に戻す方法を暫く模索していたが、下手に傷をつけることもできず、お手上げ状態だった。


「俺の方もだめだこりゃ、てか数多いなぁ」


ぶらぶらと歩きまわっていた内亜が言う。


私は辺りを見回すが、それなりの密度で服を着たような木が存在していた。

元々人間だったであろうことが見た目から分かるようになっていた。


『隠蔽とかしてないみたいだけど、これ帰れなくされてるやつ?』


私は内亜に問いかけてみる。


内亜は、しばらく考えてからへらりと笑った。


「帰る気あるの?」


『無い。』


「じゃあその質問の答えはNoだ。」


全く、本当に意地の悪い言い方をする。


『そろそろ、魔力の濃い方も行ってみる?』


嫌な気配の強い、森の奥の方を見ながら内亜に聞いてみる。


「そうだね。ここからは離れないようにしよっか。」


そう言って内亜は私の影の中へと身を潜めた。


『これ一応隠しとこうっと』


内亜が出してくれたマントを、服の裾の中へと隠す。


さっき説明してくれたところからすると、このマントには姿を隠す魔術を施しておいてあるらしい。


誰かと出会ったときにこのマントを着ているとバレないそうだが、人間を探している時には少々都合が悪い。


「消してもいいけど?」


内亜がそう言うが、私は首を横に振った。


『何かあったときに使えるかもしれないから。』


そう言って森の奥へと進む。


変わらない風景の中しばらく沈黙の時間が続く。


一瞬、蜘蛛の糸に引っ掛かったような違和感があった。

辺りにはさっきまでなかったはずの薄灰色の霧が立ち込めている。


『内亜、ビンゴかも?』


私は歩みを止めて影へと話しかける。


「そうだね。この霧、魔力がこもってる。」


そう言いつつ周りを見渡す。


そして一つ、見逃せないものを見つけた。


『内亜、あれ』


そう言って私が示したのはひときわ大きな木。いや。あれは木ではない。


黒く寸胴な幹の上側からロープ状の物が枝分かれしているさまは木のように見えなくもない。


しかし、その胴体はねばねばしたゼリー状の質感で、いくつもの皴寄った口から緑色の涎を垂れ流している。


根元に当たる位置には蹄のついた二本の足が生えており、枝のように張り出した触手は今は静止している。


すえた腐臭を漂わせながら佇むそれは“神話生物”だ。


「黒い仔山羊、だね。何故か静かなのは疑問だけど。」


『でも、シュブ=ニグラスがいることの証明にはなるんじゃないかな。』


目の前の大きな黒い塊は“シュブ=ニグラスの黒い仔山羊”と呼ばれ、シュブ=ニグラスの配下とされている。


けれど、彼女は確か知性を失っているはず。何故これが静かなのか考えつつ、さらに森の奥へ進む。


すると、急に木々の開けた場所に出る。


外装からしてきちんと手入れをされている、とても豪華な屋敷が建っていた。


『こんなところに建物‥‥‥‥?』


「ようこそ、お嬢様。」


外壁を調べていると、唐突に声を掛けられた。


「葵、気を付けて。今気配感じなかった。」


内亜が忠告を飛ばす。私自身だってわかっている。そもそも建物があるならその場所や感覚の違いで何かを感じるはずなのに、この建物や声の主は見たり聞いたりするまで何の気配も感じ取れなかった。


『、ようこそ、って?』


ゆっくり振り返りつつ、ジェミニを相手から見えない位置で出現させる。


そこにいたのは、執事服に身を包む青年だった。


宵闇色の髪と黄昏色の瞳を持つ、片眼鏡をかけた執事。


「えぇ、眠りについている我が主に代わり、わたくしめが貴女様方を招待させていただきます。さぁ、屋敷の中へどうぞ。」


見た目は特に何の変哲もないが、私達の目の前に現れたからには隠し切れないものが一つ。


『‥‥‥‥‥‥‥』


魔力が、異常なほどに濃い。


そこで、最初に森に入る瞬間に感じた寒気を思い出す。


そう、あれは


(内亜みたい、だ。)


同族か、それ以上でも以下でも厄介すぎる。


(でも、シュブ=ニグラスの手がかりを探すには誘いに乗ってみるしかないか)


そう考えていると、その執事が困ったように眉尻を下げて言う。


「そこまで身構えないでいただきたい。主が目覚めた時にわたくしめが叱られてしまいますが故。」


『そんなこと言われても無理なものは無理。』


じりじりと距離を取りながら言う。


何よりこの執事はさっき私に向かって貴女“方”と言った。


つまり、内亜にも気づいているということだ。


「葵。いざとなったら戦闘になるよ」


内亜がいつもより数段警戒した声音で言う。


内亜まで緊張していることが影を通じて分かり、私は警戒心をさらに高める。


『‥‥‥‥‥‥招待には応じる。けど、そっちの狙いが分かるまで警戒は解かない。意味は分かるよね』


そう言うと、その執事はにっこりと微笑んで頷いた。


「えぇ、勿論お連れの方も是非ご一緒に」


少し、驚いた。


内亜に気付いていることを隠さないとは。


「ふふ、そこまで警戒されずとも。私めはあくまでただの執事でありますが故。」


「悪魔で、ねぇ。」


するりと内亜が私の前に現れる。


「えぇ。さぁ、御客人をいつまでも外で待たせておくものでもありません。中へどうぞ。」


そう言って綺麗なお辞儀をしてみせる執事。


狙いがあまりにも見えず、私は困惑して内亜の服の裾をつまんだ。


『内亜。』


「大丈夫。守るから」


そう言って、内亜は私に向かって微笑んだ。


その笑みを見てつい、一瞬気が抜ける。けれど、敵かもしれない人物の目の前であるということを再確認し、気合を入れなおす。


『分かった。』


そう言って、執事に誘われて中へと案内される。


中はとても暖かく、屋敷の隅々まで手入れがなされているのが一目でわかった。


『‥‥‥‥‥で?』


私は執事に向き合う。


「で、と仰いますと‥‥‥‥?」


そう言って小首をかしげてみせる執事。やっぱり内亜を相手にしているみたいだ。そう思う。


『君の名、正体。そして、君の目的は?』


私は周りの警戒をしたまま言う。


執事は驚いたように少し目を丸くした後に


「おや、私としたことが申し遅れました。私の名はノワール。あくまでわが主の執事、下級の奉仕種族ですよ。」


慇懃に、しかし優雅に一礼し、そう名乗った。







悪魔の名乗りにはあくまで、の制約を設けていますので今後登場するかなぁって感じですけど登場するときにはわかるようになっちゃってます

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